第16話胎動

 それは高圧力、高温の世界で生れた。そのあまりあるエネルギーを利用して余剰次元に身体の一部を置く事によって存在しているものだった。

 その状態で知性を持つに至ったが、それを育んだ世界は崩壊の道をたどっていた。

 それを推察したそれは自らを包む殻を構成して更に彼を育んで来た世界の一部を大きく切り離してその世界から飛び出して遙かな旅に出た。

 その長い旅の間それは自らの根源を守るために眠りについた。


 そして遙かな時の果てにそれはこの地にたどり着いた。

 その大地に墜ちる衝撃で目覚めたそれはその地に多様な存在が居ることに喜びを覚えた。

 更に驚いたことにそれの知性を受け止めることの出来る存在もいたのだ。

 それはしばしその交歓を楽しみ、その小さな命にそれの力の一部を与えた。

 その命たちはその力でその地の安寧をもたらした。

 しかしその力を占有せんとする勢力が現れ、その過ちによってそれの力の一部がはじけ、飛び散り破壊をもたらした。

 それは悲しみ、また力の一部を失った為に大地の深みに沈んだ。そこはそれの居た世界に近い力に充ちた環境。それは再びの力を取り戻す為の眠りについた。

 その眠りは夢でもあった。地上にまだそれと繋がった者達からの想念が届いていたからだ。

 そしてそれは今、眠りから覚めつつあり地上には更にあの時より多様な社会が広がっている事が伝わっていた為に、そっとより多くの情報を得るためにその根を各地に向けて伸ばした。その根はそれの余剰次元の力と地上の想念が入り交じりダンジョンとして形を作り、地上の者達の想念をもとにしたち生物も住むようになった。

 ダンジョンはそれの眼であり、耳であった。そして地上の存在との新たな接触地点であった。

 以前のような失敗は地上の多様な社会に直接的なものは危険であろうことは推察できたのだ。

 それでもそれだけでは物足りないものも感じ、より直接的に世界を知るための何かを求めていた。



「お母様。あの方が“導く者”なのでしょうか」

「瑞葉。そうかもしれないわね。

 瑞穂が兆しを得たのは見たけれど、あの子にはその責務を感じさせないようにしてたわ。

 あくまであの子のやりたいことと気持ちを大事にして欲しかった。

 あの人のように入り婿であったことから責務に追われ、むしばまれる事のないように。

 瑞穂が探索者の道に走ったのはあの人の血かもしれないわね。

 あの人は自分は探索には向かないからと探索者協会を立ち上げたり、ダンジョンアイテムの運用ルートを探したりしてたけど、自分も本当は冒険したいと思っていた。

 ダンジョン開発を世界が求めるようにするのが御柱様にも連なる道だからとごまかしていた。

 それがあの人の命を縮めてしまった。そんな事が瑞穂に起こらないようにしていたけれど、あの子は朝倉様に出逢った。

 でも、さすがに私の一族である娘をテイムするとは想定外だったけれどね」


 桜川家の片隅に御柱様を祀る祭所があり、御柱の形代が安置されている。

 連なる者に伝わる神代文字でオオムナチと記された祭壇の中に形代の遮光器土偶に似たそれが安置されていた。

 世界は新たな理を求めて胎動を始めていた。

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