外伝 王宮の錬金術師①
私はアマリ・サンチェス。
以前はジーンくんことユージーン・フォスターとともにブレストフォード西錬金所で錬金術師として働いていた。
現在は従兄弟が設立した王宮冒険者ギルドで一般職員をしている。
表向きは。
「……錬金術師よ、賢者の石の製作は進んでいるのか」
──そう、表向きは。
「過去の文献から素材の特定は完了いたしました。賢者の石の素材となるのはやはり、金剛の牙、転移の羽根、火炎の妙薬、虹色の砂、そして生命の水です」
実際のところは、ギルド職員としての仕事のほかに、秘密裏に王のお付きの錬金術師としての役割を与えられている。
「良い。ならば今すぐにでも調合できよう」
「それが、私にはできないのです。必ず失敗して、愚者の石が出来上がってしまいます」
「ふむ、何故だ?」
「イメージの問題であると愚考しております……。こういった魔道具は、限界を知らない子どもの方が作りやすいのです」
謁見の間に呼び出され調査報告を伝えると、陛下──もとい叔父は分かりやすく不機嫌になった。
「……あぁん? 肝心なところで役に立たねえ奴だなてめえは?」
「叔父さん、暴君出てる、暴君出てる」
組んだ足を揺すり眉を顰めて舌打ちまでしだす始末だ。なんとも品がないし普通に怖いからやめてほしい。
「平民クソ野郎との混じりもんのてめえを誰が王宮に呼び戻してやったと思ってんだ? 王女譲りの頭脳と魔力をちったぁ王家に還元しろよ? なぁ?」
「……」
顎を掴まれて圧をかけられる。最近ギルドに入ったあの子なら喜びそうな状況だな、なんてどこか呑気に考えるが、私にそんな趣味はない。
「でも私、別に王宮に来たいなんてちっとも……」
「あぁん??」
別に元の職場に勤めたままでやれば良いと思っていたのに、機密情報を扱うから駄目だと言われ、半ば強引に職場を移らされたので、当然不満はある。
まあ王家の予算で研究が出来るし、ギルド職員として冒険者と町民を繋ぐ仕事もやりがいがあるし、業務内容自体は結構好きなのだけれど。
でも仕事の疲労感って業務内容よりも対人関係によって決まるな、と思うと、頑なに冒険者パーティに入ろうとしなかった人のことを思い出す。
彼なら叔父になんと言うだろうか。
「ちっとも思ってなかったので」
「躊躇ったかと思ったら普通に言いやがったな?」
せめて元職場に事情を説明したかったのに、王家の秘密に関わるからと説明さえも許されなかったのだから、少しくらい怒っても許されるんじゃないだろうか。
普段は周囲に有能なストッパー役の宰相や大臣たちが居るとはいえ、叔父は国家の長に向かなさすぎる性格だと思う。
と、話が逸れた。
「じゃあどうすんだよ? 結局作れねえの?」
「私には作れません」
「出来ませぇーんじゃねえよ、それをなんとかすんのがお前の仕事じゃねえの?」
煽るように露骨に大きくため息をつかれる。
心の底に黒い泥のようなものが溜まる感覚だ。前職の(一応)上司だった彼は本当に良い上司だったなとしみじみ思う。
「私には作れません……けれど、エミリア・ベーカー、あの子なら、もしかしたら」
名前を出して、思い浮かべて、少し気分が晴れた。錬金術の無限の可能性を信じられるであろう、天真爛漫なあの子なら、と考える。
「本当に作れるかもしれません……賢者のパンを」
「賢者のパンを!?」
自分と同じ反応をした叔父にどうしようもない血の繋がりを感じながら、どうしようもなく日常に戻っていく。
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