エピローグ
16話
午後の教室。
黒板をチョークが走る音が、軽快に続いていた。それは、何事もなかったかのように流れる、穏やかな日常の調べ。
峻はペンを置いた手を少しほぐすと、またノートに文字を綴り始めた。今日の講義は、以前なら「面倒だ」と放り出していたような退屈な内容も含まれていたが、彼はきちんとペンを走らせていく。
一つ一つの文字を丁寧に追うたび、内面が落ち着き、思考が整っていくのを感じた。
隣の席の陽菜乃も、同じようにペン先を滑らせている。彼女の横顔には、不安や迷いはなく、代わりに穏やかな微笑みが浮かんでいた。
時折、どちらからともなく視線を交わし、小さく頷き合う。
前の席で春川がふとこちらを振り返る。峻と陽菜乃の様子を見て、何も言わずまた前を向いた。
峻はノートを閉じ、深く息をつく。その息には、疲労と共に、満ち足りた安堵が混じっていた。
窓から差し込む昼下がりの光が、静かに彼の肩を照らしている。それは、あの「光の道」のように、彼らが選択した未来を祝福しているかのようだった。
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