第2話 美しい日曜日
今日は自分の処刑日だった。
外は明るく、海岸で男が死ぬような美しい日。
風が優しく吹きつけていて、ボートから落ちた少年が泉の下で安らかに眠る、そんな日曜日。
カロ・メクメッサは満ち足りた気持ちで、暗くて湿った地下牢を出ていった。
ところであなた方は、カロのようなどうしようもない殺人鬼には、カビ臭い暗闇がお似合いなのだと思うだろう。もしくはそうあって欲しいと願うに違いない。
パリの汚物と犯罪に塗れた裏路地で、誰にも愛されることなく生まれてほしい。
5歳でスリに手を染め、強盗を生業とし、殺人鬼になるべくしてなってほしい。
最期はこの世を呪いながら処刑されてほしい。
と。あなた方はそう願うかもしれない。
しかし残念ながら、この男は陽気な性質で、太陽の光とサイケデリックなネオンを好む、健康的な男であった。
檻の中の生活によって傷んでいたが、髪は美しい金色であって、滑らかなオリーブ色の肌には傷ひとつついていない。
小金持ちの両親に正しく愛され、また両親を愛し、大きな犬を飼っていた。
美しい日曜日が似合う、そんな殺人鬼だった。
処刑場は人がごった返していて、熱気さえあった。
カロは頭に被せられたズダ袋越しに、スンと鼻を鳴らした。人々の頭から発せられる、粘土のような油臭い匂い。カロはそれだけで、自分の死がどれほど人気の見せ物であるかを知った。
それについては、特に何も思わなかったが。
老人のしゃがれた声が、カロの罪状を読み上げている。
内容が間違いだったので、彼は聞き流していた。
「計19名」と老人が言ったとき、カロは、そうだったかな。とぼんやり思った。
きっとそれより多いはずだが、彼に訂正の機会はないし、訂正する気もなかった。
老人が何か言い終えて、カロは後ろにいた役員にドンッと押され、また別の誰かにズダ袋を外された。
明るい。光だ。
カロはそれだけ思った。もはや群衆など見てなかった。ひたすらに太陽を見た。
一番眩しい光に惹きつけれる蛾のように。
だから、見物に来ていた友人がウインクを送っていることにも気がつかなかった。
どうにかして自分の血が見られたらいいのに。と、思いながらカロは断頭台に頭を差し込んだ。
後悔はしていないし、満足もしたが、欲を言うならシャンパンを飲みたかった。彼が一番好きな飲み物だった。
喉が渇いていた。
あ。頭の上で音が。
そして、カロは死んだ。
最後に自分の首の骨と刃がぶつかる音を聞いて、木琴みたいな音だ、と思ったが、彼は木琴の音を実際には聞いたことがなかった。
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