20話

◆盾なき戦闘

 一方、「涼」と「晴」は、人気のないビルの廃墟にてウォーターとファイアの姿になっていた。ウォーターが言った。


「もう、高校生として、擬態しなくていいんですよね」

「そうだな。『素』の私たちでいられるから、体は楽だろう?」

「確かに、楽です。体は。けど、どこか心は辛いですね」

「私もだ。さびしさか?」


 ウォーターが頷く。すると、セイブ・ストーンがわずかな反応を示す。その反応を見ながら、ウォーターは言った。


「勇、私たちを探しているようですね?」

「何の意図があるのかわからないが、もはや戦線離脱した安藤勇は、私たちが守らねばならない守護対象者。私たちと会うべきではない」


 ファイアのその返答に深く頷くウォーター。そして、2人は声を揃えて言った。


「捜索経路、遮断」


 セイブ・ストーンの反応は消えた。それを確認した2人の視線は、自然と外の風景へと移される。


 ゆったりと行き交う人々。曇りの天気だが、明るい光が降り注ぐ街。街路樹がわずかに揺れる。優しい風が吹いているようだ。ファイアは言った。


「穏やかだ。この風景を私たちで守りきるぞ」

「はい。全てを賭けてやります」


 そうウォーターが言った次の瞬間。風景は一変した。人々が逃げ惑い始める。セイブ・ストーンは、激しく点滅。プラネットクラッシャーの襲来を知らせた。


「行くぞ、ウォーター」

「はい、ファイア」


 2人が外に出ると、カラミティが沸いていた。ウォーターは言った。


「教官、攻撃力のリミッター解除の許可を」

「致し方ない。私もリミッターを解除する」


 ウイングという盾を失ったアースセイバーは、盾代わりに強力な攻撃を繰り出さねばならない。リミッターを解除すると、ウォーターの周りには常に水の幻影が、ファイアの周りには常に炎の幻影が現れるようになる。


 その様子を見たバイオレットは、興味深そうに寄ってきた。それにオレンジも続く。そして、オレンジは言った。


「何?また『守護者』抜きなの?」


 ウォーターは返す。


「地球は、守護者を失った。恥ずかしい話だが、私たちの失策でね」


 バイオレットは嘲り笑う。


「そうか!あの男は、戦いから降りたのか!!お前たちが育成者2人なのか、育成者とその教官なのかわからんが、それは残念な事だな?」


 ファイアは返した。


「私が教官だ。そんな事はどうでもいいが」


 オレンジも2人を嘲り笑い始める。


「なっさけない教官。そして、その教官に教えられた育成者もかわいそうねぇ」


 笑いの止まらないバイオレットは、それに続ける。


「なぁ?どんな考えで地球の守護者をそんな手法で育成しようと考えたのかはわからんが、その態勢に付き合ってやったぜ?俺様たちは。感謝しろ?教官?そして、育成者!」


 ウォーターとファイアは返す言葉を失う。その様子を見てバイオレットは言う。


「感謝の印に、俺様たちに地球を破壊させろ?」

「いいわねぇ」


 ウォーターは返した。


「感謝などしない」


 ファイアが続く。


「地球の守護者代行として、プラネットクラッシャーを刺し違えても倒す予定だからな!!」


 そして、ウォーターは強力な水の洗い流しを蔓延るカラミティに向け展開し始める。その様子に笑いを止めたバイオレットとオレンジは、ウォーターに襲いかかろうとした。そのプラネットクラッシャーに、ファイアが立ちはだかる。


「私の最後の教習生に、傷1つ付けさせはしない!」


 そして、ファイアは強力な炎の焼き尽くしを展開。バイオレットとオレンジは炎に包まれる。バイオレットは怒鳴るように言った。


「リミッター解除か!なら、ファイアには、前のように暴走してもらいたいものだな!!そして、今度こそ地球を燃やし尽くしてもらうぞ!!」


 そして、オレンジも続く。


「その様子だと、ウォーターもリミッター解除してるようね?ファイアが『それ』をしなかったら、ウォーターが暴走してもいいのよ?そして、地球を水まみれにして人の息の根を止めてもらおうかしら?」


 ファイアは答えた。


「同じ轍は踏まない!」


 ウォーターは答えた。


「そうなったとしたら、プラネットクラッシャーも同等の被害を受けてもらおう!」


 バイオレットとオレンジは険しい顔をした。そして、バイオレットはファイアに、オレンジはウォーターに殴りかかってきた。ウォーターとファイアはそれに応戦。その傍ら、補充されるカラミティに同時にウォーターの水の攻撃とファイアの炎の攻撃が与えられる。


「ちぃっ!!」


 バイオレットの舌打ちが響く。オレンジは言った。


「ウイングがいないって事は、鏡の盾がないわ!やるわよ!バイオレット!!」


 バイオレットの顔に余裕が生まれる。そして、バイオレットとオレンジは声を揃えた。


「ターゲット・デモリッション!」


 その攻撃波を認めたウォーターとファイアは、同時に叫んだ。


「セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」

「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」


 広がる紫と橙色の塊に、水をまとった剣が刺さり続け、回転する十字の炎の爆発からの衝撃波が加えられる。その力は拮抗し、危険な状態へと陥る。ファイアは叫ぶ。


「ウォーター!なんとしてでもこれを防ぐぞ!!」

「はい!ファイア!!」


 リミッターを解除をしている2人の力が、更に2人の必殺技へと加えられる。その事を察知したバイオレットとオレンジは、追加の「ターゲット・デモリッション」を発揮。激しい力のぶつかり合いが夕陽を背に繰り広げられた。


◆盾の復帰

 一方、全てを諦めて帰宅した勇のセイブ・ストーンが激しく反応していた。


「ま、まさか?」


 しかし、感情に任せ「守護者を辞める」と言ってしまった手前、戦場へと向かって行っていいのか迷いを感じた勇。


「ど、どうしよう?」


 勇は頭を抱え、下を向く。次第に、勇の脳内に戦い始めたばかりの頃、ウォーターとファイアが自分の失言が原因でターゲット・デモリッションに倒れた光景が広がる。


「あ、あれがまた?」


 勇は、視線を上げた。すると、今まで集めてきた「秘密ソルジャーシリーズ」のフィギュアたちが目に映る。


「秘密ソルジャーは、どんな時でも戦ってた。逃げたりしなかった。なのに、僕はなんだ!『戦わない』なんて言って!!」


 そして、両親から反対され、一度戦線離脱をした時に、出た犠牲も思い出す。


「駄目だ!僕が盾にならないと!!」


 そして、勇はセイブ・ストーンを握りしめ家を飛び出し自転車に乗り込んだ。


「今、行くよ!涼!!晴!!」


 そして、ペダルを漕ぎ始め、こう叫んだ。


「僕は、この地球を!そして、地球にいる人たちを守るんだー!!」


 空に放ったセイブ・ストーンは、戦場へと勇を連れて行く。そして、勇は目の当たりにする。アースセイバー2人の必殺技と、プラネットクラッシャーの攻撃技が拮抗し、危険な状態にある光景を。


 勇は、セイブ・ストーンをその手に収め、言った。


「解き放て!守りの力!!」


 赤の戦士がその場に現れる。


「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」


 そして、こう言った。


「僕の翼!ウォーターとファイアを守って!!」


 ウイングの翼は、ウォーターとファイアに盾を与える。ウォーターとファイアは目を丸くした。そして、同時に叫んだ。


「ウイング?」


 と。その声にウイングは答えた。


「やっぱり、僕は戦うっ!だって、僕は守りたいんだから!!」


 そして、ウイングは果敢にも、アースセイバーとプラネットクラッシャーの力が渦巻く場所に突入して行く。そして、叫んだ。


「セイブ・ウイング・ミラー・シールド!!」


 いつもより強化されているターゲット・デモリッションは、バイオレットとオレンジに深刻なダメージを与えた。その上、ターゲット・デモリッションに阻まれ届かなかったウォーターのセイブ・ウォーター・ソード・レインとファイアのセイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョンもバイオレットとオレンジに直撃。


 バイオレットは、息も絶え絶えに言った。


「『育成失敗』は、偽りだったのか」


 その横で、オレンジはバイオレットと共に倒れた。

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