9. ハンナを鍛えよう(2)
「よーし休憩。」俺はハンナと畑の端に腰を下ろす。
太陽も強すぎず、風が気持ちよい。
「ハンナ、凄いじゃないか。素晴らしい!」
俺はハンナを誉める。これは本心だ。
スキルの原理の検証をするなら、草取りのようなシンプルなスキルが一番だ。
「えへへ。」ハンナも嬉しそうだ。
「このあとは、あの大きさで草取りをして、何回やったら疲れ切るかを検証だ。そのためには、ちゃんと回復しとけよ。疲れが残っている状態では、検証ができないからな。」
俺はそう言って、ハンナの前に立ち、ハンナのエメラルドグリーンの目を見ている。
「ハンナ。無理をするな。それから、嘘はつくな。疲れているときに、元気だっていうのは絶対にダメだ。」
「え…」
ハンナは戸惑っている。
「疲れたときには疲れたと言ってくれないと、いざという時に計算が狂う。それは命とりだ。
ハンナが疲れているのに無理に『大丈夫』なんて嘘をついて、それを信じてハンナをあてにしていたら、いざというときにハンナが倒れるかもしれない。そうしたらパーティは壊滅だ。
ハンナ、俺を殺したいのか?」
俺はちょっと脅かす。
ハンナは全力で首を横に振った。
「ならいい。あと、どれくらい体力が戻っているか、自分でもある程度つかめるようになれよ。」俺はちょっと無茶ぶりをする。
「わかりました。いま、七割くらいだと思います。」
「もう少し待とう。」
「はい。」
俺は寝転がって空を見る。
青い空が広がり、白い雲が風にたなびいている。 小鳥も飛んでいる。
「ハンナ、スキルって何だと思う?」
俺は唐突に聞いてみる。
「え…神様が人間に与えた恩寵、でしょうか。神殿ではそう習いました。」
「でも恩寵なら、どうして当たり外れがあるんだ?「
「それは、神様の試練でしょうか。」
「だとしたら神様とやらはずいぶん不公平だな。」
俺は言う。
「神はたぶん実在する。
この世の中のシステムを作り上げたやつだ。
だが、神は万能じゃない。全員にいいものを与えることはできない。
天賦の才は、儀式で与えられるものじゃなくて、それぞれがどこかで得た物だと俺は思っている。
あの儀式は、それを読むだけだ。」
「そう、なんですか…『しすてむ』ってなんですか?」
ああ、ちょっと難しかったなあ。
「俺たちに必要なのは、スキル、魔法あるいは職業を使いこなすことだ。それによって、新しい展望が見えてくる。
ハンナのスキルは、まだ本来の1%くらいしか使われていないと思うぞ。それを発展させるんだ。」
「…頑張ります。あ、そろそろ全回復です。」
「よし、じゃあ、さっきの大きさでやってみろ。」
「…頑張ります。」
結果、ハンナは、2メートル四方くらいを一度に草取りして、10回継続できることがわかった。
魔法やスキルのエネルギーのもとをマナを呼ぼう。
一回のマナチャージで40平米か。何とかギリギリ開墾に使えるな。
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それをもう一回やったら、畑の半分以上、三分の二くらいの草取りが済んでいる。今度は12回できた。これは効率があがっているのか、マナポイントが増えているのか、どちらだろうか?
ああ、ステータス検証したい!
俺はハンナに言う。
「じゃあ続きをやろうか。今度は、大きさはあのままでいいから、畑の端から端まで一列やってくれ。あ、大きさが違うところは重ね合わせていい。とにかく取り残しの無いようにな。」
「はい。」
ハンナは、畑の端からから端まで一列、きれいに草取りをした。
と言っても、手をかざすだけの簡単なお仕事だ。それだけで草が自動的にとれて、畑の外に積み上げられていく。
これが、本当のスキルの力か。人力の草取りは太刀打ちできないようだ。
草取のあとは、地面が掘り返された感じで柔らかくなっている。荒地の開墾なら、ハンナ一人で結構何とかなるかもしれない。もちろん体力の問題はあるがな。
「体力はどんな感じだ?」
「うーん。残り3割くらいですか。」
「じゃあ、ちょっと違うことをやろう。」
俺はそう言って、さっきの半分くらいの四角を描いてみた。
俺はハンナに言う。
「ハンナ。よく見て見ろ。白い花のつた草と、青い花の草と、葉っぱだけの草、三種類が生えているな。」
「はい。」
「青い花だけ取ってみろ」
「…やってみます。」
ハンナが試行錯誤しているうちに、「もうダメです。」そう言ってへたり込んだ。
まあ仕方ない。
「回復するまで話の続きをしよう。」俺は言う。
「俺は思うんだ。魔法とスキルは、基本的には同じものだと。」
「え?スキルは魔法ではないですよ。」
「それは、人がそう思い込んでいるだけだ。魔法もスキルも、たぶん同じ力を使う。別の場所ではMPと呼ばれるものとがあり、魔法だけに使えるものと思われている。
だがこの世界は多分違う。スキルにも同じ力を使うんだ。
俺はこれをマナと呼ぶことにする。マナポイントを使って、スキルも目方も差うするんだ。
マナポイントがなくなれば倒れる。 さっきのハンナみたいにね。」
「そうなんてすか?じゃあ、マナポイントがいくつあるか見えれば、スキルの使い方も変わってきますね。」
「お、いいところに気づいたな。その通りだ。
少なくとも俺は、自分のそういう状況を見られるようにしたいと思っている。」
「アレンさんはすごいです。」なぜかひさびさに「アレンさん」と呼ばれた。
「それは実現できてからな。ハンナ、回復具合は今どんなだい?」
「そろそろ全回復です。」
「よし、青、白、草で分けて、休憩しながら残りを全部やっていくぞ。」
「はい。」
それから何度か休憩をはさみつつ、ハンナは全部の草取りを終えた。最後のほうは、青と白の花もしっかり分けられた。
「終わったな。ギンガはどうしてるかな?」
「ウォン!」ギンガの声がする。
いつの間にか戻っていたようだ。
草の山の横に、モグラの死体が4つ並べてある。
「おお、モグラ退治したのか。偉いぞ!」
俺は頭をなでる。
「ウォン!」 ギンガは嬉しそうにまっすぐ立った尻尾を振る。
そこへちょうどよく、アダムさんがやってきた。
「アダムさん、終わりましたよ!」
俺が言うと、アダムさんは驚いた。
「え?もう?」
ちょうど太陽は天の真ん中にある。
アダムさんは畑を見て、「本当だ…」と言う。
「ついでにモグラ退治もしましたよ。」:
「おお!「」アダムさんは感激していた。
アダムさんは銀貨二枚を出してきた。
「モグラの分もあるし、二枚渡すね。 明日もあっちをやってくれないかな?」
俺は答える。
「明後日でよければ、銀貨3枚で向こうの一区画やりますよ」
ちょっとだけ値上げだ。
「ああ。それでいい。頼むよ。」
アレンさんは即決した。
「毎度あり~」俺はそう言って笑う。
「じゃあハンナ、戻るぞ。」
「はい。」
俺たちは、ステンマルクの城壁の中へ戻ることにした。
俺は思い出して言った。
「ギンガ、モグラの肉は食べるのか?」
「ウォウォーン」
「そうか、まずいから喰わないのか。ならそれでいいな。」
俺たちは足取りも軽く、戻っていく。
俺はハンナに言う。「銀貨二枚稼げたな。おめでとう。」俺はそう言って、ハンナに銀貨を二枚差し出した。
「全部、アレンさんのおかげです。アレンさんが貰ってください。」
「いや、これは共同作業だな。一枚ずつにしよう。それでいいか?」
「…はい。」
「ハンナ、今はギルドに泊まって一泊銀貨1枚、食事が一日銀貨2枚として、毎日銀貨3枚を稼がなければ生きていけないんだよ。」
「…はい。」
ハンナの素朴な顔が少しこわばる。ちょっと浮かれていたが、現実を直視してしまったんだろう。
「まだ、一枚じゃ足りないんだ。頑張ってな。」
「…頑張ります。でも、頑張り方を教えてくださいね。」 ハンナは決意したようだった。
あどけない顔が、真剣になっているのがわかる。
ちなみに、俺は昨日結構稼いだので、慌ててはいない。
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