27話
◆希望がもたらす未来と追跡
10月も終わりにさしかかってきた。勇はある決意を込めて、愛に放課後、話しかける。
「ねぇ、愛ちゃん。見つけられないかもしれないけどさ、今度の休み、累さんを探さない?」
「うん、ありがとう。お姉ちゃんと話したい。勇くんも、あの、芯さんって言うんだっけ?その人と話したいよね?」
「うん。多分、芯さんと累さんは一緒にいると思うから」
勇は、制服のジャケットに忍ばせてあるセイブ・ストーンを握りしめた。
何事もなく週末を迎える。勇と愛は、朝早くから待ち合わせして宛もなく歩き始める。勇の手には、黄色のボール。勇は複雑な笑みを浮かべながらボールに話しかけた。
「晴、今日の僕は、最低かも。『戦い』を望んでる。バイオレットとオレンジのそばに、芯さんと累さんがきっといる。会いたい。そして、話したいから」
愛は、そう呟く勇を揺れる瞳で見た後、自らの手をボールに伸ばした。勇はその手に応えボールを手渡す。
愛は、祈りの声をボールに聞かせる。
「晴くん、私たちを導いて」
と。その時だった。休日の静かな朝を切り裂く通行人の悲鳴が聞こえたのは。勇と愛のセイブ・ストーンが激しく点滅。勇はそれを見ながらこう言った。
「待ってたよ」
愛はそんな勇に続けた。
「本当に、導いてくれた。晴くん、ありがとう」
勇と愛は弾かれたように走り出す。セイブ・ストーンは2人を導くが、その間にボールも続いた。愛は驚く。
「ボールが!浮いてる!!」
勇はわずかな笑顔と共に言った。
「晴も一緒に戦ってくれるんだね!」
辿り着いた先には、カラミティが地面をその足で震わせ、破壊していた。その光景を前に、勇と愛の声が揃う。
「解き放て!守りの力!!」
更に、2人の名乗りがカラミティに届いた。
「三種の力は最強の証!アースセイバートリプル!!」
「輝く花は広がる微笑み!アースセイバーフラワー!!」
トリプルとフラワーはそんなカラミティを気合いの入った目で見つめ叫ぶ。
「レッツ!セイブ!!」
バイオレットは声を上げる。
「来たか」
追うようなオレンジの声も上がった。
「懲りないわねぇ」
トリプルとフラワーの耳にもその声は届く。
アースセイバーの目の前に姿を現したプラネットクラッシャーは、傍らに芯と累を連れていた。トリプルは声を張り上げる。
「芯さん!」
フラワーもまた、声を張り上げた。
「お姉ちゃん!」
一方、アースセイバーに呼ばれた本人たち。芯はオレンジを、累はバイオレットを庇うように立ち、無言でアースセイバー2人を見つめた。早くもアースセイバーの攻撃は、封じられる。カラミティはそれを尻目に歩道のタイルや車道のアスファルトを割っていった。
プラネットクラッシャーが薄ら笑いで棒立ちになるアースセイバーを見ている中、カラミティが引き起こした惨劇に驚いた通行人は悲鳴と共に転倒、怪我をした。フラワーが叫ぶ。
「こんな事、嫌だよ!!」
トリプルも叫んだ。
「守るために!戦いたい!!」
そんな中、浮遊していた黄色のボールが強く光り、辺りを包むように照らした。その場にいた一同の驚きの声が入り混じる。その声の洪水の中幼い声が響き渡る。
「ねむゆたにぇは、むげんにょみやい!あーしゅせいばぁしぃじょ!!」
光が収まったその空間には、濃いピンクのコスチュームと帽子に薄いピンクのよだれかけをつけ、赤いマントに包まれた赤子が浮遊していた。トリプルは言った。
「えっ?『しぃじょ』?」
フラワーは驚いた。
「あ、赤ちゃん?」
一方、バイオレットとオレンジは、累と芯の背後で眉間に皺を寄せる。バイオレットは言った。
「赤ん坊など!捻り潰してやる!!」
オレンジも続く。
「何をやってくるかわからないけど、潰せば関係ないわね!」
バイオレットとオレンジは同時に声を張り上げた。
「カラミティ!」
と。更にバイオレットは指示を出す。
「赤ん坊を捕まえて、殺せ!」
トリプルとフラワーの顔が引きつる。しかし、赤子は、平気な顔をして浮遊した後、トリプルとフラワーの元にふわふわ移動する。カラミティはそんな赤子を捕まえようとするが、赤子に指一本たりとも触れる事が出来なかった。
一方、赤子は、フラワーの胸に抱きついた。
「ふやわー」
赤子はフラワーに甘えるようにその頭をフラワーに擦りつけた。短い時間だったが、満足した様子を見せた赤子はトリプルの方を見て、こう言った。
「といぷゆ、かちゅ。ちゅばちゃでかちゅ。」
「僕、勝つ?翼で勝つ?」
赤子の言葉を聞き直したトリプルの目の前には、赤子を捕まえようとするカラミティが。トリプルは心の中で、「僕の翼、なんでもいい!攻撃して!!」と言った。すると、トリプルの口が動いた。
「セイブ・ウイング・チェイス・ニードル!!」
機械じかけの翼から、羽根が散っていく。その羽根は、針のように変形し、カラミティの元へ。カラミティは逃げたが、羽根の針はそれを追いかけ、遂に刺した。カラミティが消滅したのを見たオレンジの驚愕の声が轟く。
「翼が!攻撃してくるなんて!!」
トリプルは叫んだ。
「これならやれる!僕の針っ!プラネットクラッシャーを刺して!!」
その声に羽根の針は応え、芯と累をすり抜け、バイオレットとオレンジを倒した。芯の、
「彩さん!!」
という叫びと、累の、
「充さん!!」
という叫びが同時に響いた。それと同時にフラワーは、赤子を抱き抱えつつも言った。
「セイブ・フラワー・ストーム・ヒーリング!」
フラワーの花びらは、人々と街を元通りにした。
一旦ほっとするトリプルとフラワー。そして、変身が解除され、勇と愛に戻る。愛の胸の赤子は言った。
「といぷゆ、かった。にぇむい。ねゆ。」
赤子のコスチュームは、ベビー服に早変わりし、哺乳類型のペンダントが出現。赤子の首元に収まった。すると、赤子はすやすや寝てしまった。愛は戸惑い言った。
「ね、ねぇ、赤ちゃん、あなた誰なの?」
勇も戸惑った。すると、赤子は愛の胸の中から離れ、浮き始める。勇は慌てた。
「あ!赤ちゃん!!」
次の瞬間、赤子は黄色い繭に包まれ見えなくなった。
◆会談
繭を見つめていた勇と愛ではあったが、その2人に詰め寄ってくるふたつの人影が。芯と累だ。芯は勇の胸ぐらを掴み、大声を上げた。
「よくも、彩さんをっ!」
「芯さん」
一方、累は右手で愛の左頬をはたいた。そして喚いた。
「愛!充さんになんて事をしてくれたのっ?」
「お姉ちゃん」
芯と累の目は、憎しみで溢れていた。それを勇と愛は震えながら受け止める。しかし、図らずとも望んだ会談が出来そうな状況に気づき、勇と愛は話したい相手を連れ、お互い離れた。
勇は芯に言った。
「芯さん、どうして?どうして、プラネットクラッシャーに手を貸してるの?」
芯は、引きつった微笑みを浮かべ、言った。
「『どうして』?君が悪いんだよ?僕をひとりにした君が」
「あの時、僕が帰ったから?」
「やっと、孤独から解放されたと思ったのに、君は、1週間も僕の元にいなかった」
「さ、さびしかったんだ」
「それはね。『帰る』って言った瞬間、君は、僕の仲間ではなくなったよ」
「ごめん」
「恨めしいから、親の顔だけ見てやろうと思った。だから、家についていった」
勇は、芯との出会いから帰宅までの時間を思い出す。勇は言った。
「『善意の押し付け』、そんな事だったんだ」
「ついて行ったら、君は戦った。そして、彩さんたちを倒した。倒した後は、彩さんたちを放置した。なんて冷たい人なんだと思ったよ」
勇は返す言葉を失う。芯は言葉を続けた。
「君は、家族に心配されていた。僕を孤独に陥れ、敵とはいえ、人を放置する冷たい君が歓迎されているのは、僕は許せなかった」
「芯さん、ごめん」
「今更だよ。悪いけど、あれから君を監視させてもらった。占いを休んでね。そのうち、僕は彩さんの仲間になりたくなった。そして、今では彩さんを愛している。だから、彩さんを守りたい」
「芯さん、僕は、芯さんを、芯さんの心を守れなかった?」
芯は目をそらす。勇は言った。
「これから、僕、芯さんの心を守るから、危ない所から離れて?」
「必要ないよ。もう僕は彩さんによって孤独から解放された。だから、君は必要ない。僕は、彩さんの盾になり続ける」
芯は、そう言うと彩として倒れているオレンジの元へ行ってしまった。勇の追いかける声を振り切って。
「芯さん!」
一方、愛は累に言った。
「ねぇ、お父さんとお母さん、心配してるよ?お姉ちゃん、帰ってやってよ。いつもの事だけど、わかってるでしょ?」
累は愛に目を合わせず、こう返した。
「私はもう社会人。あの家に帰らなくていいでしょ?」
「だったら、お父さんとお母さんにそう言ってから、家を出ていけばいいでしょ?」
「勝手に私を『娘』にしたあの親に、そんな事言わなくていいでしょ」
「お姉ちゃん!」
「やめて、私をお姉ちゃん呼ばわりするのは。本当は、私の事、邪魔でしょ?愛?」
愛は返答に詰まった。累は続ける。
「ほら。呼びたくないのに、呼ばなくていいわ」
「だ、だけど、お姉ちゃんだよ」
「やめてって言ってるでしょ?もう。愛に返すよ、あの親。私は、居場所見つけたから。充さんっていう居場所。私には、とっても優しいのよ?充さん」
「お姉ちゃんには優しいかもしれないけど、あの人たちは、地球を破壊しようとしてるのよ?そんな人を居場所って」
「地球?破壊されちゃえばいいのよ。実の親に愛されない私という命を産み出した地球なんて」
愛の目は揺れる。累はたたみかけた。
「私は、充さんが地球を滅ぼすのを見届けるわ。ああ、愛の親に言っておいて?私は、芯さんの家で、充さんたちに尽くしていくって」
そして、累は充として倒れているバイオレットの元へと行ってしまった。愛の叫びは、届かなかった。
「お姉ちゃん!」
◆繭の行く手
取り残された勇と愛は、しばらくうなだれた。それを尻目に充は累に、彩は芯に支えられながらその場を後にした。見送る余裕など、勇と愛にはなかった。
そんな勇と愛の目に、浮遊する黄色の繭が映る。勇は言った。
「赤ちゃん、この中に入ってるんだよね?どうしよう」
愛は返した。
「2人で見ていかなきゃだよね?」
勇は頷く。そして、繭を手にしようとした。すると、繭は愛の元へとふわふわ行く。愛は言った。
「私の方がいい?」
「そうみたい。お願いできる?愛ちゃん」
愛は頷いた。
それからというものの、愛は、勝手についてくる繭と共に行動するようになった。しかし、数日後の学校にて繭は勇の所にふわふわ寄ってくる。勇は言った。
「今度は僕?」
それから、繭は勇と共に行動する事になった。
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