26話
◆人の盾
それからというものの、勇は、「晴」に挨拶しつつ、登校し続ける日々を過ごす。
そんな中の週末、勇は「秘密ソルジャーシリーズ」のグッズや「晴」に見守られながら、自室にて宿題をしていた。すると、セイブ・ストーンが反応する。
「まず。また何かやってる!」
宿題は途中だったが、勇はそれを放り投げて家を飛び出す。そして、自転車に乗り、セイブ・ストーンを追った。全速力で自転車を漕ぐ勇の視線の先に、走る愛の姿が。
「愛ちゃん!!」
勇は自転車を急停止させ、言った。
「乗って!!」
「うん!!」
愛は勇の後ろに乗り込む。勇は再び自転車を漕ぎ始める。そんな2人を2人のセイブ・ストーンが先導する。そして、辿り着いた先には、バイオレットとオレンジ。勇と愛は急ぎ自転車を降り、セイブ・ストーンを手にこう声を揃える。
「解き放て!守りの力!!」
そして、矢継ぎ早に名乗る。
「三種の力は最強の証!アースセイバートリプル!!」
「輝く花は広がる微笑み!アースセイバーフラワー!!」
2人は、この掛け声で自らたちに気合いを入れた。
「レッツ!セイブ!!」
アースセイバーとプラネットクラッシャーの間には、カラミティがわらわらいた。カラミティは、通行人を捕まえて襲っていた。
「やぁめぇろぉ!カラミティ!!」
「カラミティ!その人たちを離して!!」
そして、トリプルとフラワーは、カラミティにそれぞれの拳をお見舞いする。トリプルの拳に倒され、フラワーの拳に消滅していくカラミティ。しかし、確実に人々は傷つき、アスファルトはひび割れる。フラワーは言った。
「後で、なおしてあげなきゃ」
「そうだね!その前に、カラミティを全部倒さなきゃ!!」
そして、トリプルとフラワーは、カラミティを全て排除する事が出来た。トリプルは、バイオレットとオレンジに対抗し、フラワーは通行人の傷の治療と道路の補修に2人とも必殺技を出そうとした。しかし、トリプルもフラワーも「えっ」という短い声を上げ、全ての動きを止めた。
視線の先には、人骨をあしらった服を着た男性。そして、長髪の女性が現れていた。トリプルは悲鳴のような声を上げる。
「芯さん?」
そして、フラワーは叫んだ。
「お、お姉ちゃん?」
トリプルが久しぶりに顔を見た洞口芯は、オレンジを庇うように佇んでいた。そして、フラワーが久しぶりに顔を見た芽室累は、バイオレットを庇うように佇んでいた。バイオレットは言う。
「下手な真似したら、こいつらを殺すぜ?」
オレンジも続いた。
「地球人を、殺したくないわよね?」
動揺の声が止まらないトリプルとフラワー。
「芯さん!何で!!」
「お姉ちゃん!どうして!!」
しかし、芯も累もその問いには答えず、別な事を発言した。芯は言う。
「勇くん、今日からは、オレンジをやらせないよ」
累は言った。
「愛?バイオレットたちに、倒されて?」
棒立ちになるトリプルとフラワー。そんな2人を嘲り笑うオレンジは、芯と累の首にその腕を回し、人の盾にした。そして、言った。
「私たちにも、盾が出来たわ、トリプル。あんたの盾、羨ましかったのよ?」
全く羨ましそうでもない声色で言われたその言葉にトリプルは返した。
「2人を!解放して!!」
バイオレットは、芯と累をオレンジに任せ、無抵抗になっているトリプルとフラワーに殴りかかった。そして、言った。
「残念だな!奴らは望んでここにいる!!解放などあり得ない!!」
「嘘!お姉ちゃん!!」
フラワーの悲鳴のような声が響き渡る。トリプルが叫ぶ。
「どうして?芯さん!累さん!」
芯は微笑むだけ、累はぼうっとそれを見ているだけだった。バイオレットは笑いながらこう言った。
「今のお前らなら、やれるかもな!!」
そして、バイオレットはこう続けた。
「ターゲット・デモリッション!」
そして、バイオレットに遅れてオレンジも言った。
「ターゲット・デモリッション!」
その攻撃に、トリプルとフラワーは倒れた。その光景を見ながら、バイオレットは充になり、累を連れ、オレンジは彩になり、芯を連れ姿を消した。累は幸せそうな声を上げた。
「充さん、素敵」
芯も言った。
「彩さん、勝ってよかった」
◆黄色へ伸ばされる指
取り残されたトリプルは、変身解除。勇になった。一方、未だフラワーのままの愛は、立ち上がり、力なく言った。
「セイブ・フラワー・ストーム・ヒーリング」
フラワーからの花びらは、傷ついた人々の傷を治し、アスファルトのひび割れを元通りにした。それを感知したのか、フラワーも変身解除と相成った。その愛の目には涙。勇はそんな愛に歩み寄り、抱きしめた。その勇の目にも、涙が浮かんでいた。愛の戸惑いの声が響く。
「お姉ちゃん」
勇の悔しそうな声が響く。
「ま、守れなかった」
しばらく涙の奔流に身を委ねた後、勇と愛は勇の自転車にて帰宅。2人の間には、会話はなかった。
部屋に戻った勇。やりかけだった宿題に取り掛かるが、身が入らない。一旦「晴」を見つめ、何とかそれを片付けると、「晴」に話しかけた。
「晴、僕、どうしよう?」
翌日から、勇は「晴」を持ち歩くようになった。勇はこう言い聞かせた。
「ごめん、壊したくない。失くしたくない。けど、僕には、これしかないんだ」
勇は以前のように袋には入れず、むき出しのまま黄色のボールを持ち運んだ。ボールは、勇の傍らで外からの光を受け、輝いていた。さすがに授業中は一旦荷物の中に入れたが、休み時間となると、勇はボールをいそいそと取り出す。
その事は、愛も気づいていて、ある日声をかけた。
「晴、くん」
愛の指先は、ボールを撫でる。勇も追いかけるようにボールを指でなぞった。それからというものの、勇と愛は交互に黄色いボールをその手に持ち、下校する日々を過ごした。
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