【第13章 第二十九話「砦を突破せよ。その2」】



──階段を駆け上がった先。



薄暗い広間の奥から、多くの影が現れた。



闇に紛れるように、

無数の仮面兵士が、刀や槍を構え、こちらにジワジワと近づいてくる。



仮面から覗く、目は、異様なまでにカッと見開き、

獲物を狩る動物のようだった。



侍たちは、狩られる側の小動物になったかのように……一瞬怯んだ。



仮面の兵士たちの背後から、

別格の気配を放つ二つの影がゆっくりと姿を現した。



片方は、鋭く冷徹な目を光らせ、二振りの刀を腰に携えた男。

余裕ぶった動きが、何か不快感を覚える。



もう一人は、圧倒的な体躯を誇り、巨大な黒鉄の斧を肩に担ぐ男。

その腕と体は、自分の刀で斬れるのかと思うほど、筋肉が硬く張っていた。



二人の背後には、

それぞれ二人ずつ、顔を覆った黒装束の男たちが控え、主を護る影のようにぴたりと寄り添っていた。



霧丸たちは、敵とにらみ合い、攻撃の一手目を探りあっていた。



焦れたのは、斧の男だった。



「お前ら、何してる! はやくぶち殺せ!」



「おおぉぉぉぉっっ!!!!!!!」



仮面の兵士たちが一斉に突進してきた。



それに呼応するかのように、侍たちも、敵に向かって走り出す!


「うおぉぉぉぉっっ!!!!!!!」



″ガキッ!!″ ″ガチンッ!!″ ″ガキンッ!!″



刀が交わった。



奥の男たちは、じっと様子を見ている。



権左は霧丸に声をかけた。



「霧丸っ! 多分、あいつらが大将だ。分かれて攻めようぜ」



「わかった!」



権左は続ける。



「おいっ! 弥太郎と蒼汰、霧丸を援護しろっ! 宗近と兵衛は、オレとあのデカブツ退治だ!」



「おうっ!!」



四人が答える。



霧丸は、二人と目を合わせ、仮面の兵士を倒しながら、徐々に、二刀流の男の元に向かう。



二人も、敵をかき分けながら、霧丸に合流してくる。



弥太郎は、陣では伝令や指揮補佐も担っていた中堅どころだった。親しみやすく

気が利くところも仲間には人気のようだった。



蒼汰は、まだ経験の浅い若者だが、やる気と熱意があり、権左からは可愛がられているようだった。



ようやく、二刀流の男の前に、三人は立った。



「なんだ、なんだ?オレを殺りに来たのか? 」



ペッ! と唾を吐き、



「しゃらくせぇ! こっちが殺ってやるぜっ!!」



男は胸の前で腕を交差させ、腰の二振りの刀を引き抜き、そのまま向かってくる。


背後の黒装束の二人も一緒だ。



「弥太郎、蒼汰っ、油断するな!」



「おう!!」



″ガッ……ガッガッ、キッキーーーン!!!!″



六人の刀がぶつかり合う、



二本の刀を受け止める霧丸。

弥太郎も蒼汰も、黒装束相手に必死の形相だった。



弥太郎が叫ぶ


「蒼汰、こいつら強いぞ!」


「大丈夫!…… いっ、いけますよ!」


蒼汰が苦しそうな顔をしながらも、強がって答える。


弥太郎は、フッと笑って、叫ぶ。


「こっちは大丈夫だ! 霧丸、そいつを頼んだっ!」


「わかった! お前らも油断するなっ!」


霧丸は、二刀流の男と向き合っていた。


「フン、オレもなめられたものだな……ならば、いくぞ!」


二本の刀が霧丸に向かって振り下ろされる。


左上からの刀を弾くと、右上から刀が降ってくる。


それも弾くと今度は、下から上に切り上げるように振り下ろされた手が、刃を返し戻ってくる。


その繰り返しの連撃に、一瞬たりとも気をそらせない。



──気をそらしたら、負ける



こちらの攻撃を出す隙を与えない。



──こいつっ、疲れを知らないのか



その時、


「おらぁぁっ!!」


弥太郎と蒼汰が、男に刀を同時に振り下ろした。


二刀流の男は、さっと後ろに距離をとって、かわす。



「お前ら…… 倒したのか?」



「なめんじゃねぇぞ! お前こそ何てこずってんだよ!」


弥太郎が答える。



「そうだぜ! 早く、あの優しい姫様、助けに行かなきゃ!」



蒼汰も続いた。



隣を見ると、権左達も黒装束の男、は倒したようだった。



「よし! お前らいくぞ!!」



「おう!!」



三人は、敵に向かって刀を振り下ろす。



「うおぉぉっ!」「どりゃぁっ!!」「うりゃあっ!!」



二刀流の男は、さっと身をかわし距離を取った。



「フン、三対一か……


だが、ひとりずつなら……


どう……か……なっ!!」



最後の言葉を言い終わる前に、男は、蒼汰に向かって一直線に向かってきた。



「うっ、うわっ!!」



身構える蒼汰。



「させるかっ!」



弥太郎が、蒼汰の前に立ちふさがる。



″ガキンッ!″″バキンッ!″



弥太郎が、敵の右刀を払い飛ばし、左刀は、蒼汰が払い飛ばした。



「下からくるぞっ!!」



霧丸が叫ぶ。



敵の交差し下に向いた刃が、上向きに返され、跳ね上がるように、二人に戻ってくる。



返しのあまりの早さに、二人は刀を戻すのが一瞬遅れた。



「よけろっ!!」



霧丸が叫んだ瞬間、



″ドガァッ……ズズズザァァ…!!!″



二刀流の男は、横に吹っ飛んだ。



倒れた男を見ると、首横に刀が刺さっていた。



刀が刺さった方向を見ると、

権左と一緒に戦っていた兵衛が、立っていた。



兵衛は指南役で、かつては、城で剣術や戦法の教官だったが、今はその任を離れ、

陣では、若手の指導役を務めていた。



「蒼汰! 油断するなといつも言っておるだろ!」



「……すいません」


──教官癖は抜けてないようだ。



権左達は、あのデカブツは倒したようだった。



霧丸は、兵衛に近寄り、



「ありがとう、おかげで助かった」



「何……姫様を助けるのだ、こんなところで死ぬわけにはいかんだろ」



「…………」



「幼き日から知っておるが、あの小さかった娘が、国の為に身を捧げるなどあってはならん!!」



霧丸は、兵衛の真剣な眼差しを見つめた。



「……そうだな」



権左と宗近も駆け寄ってくる。



「こっちは片付いたぜ、他の奴らもあらかたな……ただ、何人かは死んじまったが……」



権左は、何本かの刀を抱えていた。

それを背中に括り付け、言った。



「さ! さっさと姫様を助けて、この刀を家族の元に届けてやらねぇとな。


姫様を助けるために、立派に戦ったってな……」



皆、黙って、倒れた兵たちを見つめる。



「皆……姫様を慕っておった。姫様の為に、死ねたなら本望であろう」



宗近も、珍しく口を開く。


宗近は与力で、陣でも口数は少なかったが、冷静沈着で、熱血漢の権左の右腕となり

組を支えていた。



霧丸は、皆の顔を見て思った。


──皆、疲れているだろうに、いい顔をしている



霧丸は、ふと呟いた。


「凛……お前の気持ちは、みんなに伝わっているんだな……」



「ん? なんか言ったか?」


権左が、耳に手をあてて、霧丸に顔を近づける。



「い、いや、何でもないっ!……」


霧丸は、ゴホンっと咳ばらいをし、皆に声をかける。


「さぁ、いこう!! 姫の元へ!!」



「おうっ!!!」



──六人の手が同時に上がった。




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