37話

◆トリプルとバイオレット

「アースセイバートリプル!!」


 バイオレットの怒鳴り声がトリプルの耳を刺した。トリプルは、叫んだ。


「バイオレット!バイオレット!もう、止めて!!」

「やめるわけねぇだろ!ふざけんな!!」


 それから、トリプルとバイオレットの殴り合いが始まった。それでも、トリプルはバイオレットに呼びかけた。


「僕は!君と!もう!戦いたくないっ!!止めよう!バイオレット!!ねぇ!止めてよ!!」

「何を?」


 トリプルは、それからバイオレットに質問責めをし始める。


「星を壊して何になるのっ?」

「ジャイアント・キング・デストロイ様の命令だ!理由なんてねぇ!!」

「わかんないよ!何で、ジャイアント・キング・デストロイは、星を壊そうとしてるのっ?」

「知らねぇ!俺様たちの星は、宇宙唯一の星になる為に、俺様たちは、星を壊すんだ!ただそれだけだ!!」

「あんな酷い人の言う事聞く必要ないじゃん!」


 バイオレットは、たじろいだ。しかし、苦し紛れに言った。


「お前に何がわかる?」

「今でもわかんないよっ!」

「わからなくていい!わからないまま終われ!!お前は、ここで終わって、俺様に地球を壊させろ!そして、俺様は帰るんだ!16個目の星を壊した英雄としてなぁ!!」

「でも!あの人!結局酷い事するじゃん!!」


 バイオレットの顔が引きつる。トリプルは、水をまとった左手の拳に続き、炎をまとった右手の拳をバイオレットに見舞った後、一転、落ち着いて尋ねた。


「これが、僕からの最後の攻撃にするよ。君は?まだ僕に、地球に攻撃する?」


 思わず、座り込んだバイオレットは、答えた。


「当たり前だろ?」

「なら」


 トリプルは語りかけ始める。


「君の星が、人々をいじめるなら、君をふるさとの星に帰すことは僕は出来ない。だからと言って地球を傷つける君を野放しには出来ない。だから、君には僕の中で生きてもらうよ。そして、君が傷つけてきた地球がどんなものかを見て欲しい。一緒に生きよう。バイオレット」


 予想だにしないその言葉に、バイオレットは驚き、逃走するために立ち上がった。トリプルは、穏やかに、かつ、力強く言った。


「セイブ・ウイング・ワイド・ラッピング!」


 トリプルの機械じかけの翼から、大量の羽根が散らばる。それは、互いに繋がり、ドーム状になった。そのドームの中には、トリプルとバイオレットの2人。バイオレットは、動揺した声を震わせた。


「出せ」

「逃さないよ」


 再びトリプルの背中には、翼が。しかし、その翼は、いつもの機械じかけの物ではなく、ガラス細工のような無色透明の物であった。そこから羽根が散って行く。そのひとつひとつがバイオレットの体中に刺さった。


「くっ!!」


 バイオレットに刺さった無色透明の羽根は、紫色に染まっていく。それと呼応するように、バイオレットの存在が希薄になっていく。それを、トリプルは、ただただ見つめていた。


「俺様は、こんなのは、望まないっ!」

「ごめんね。バイオレット」

「力が、ぬけ、る」


 遂に、バイオレットは消滅。紫に染まり終えた羽根は、再びトリプルの翼を形成した。それと同時に、ドーム状の羽根は消えた。フラワー、シード、芯、累、恭が見守る中、ガラス細工のような紫の翼は、ゆっくりとトリプルの背中に入り込んでいく。


「バイオレット、これからは、君を『ここ』で守ってあげるからね」


 そうトリプルが言い終えた後、翼は消えた。


◆終戦

 地球への真の脅威が去った。それを感知したセイブ・ストーンは、ヒビが入り始める。その様は、穏やかに、しかし、確実に破壊に向かう。トリプルは、勇へ、フラワーは、愛へ、ゆっくり変化していく。そんな中、シードが言った。


「といぷゆ、ふやわー、ちきゅう、まもった。しぃじょ、ばいばい」


 シードは、同じくゆっくり眠る赤子になり、黄色の繭に入った瞬間、光の中に消えて行った。それを、アースセイバーとしての役目を終えた高校2年生の2人が見つめた。


 セイブ・ストーンは、粉々になり消滅した。それにより、完全に変身解除となった2人。愛は変身前そのものに戻った。一方、勇の短い髪の一部は、一房の紫のメッシュが入り、わずかにその瞳には紫の光が差した。


 勇は、言った。


「シード、今まで、ありがとう」


 愛は、言った。


「なんだか、シードとはまた会えそうな気がするのは、なんでだろう?」


 そんな2人の元に、恭が走り寄ってくる。


「勇兄ちゃん!愛姉ちゃん!凄かった!!」

「恭くんっ?」

「恭!!」


 勇と愛は、驚いた。恭は言った。


「へへっ、愛姉ちゃんについて来ちゃった」

「もう!危ない所に来ちゃ駄目だよ!恭!!」


 愛がそう返すと、勇は穏やかに言った。


「でも、僕と愛ちゃんで、守れたよ」

「そ、そうだね?勇くん」


 そんな愛の言葉を聞き届けた勇は、遠くで棒立ちになっている芯と累の所へ歩を進めた。それを、愛と恭は、見送った。見送りつつ、恭は言った。


「累姉ちゃんと、あの男の人、俺があそこに連れて行ったんだぜ?」

「本当?よくやったね?」


 恭は、笑顔になった。


 一方、勇は芯と累の元にたどり着いた。そして、言った。


「ごめん、芯さん、オレンジを守れなくて。そして、ごめん、累さん、バイオレットを消しちゃって」


 そんな勇を見る芯と累の目には、涙の跡が残っていた。累は言った。


「私が、間違っていたのよ」


 累は再び涙を流し始める。そして、勇の頭に右手を伸ばした。


「充さんのような、紫の髪」

「えっ?」


 勇は、驚いた。しかし、気を取り直しこう言った。


「あの、バイオレットは、ここにいるから、さびしかったら、会いに来て?」


 累は落涙しつつ、頷いた。それを、見届けた芯がようやく口を開く。


「彩さん」


 勇は、かなしげな目で、芯を見つめた。そして、芯に言葉をかけた。


「元はと言えば、僕が芯さんを1人にしちゃったから、芯さんは、今、かなしいんだよね。本当にごめん。これからは、芯さんを1人にしない。僕、芯さんの友達になりたい。いいかな?」


 勇は、芯に握手を求める。芯は、ためらいがちに勇と握手をした。勇は底なしの笑顔を芯に見せた。

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