偶像婚
コノミ カナエ
第1話 実(みのる)
一人息子の
父親によく似ていた
睡眠薬を飲み、それから川に入り、眠るように溺れて死んだのだろう。
生前に何もしてやれなかったという後悔から
――息子を
後部座席に積んでいた荷物とは
一重で軽やかでない瞼が眠たげに見えるのは隙とも見えるし、やはりそこが女性的にも思える。流し目と言えばそれが一番近い。その視線の先に
儀式めいた祈りを捧げて、それからいくつかの説明を受ける。朝子は何度も頷きながら涙を拭くのにハンカチを濡らした。これで
これらは所謂、「人形婚」だとか「冥婚」と呼ばれるもので、朝子は一人息子のためにそんなことをしてやった。自己満足だということは分かっていたが、インターネットの記事になっているのを見つけてしまったら止まれなかった。それ以外の検索履歴はネガティブなものばかりだったのに、息子の結婚を考えるようになると気分も悪くならない。息子が死んだ川を見ても、入浴中に顔を洗っていても、明るい話題を頭に浮かべて「花嫁にどんな服を着せるべき?」と楽しく悩んでいた。
枯れ葉をサクサク踏みしめながら車に戻ると、すっかり軽くなってしまった後部座席と助手席に寂しさを感じる。朝子は昔の呼び方で息子を惜しんだ。
「
助手席がまた軋むと朝子は嬉しくなった。息子が喜んでいる。綺麗な年下の花嫁をもらって、それを母に嬉しいと報告している。
「
助手席が再び軋む。朝子は寺から離れると車内から初雪を眺めて、ハンドルを握り直した。
「やぁねえ。冗談じゃない。でも、
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