15. ハンナをまた鍛えよう




俺が目覚めると、ハンナとギンガが俺の顔を覗き込んでいた。

「待たせたか?」


俺が聞くと、


「私が起きてから10分くらいです。」

とハンナが答える。


まあいいか。


俺が寝ているうちに、ハンナが採集した薬草を整理していた。


「薬草の数はどうだった?」


「普通の薬草で10束100本、中薬草4束20本、

上薬草1本です。あとは端数が数本。」


「そうか。じゃあ今日はこの辺で十分だ。今度は俺とギンガだな。」



「はい。」


「じゃあギンガ、行こう。」


「ワン!」



「ギンガ、ウサギとかほかの魔物とか動物とか、いそうなところを探そう。

探せるか?」

俺はギンガに聞く。 ハンナがいるので、これは口に出して言う。


「ワン!」

わからないようだ。



「じゃあ、適当に探そう。お前が先に行くか?」

「ウウウ」


「じゃあ、一緒にゆっくり行こう」

「ウォン!」


俺たちは歩き始めた。


「あ」


ハンナが声を出す。

「どうした?」


「あの、上薬草があるんです。」


上薬草は一本で大銀貨2枚だ。2万円になる。

普通薬草の10本で銀貨1枚(つまり1本100円)、中薬草の5本で銀貨2枚(1本400円)とは全然違うのだ。


俺はハンナに言う。

「ハンナ。抜いたら生えなくなってしまって、将来困るよな。」


「まあ、そうですね。」


「抜いた場所に、同じものが生えるように念じてみろ。上薬草は貴重なんだ。根を残すことはできないが、根っこのひげを一本残すくらいならいい。」


「…やってみます。」

ハンナはいつも俺に忠実だ。


ハンはは上薬草のところへ行き、じっと薬草を見つける。

そして上薬草を抜き、そのままその場所をじっと見つめる。


ハンナが動かなかくなった。

気を失ったわけではなく、集中しているのだ。


そのうちに、「ふーっ」とため息をついて、戻ってきた。


「根っこのひげから芽が出ました。多分これでそのうち生えると思います。」「


こいつ、本当に素直だな。俺が言ったらできると思っているようだ。そして実際にやってしまう。ある意味凄い才能だ。


「おお、偉いぞハンナ。これからは、上薬草では必ずこれをやってくれ。」


「わかりました。」

たぶんこれでマナも消費するだろうが、それも鍛錬になるし、いいことだ。


俺たちはまた進む。


(ウサギが二羽いるよ)

念話でギンガが言ってくる。



(よし、そっちへゆっくり歩こう。)


俺とギンガが道を変える。

「え?」ハンナが言う。


「シッ」俺はハンナに言いながら指を口にあてる。

ハンナもうなずく。


ウサギが見えた。まだ遠い。

ちょっと試してみよう。


俺はテニスボールくらいの大きさのぬるぬる球、ぬる中を手の中に出した。


ウサギに投げる。外れた。ウサギはこちらに気づき、逃げ出した。

「ギンガ、こっちに連れてきてくれ。」


「ワン!」


ギンガは走り出す。

ウサギの先い回り込んだ。


ウサギは方向を変える。自分から攻撃するときは角を使うが、攻められたときには基本的に逃げる、臆病で弱い魔物なのだ。

ギンガはうまくウサギを追いかける。


俺はウサギの前に大きなぬるぬるの球を出した。


ウサギはそれに飛び込んでもがく。

だがぬるぬるはウサギを逃さない。


そのうち窒息して動かなくなった。


俺はぬるぬるを消す。


「ギンガ、もう一匹狩って、持ってきてくれ。。」


「ウォン!」


ギンガはすぐに走り去ると、ウサギを狩り、持ってきた。


「よしハンナ、解体の練習をするぞ。」

俺は言う。


「…やり方がわかりません。」


「安心しろ。 俺も知らない。」


自分で言っていて、どこが安心要素なんだ、と突っ込みたくなる。



「練習だ。別にウサギの1-2羽、どうでもいい。俺たちはこれから自分でやらないといけないからな。」



「…わかりました。」

「まずは血抜きだ。首元を大きく切り、足から逆さに吊るして、血を抜く。」


ハンナは二羽のウサギの首もとを切り、その辺の木に逆さづりにする。


「じゃあその間にまずは移動だ。近所に川があるから、そっちに移動する。」


「え?そこで血抜きをすればよかったのでは?」 ハンナが言う。


その通りだ。


「いや、血抜きは早く始めたほうがいいんだ。」俺はごまかす。


「そうなんですね。勉強になります。」ハンナが感心したように言う。


ちょっとだけ罪悪感を感じるが、気にしないことにする。



「ここをまっすぐ行けば河原だ。先に行って、穴を掘り、石を積んで、かまどを作ってくれ。」

「…はい。わかりました。」



ギンガが「ウォン」と鳴く。

「ハンナ、ギンガが先導してくれる。走れ!」


「はい!」ハンナは走りだした。これでさっきの疑問を考える暇はなくなるだろう。


俺はウサギと荷台を持ってゆっくり進む。

血抜きのため、逆さ吊りのウサギは持ったままだ。



河原につくと、ハンナは石を積み終わっていた。

中は少しだけ掘られている。


「じゃあ、先にウサギをさばこう。胸からまっすぐ体の下へ切れ込みを入れてくれ。

できれば尻の穴の近くまで。」


ハンナが自分のナイフで腹を裂く。


「じゃあ、内臓を手で取りだして、そのあと川の水で洗ってくれ。」

ハンナは無造作に内臓を取り出して土の上に投げ、川へ入ってウサギを洗う。


ギンガが念話してくる。


(ねえ、内臓食べてもいい?)

(お前、こんなもの食べても大丈夫か?)

(うん。むしろ好物だよ。)

(ならいいぞ。)


ギンガが内臓を食べ始める。


俺はハンナに声を掛ける。

「もう一羽もやってみる。」

「はい。」


ハンナはもう一羽も内臓を出し、川で洗う。



「じゃあ、皮をはいで、肉と骨にしよう。

やり方わかるか?」


「…わかりません。やってみます。」

ハンナはそう言って、悪戦苦闘を始めた。



俺はその間に枯れ枝と枯れ葉を集め、かまどに入れる。


火をつけるのが面倒だ。

こんなことなら冒険者用スターターキットを買っておけばよかった。


ふと気づく。これでどうだ?


俺は透明なぬるぬるを少し手に出し、凸レンズの形に固める。

これで太陽の光を集めると、あっという間に火が付いた。


やはりぬるぬる魔法は便利だな。 まあ、夜は火をつけられないから、やっぱり火おこしの道具は必要だろうが、


俺はハンナのところに行く。


「ハンナ、解体はどうだ?」




ハンナはうなだれる。

「一匹分は肉を取りましたがけど、毛皮はぼろぼろです。

もう一匹分は、何とか毛皮をはがしましたけど、肉がぼろぼろになりました。ごめんなさい。」


泣きそうになっている。

俺はハンナに近づき、ぎゅっと抱きしめて、頭をなでる。

「大丈夫だよ。最初は誰でも失敗するさ。


肉もとれたし、毛皮も取れた。それでいいじゃないか。肉の崩れた分は、きっとギンガが食べるよ。」


ハンナを離し、俺は笑う。

「さ、肉を焼くぞ」


ハンナは涙目ながら笑顔を見せた。

「はい!」


ガキに興味のない俺でさえドキッとしてしまうような、素敵な笑顔だった。








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