21話

◆目的

 脅威は、取り除かれた。ウイングは変身解除。勇になる。しかし、ウォーターはウォーターのまま、ファイアはファイアのままだった。勇は、戸惑った。


「な、なんで涼と晴にならないの?」


 ファイアが返した。


「バイオレットが倍賞充、オレンジが時任彩としてこの地球に溶け込んでいたように、私は彼島晴、ウォーターは志倉涼として溶け込んでいただけだ」


 ウォーターも続く。


「そう。これが、私たちの本当の姿なんだ」


 勇は、さびしそうな顔をする。そして、うなだれ沈黙する。そして、しばらくした後、勇はこう言った。


「涼、晴、ごめん。あの時、僕、酷い事言った。本当にごめん」


 ウォーターが返した。


「私たちは、勇からそう言われても仕方のない事をしてしまったのだから、謝らなくてもいい」


 勇は、それを受け顔を上げた。


「そんな。けど、僕、これからも戦う。そう決めた」


 ファイアが返した。


「これから、1人で戦えるか?」


 再び、勇は沈黙。しかし、口を開く。


「出来れば、ウォーターとファイア、そして、僕でこれからも戦いたい」


 今度は、ウォーターとファイアが沈黙。勇は言った。


「駄目?」


 ウォーターが重い口を開く。


「駄目なんだ。私は、他の星にも行かなければならないんだ」


 ファイアが出始めてきた空の星を指差し、言った。


「見えるか?空の星々が」


 勇は頷く。それを認めた後、ファイアは続けた。


「プラネットクラッシャーの星、『デストロイ』は、あの全ての星々を破壊しようとしている」


 勇は、驚く。そして言った。


「って言う事は、バイオレットとか、オレンジみたいな人があの星たちにもっ?」


 ウォーターとファイアは同時に頷く。そして、ウォーターが言った。


「出来ることなら、私たちで全ての星々を守ってやりたい。けれど、『シールド』には、全ての星々に派遣出来る人員がいない」


 ファイアが続ける。


「だから、その星は、その星の人間に守ってもらおうと考えたんだ。そして、『守護者育成』を目的とし、『育成者』2人が星々を渡り歩いているんだ。星によっては、私のような『育成者教官』が『育成者』を教習している場合もあるがな」


 勇は、それに返す。


「そうだったんだ」


 話し続ける3人を、星空が静かに見守る。そんな星空を勇は見上げた。


「涼、晴、2人は、あの星たちのためにこれから戦うんだね?」


 ウォーターは返した。


「そうだ」


 ファイアも返した。


「私は、これまでとは別の形で次世代の育成者を作る事になるだろう」


 勇は、少し沈黙した後、口を開く。


「本当は、ずっとずっと2人に僕の傍にいてもらいたい。けど、僕がそれを我慢する事で、あの星たちも守れるなら、僕、1人で戦う。1人で地球を守るよ」


 ウォーターとファイアは、静かに何度も頷いた。ウォーターは言った。


「ありがとう。これで次に進める」


 ファイアは言った。


「その勇気、ありがたい」


 それを受け、勇は言った。


「でも、ちょっとだけわがまま言っていい?」


 ウォーターとファイアは首を傾げる。それを見つつ、勇は続けた。


「ちょっとだけ、1週間とかでいいから、僕の友達として、地球にいて?」


 ウォーターとファイアは目を見合わせ、頷いた。そして、涼と晴に「擬態」する。その様子を見て、勇は2人に抱きついた。


「涼!晴!」


◆最後の友との時間

 翌日。登校した勇は愛に言った。


「愛ちゃん、昨日、涼と晴に会えたよ」

「よかったじゃん!」

「それでね?1週間後に、お別れする事になったんだ」

「えっ」


 それ以降、絶句する愛に勇は「涼」と「晴」の事情を説明した。愛は、こう返した。


「そんなのって。でも、決めたんだね?」

「うん」

「そっか。私も、お別れしたいな」

「じゃ、放課後さ、一緒に帰ろう?これから2人がいなくなるまで毎日会おうって約束してるから」

「うん」


 そして、放課後。高校から少し離れた歩道に、「涼」と「晴」が。勇は愛と共に駆け寄る。愛は言った。


「涼くん、晴くん、勇くんから話聞いたよ。本当に、1週間後、いなくなっちゃうの?」


 それに、「涼」は返した。


「そうだ」


 それに続き、「晴」も答えた。


「私たちのここでの使命は、終わったからな」


 その会話を聞いていた勇が言った。


「ねぇ!涼、晴。『前の』2人みたいに話してよ?言葉遣い、僕にとっては変だよっ」


 勇は、かなしげな顔を見せた。「涼」は、「晴」は、顔を見合わせ、頷いた。そして、「涼」から言った。


「ごめん、勇」

「やっぱり、この言葉遣いがいいってのか?勇?」


 勇は、それを受け、表情を明るくした。


「やっぱり!僕にとっての涼と晴は、そうだよ!!」


 愛も含めた4人の笑顔が交換された。そして、愛が言う。


「涼くん、晴くん、さびしいな」


 下を向く愛。「涼」と「晴」は、一転神妙な顔になる。愛は再び顔を上げる。その目は潤んでいた。


「けど、元気でね?」

「ああ、ありがとな」

「愛ちゃんも、元気で」

「うん」


 一筋の涙を落とした後、愛は言った。


「後は、3人の時間にして?私、この辺で帰るよ。バイバイ、涼くん、晴くん」


 絞り出すような愛の言葉に、「涼」は返した。


「さようなら、愛ちゃん」


 それに、「晴」が続く。


「じゃあな」


 勇は言った。


「ありがとう、愛ちゃん!また、明日、学校でね?」


 愛は、手を振りながら帰宅して行った。


 それから、勇は約束通り毎日「涼」と「晴」の2人と会い、最後の時間を共に過ごした。学校の日は放課後、暗くなるまで、休みの日は、朝から晩まで特に何をするのでもなく、3人で集まった。


◆最後の戦い

 9月末。遂に「涼」と「晴」がシールド星に帰還する日が来てしまった。


 勇は、学校が終わると、一目散に校舎から出て、待ち合わせ場所まで走って行く。その様子に、「涼」は言った。


「転ぶよ!勇!!」


 それに、「晴」も続いた。


「急がなくてもいいだろが!」


 勇は、2人の所に辿り着くと、言った。


「急がせてよ!だって、最後の日だもん!!」


 その勇の反応に、「涼」と「晴」は、複雑な笑みを浮かべた。そして、3人で下校していた頃のように勇が真ん中に陣取り、通学路を歩き始めた。


 しばらくすると、勇が言った。


「ねぇ、あの公園に行かない?」


 2人は快諾した。そして、公園の砂場に3人は立った。勇はうなだれた。そして言う。


「ねぇ、僕をここで『地球の守護者』に選んでよかった?」


 その問いに、「涼」は答えた。


「勿論だよ。ちゃんとした形で『育成』は出来なかったけど、『友情』を勇と育めたからね」


 それに、「晴」が続く。


「教えてやれた事は、少なかったぜ。でもよ、お前は、勝手に『地球の守護者』として大きくなっちまった。逆に、俺がお前に教えられたぜ?」


 勇は顔を上げ、言った。


「そっか。ありがとう!」


 2人は首を横に振る。「晴」が言った。


「こっちこそ、ありがとな」


 それに、「涼」も続く。


「勇、僕からも、ありがとう」


 3人は笑顔を浮かべた。しかし、それは、セイブ・ストーンの反応にかき消される。勇は、言った。


「こんな時にっ。だけど、僕たちは、このために出会ったんだよねっ?」


 勇の力強い言葉に、「涼」と「晴」は力強く頷く。そして、合図もなくこう声を揃えた。


「解き放て!守りの力!!」


 赤いコスチュームの守護者が言った。


「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」


 白いコスチュームの育成者が言った。


「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」


 黄色いコスチュームの育成者教官が言った。


「荒ぶる炎は確かな希望!アースセイバーファイア!!」


 そして、地球のための戦士が声を再び揃える。


「レッツ!セイブ!!」


 その光景を見たバイオレットは苦々しそうに言った。


「結局、地球の守護者は戦うのかよ!!」


 オレンジが続く。


「まったく!『育成失敗』って嘘偽りじゃない!!嘘つきには、制裁を加えなきゃね!!」


 そして、こう声を揃える。


「カラミティ!!」


 カラミティは、ウイングの所に集り始める。バイオレットは怒鳴るように言った。


「カラミティ!守護者を速攻で倒せ!!」


 オレンジも続く。


「鏡の盾を封じるのよ!カラミティ!!」


 ウイングは、動じなかった。


「むしろ、カラミティが僕の所に来てくれてよかったよ!」


 そう、自分の所に来るという事は、他の物などが被害を受けないという事。ウイングは言った。


「僕が出来ない攻撃を!ウォーター!ファイア!よろしく!!」


 ファイアが言った。


「ああ!任せとけ!!」


 ウォーターが言った。


「勿論!行くよ!!」


 そして、ウォーターとファイアは、バイオレットとオレンジの元に行き、交互に交戦する。一方、ウイングは、パンチ攻撃でカラミティの大軍に応戦する。そんな中、ウイングは言う。


「さすが!ウォーター!ファイア!強いねっ!!」


 バイオレットとオレンジは、水の攻撃と炎の攻撃に劣勢となっていく。ウォーターは返した。


「この力は、これが終わったらウイングのものになるからね!」


 ファイアが続く。


「守護者は守るのが仕事だからな、まずは、守る防御力だけが与えられていた。けど、次からは、お前は真の守護者!俺たちの力で攻撃させてやるからな!!」


 オレンジが言った。


「真の守護者を完成させてたまるもんですか!」


 バイオレットは言った


「ふざけんな!阻止するぞ!!」


 そして、2人はカラミティに命令した。ウイングを潰す事を。ウォーターは声を上げる。


「ここで、潰されたくないよ!」


 ファイアは言った。


「潰せるもんだったら、潰してみやがれ!」


 その2人の言葉に、ウイングは言った。


「ありがとう!ウォーター!ファイア!」


 そんなウイングにカラミティの悪しき力が集中し始める。その力を感じ、ウイングは叫んだ。


「セイブ・ウイング・ミラー・シールド!!」


 鏡の翼が、カラミティを倒した。カラミティの補充を阻止するため、ウォーターとファイアは立て続けに声を上げる。


「セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」

「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」


 水をまとった剣と十字の炎の爆発からの衝撃波は、プラネットクラッシャーを倒した。

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