第11話

 アリスさんの挑戦的な声。


「さてジオ、お前はこの問題をどう解く?」


 数術で大切なのは方針だ。

 方針が正しければ、解ける問題は多い。と同時に経験値センスが露呈する。凡人か、そうでないか。方針を聞けば、おおよその検討が付く。

 つまり、私は今、アリスさんに試されている。

 だから、全力で答える。


「素因数分解を使います」


 すべての数字は、素因数の掛け算の形で書くことができる。これは言い換えれば、すべての数は素数という材料に分けることができる、ということだ。

 数字に注目するのではなく、材料の方に注目する解き方だ。

 図書館テレリアの術のなかでも、かなり高度な術だ。でも、その分、効果は絶大だ。

 これを使って、問題を解いていく。


 アリスさんは「ほぅ」とつぶやく。それから「続けろ」。


 一辺が700cmとなる直角三角形の斜辺を○cm。残りの辺を△cmとすると、直角三角形の性質から


700×700 + △×△ = ○×○


 となる。ここから逆算を使って。


700×700 = ○×○ - △×△


 さらに、図書館テレリアの秘術を使えば。


700×700 =(○+△)×(○−△)


 となる。


ここで、素因数分解を使うと


 700 = 2 × 2 × 5 × 5 × 7


 だから700をつくるには2が2つ、5が2つ、7が1つ必要だ。

 700×700だと、その2倍必要だから、2が4つ、5が4つ、7が2つだ。

 「=」で結ばれているから、(○+△)×(○−△)の部分も2が4つ、5が4つ、7が2つ必要になる。

 あとは、この「2」「2」「2」「2」「5」「5」「5」「5」「7」「7」を適当に分けて(○+△)と(○−△)を作る。


「アル! 2×2×5×7×7と2×2×5×5×5」

「980と500」


 つまり(○+△)が980。(○−△)が500だ。

 ここから○と△を算出する。

 その方法は難しくない。

 (○+△)+(○−△)= ○ + ○

 つまり、今出てきた二つの数を足してから半分にすれば○が計算できる。

 同じように

 (○+△)−(○−△)= △ + △

 なので、二つの数を引いてから半分にすれば△が出る。


「2つの数を足してから2で割った数と、引いてから2で割った数は?」

「740と240」


 ○が740。△が240だ。


 この2つの数でいいか確認しよう。


「700×700 + 240×240 は?」

「547600」

「じゃあ、740×740は?」

「547600」


 よし! これならば直角三角形ができている。オッケーだ。

 ──いや違う!

 700、240、740、だと3つの数字が20で割り切れてしまう。

 割り切れてしまう組み合わせは、ダメだと書いてあった。

 もう一度最初からだ。

 

「2×5×7×7と2×2×2×5×5×5は?」

「490と1000」

「足して2で割った数字と、引いて2で割った数字は?」

「745と255」


 これも5で割り切れてしまう。だめだ。

 割り切れないように数字を作るためには。


「2×2×2×7×7と2×5×5×5×5は?」

「392と1250」

「足して──」言い終わる前に、答えが返ってくる。

「821と429」

「700×700 + 429×429 は?」

「674041」

「821×──」

「674041」


 よし! 直角三角形になる。

 あとは、割り切れる数があるかどうか──。


 700を割れる数は2と5と7だ。

 821も429も、2や5では割り切れない。

 問題は7で割り切れるか、だ。

 頭の中で計算する。

 821÷7=117あまり2

 429÷7=61あまり2

 ──割り切れない。


" 見つけた "

 

「3辺の長さは、700cm、429cm、821cm。です」


 私の答えに、アリスさんは目を細め、鼻を鳴らした。

 天才の目からは、どう見えたのか。

 その結果が、告げられる。

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