第13話 支配の手順

本章は全年齢版に編集しております。

原作版(R18)はエブリスタにて掲載中で、現在は(2025.8.29)第61話まで公開しています。

よろしければそちらもご覧ください。


僕の中に眠る君─愛という名の支配─

https://estar.jp/novels/26447179


※暴力・精神的支配などの描写を含むため、閲覧はご自身の判断でお願いします。




脱出失敗の日、その日から……怜司は変わった。


時計の針が23時を指した時、壁に設置されたスピーカーからピ、ピ、ピという機械音が流れた。

それを合図に、壁へと進んだ。


壁を背に両手を、頭の上で組み、そのままの姿勢を保持する。目線は自ずと下へ下がった。


解錠音が鳴り、笑み一つないまま、怜司が入ってくる。

真琴はホッとしていた。

両手の疲れが怜司の来訪によって、もうすぐ解放されることが、暗に示されたからだ。


怜司は真っ直ぐにこちらに進むと、冷たく言い放った。


「今日の失敗は3回だ。何かわかる?」


真琴は怜司の問いに応える。


「食事の時、音を立ててしまいました。

歩行訓練のとき、躓きました。

怜司に話しかける時、“怜司”と呼ぶのを忘れてました……」


怜司はノートにメモを取り、頷きながら聞いている。

真琴が話し終えると怜司はノートを静かに閉じ、テーブルに置いた。

そして、少しだけ首を傾けて微笑みながら、言った。


「それと……」


「腕の保持が甘い。……僕の前で手を下ろすつもりだった?プラス2回だよ」


真琴の背筋が凍りつく。

逃げようのない中、怜司は真琴の両腕に触れた。


「真琴、見て」


怜司の言葉を境に、視線を逸らすことが禁止される。


「一回」

怜司の手が頬に触れる。


「ニ回」

顔を伏せてしまう。瞬時に怜司は真琴の顎を持ち上げる。


怜司がドラマでよく見せた“あごクイ”。


ドラマの中で、怜司は何度、これを女性に行ってきたのだろう。


「目を逸らさないで」

怜司が容赦なく言い放つ。


「三回」

視線が僅かに揺れた。それを、見逃すことなく怜司はそっとつぶやく。


「目は逸らさない。わかった?」


答えようとするも、すぐには言葉が出てこない。

視線を下に逸らしてしまった。


「…………」


その瞬間。

怜司は真琴の髪を触り、ゆっくりと覗き込んだ。


「聞いてるの。聞こえてない?」

無表情で、低く静かな声がどこまでも不気味だった。


「……はい」

怜司は満足したように微笑んだ。


「四回」

また、感情のない顔を向ける。


──泣きたくない……泣いたら負けだ──


だが、涙が一滴、頬をつたった。


怜司は優しくその涙を、左手の指で拭うと、もう一度真琴の頬に触れた。


「五回目……頑張ったね。真琴。」


怜司はそう言うと、優しく髪を撫でた。怜司は背を向けて、部屋を出ていった。


真琴は壁にもたれかかり、倒れるように座り込む。


また、明日も続く……。


真琴はそのまま眠りについた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る