5話

◆後悔の中

 勇は、その夜自分を責めた。


「僕があんな事を訊いたから、涼と晴はあんな事に。なんて事言っちゃったんだろ」


 自宅の部屋の中で繰り返し呟く勇。その脳裏には、ウォーターとファイアの倒れた姿。勇は眠れなかった。そんな夜の次の日も学校は待ってくれない。


 翌日、登校すると、涼も晴もいつも通りだった。しかし、勇は話しかける。


「涼、晴、昨日は、本当にごめん」


 涼は返した。


「僕の事は気にしちゃ駄目だよ」


 晴は返した。


「『あれ』が俺と涼でよかった。ただ、そんだけだろ」

「うん」


 勇はうなだれる。愛は勇の異変に話しかけようとしたが、始業のチャイムがそれを阻んだ。それから、休み時間になる度に、勇は窓際に行き、グラウンドを見つめ、1人後悔の時間を過ごした。あまりの様子に、愛も声をかけづらくなる。そうしてるうちに放課後になった。勇は一目散に下校していってしまった。愛は、疑問を涼と晴にぶつける事にした。


「どうしたの?勇くん」


 晴が答えた。


「気にする事ねぇのに」


 涼も答えた。


「昨日、戦った時に僕と晴、倒れてしまったんだ。それを、勇、自分のせいだって言って責めちゃったんだよ」


 愛は言った。


「そうだったんだ。でも、無理ないと思うよ。だって、『守りたい気持ち』が強いもん、勇くんは。『ヒーロー』って言えば『守る』だもんね?」


 晴は、舌打ちした。


「そうじゃねぇよ。勇」


 涼も続ける。


「確かにね。『守る』対象、間違ってるよ」


 愛は、そんな2人の言葉に眉間に皺を寄せた。そして、言った。


「2人がどんな事考えてるかわかんないけど、勇くんが後悔してるのに、そんな言葉ってないよ」


 涼は伏し目がちに返した。


「ご、ごめん。でも、僕も、どうしていいかわからなくなってる」


 晴は、遠くを見て黙った。愛は、それを見て、言った。


「帰る」


 そして、駆け出して行った。


「勇くんっ」


 しかし、愛は勇に追いつくことは出来なかった。


◆バラバラ

 一方、勇は涼と晴と初めて出会った公園に来ていた。


「もっと、僕の盾が強ければ、ウォーターとファイアは」


 セイブ・ストーンを見つめた勇。そして、こう叫ぶように言った。


「強い盾をちょうだいっ!僕に!アースセイバーウイングに!!」


 セイブ・ストーンは答えない。勇は座り込んでうなだれた。


 勇はそのまま帰宅。そして、片っ端から「秘密ソルジャーシリーズ」の動画を見続けた。しかし、その途中で間違って画面を消してしまう。すると、酷く落ち込んだ自らの顔がそこに映った。


「僕の顔、酷い」


 真っ黒の画面は、まるで鏡。そう思った勇。一言呟く。


「鏡」


 そして、とある考えが浮かんだ。


「試して、みたい。けど」


 それを試す場面が来るという事は、危機がこの地に訪れるという事。


「試しちゃ駄目かな?」


 翌日、勇は登校する。愛が勇に話しかけてきた。


「勇くん、あの、涼くんと晴くんから聞いたよ、話。私的には、勇くんの気持ちは、間違ってないと思うよ?」


 勇は、愛の目を見つめ、軽く笑みを浮かべた。


「ありがとう!少し気持ち楽になった!」

「そう?むしろ、涼くんと晴くん、なんか冷たい」

「へっ?」


 丁度教室に入ってきた涼と晴を勇は見た。そして、小声で愛に尋ねた。


「なんか言ってたの?涼と晴、僕の事」


 愛も小声で返した。


「勇くんは、2人を守りたいって思ってたんでしょ?それを、自分たちは守られる対象じゃないって」

「そうなの。なんか、バラバラになりそうだね?僕たち」


 始業を知らせるチャイムが鳴った。勇は、授業中、考えた。「とにかく、涼と晴とバラバラになっちゃ駄目だ」と。


 そして、下校の時間を迎える。勇は、少し大きな声で言った。


「ね!涼!晴!一緒に帰ろ!!」


 涼も晴も、多少驚いた目をしてそれを受け入れた。その様子を愛は見守り、微笑んだ。


 勇は下校中の道中、言った。


「変身とかしてたら、忘れかけてたんだけど、僕は、晴が涼をいじめないかの『監視役』だったって」


 更に、勇は「へへっ」と笑い、涼と晴の間に入る。晴が言った。


「監視対象、彼島晴!甘んじて監視されます!!」


 晴も続いて笑い、涼も笑った。


◆新しい盾

 穏やかな下校時間は、そこまでだった。駅に着くと、駅前でカラミティが暴れていた。勇は言った。


「カラミティ。『あれ』を試す時が来ちゃったよ」


 涼と晴は、その言葉に首を傾げるが、その真意を問うより、一刻も早くカラミティを排除しなければとセイブ・ストーンを取り出す。それは、勇も同じだった。


「解き放て!守りの力!!」


 3人はこう声を揃え名乗った。


「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」

「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」

「荒ぶる炎は確かな希望!アースセイバーファイア!!」


そして、カラミティに届く3人の声。


「レッツ!セイブ!!」


 ウイングはいつもの通り、翼から羽根の盾を人々に与える。そして、ウイングのパンチ、ウォーターの水の洗い流し、ファイアの炎の焼き尽くしの攻撃がカラミティに加えられる。


 そこに、バイオレットとオレンジの姿が。ウイングは言った。


「バイオレット!オレンジ!」


 すると、ウイングは、カラミティへのパンチ攻撃をやめた。ウォーターとファイアは慌てた様子を見せる。ウォーターは叫ぶように言った。


「何を?ウイング、危険だよ!!」


 ウイングは、ウォーターとファイアに微笑みの頷きを見せた。そして、こう言った。


「ちょっと試したい事があるんだ!2人は下がってて!!」


 戸惑うウォーターとファイア。しかし、それに従った。「戦場」から一歩離れるウォーターとファイアの姿を確認すると、ウイングは心の中で言った。「カラミティの力を、バイオレットとオレンジに与えて!!」と。


 カラミティは、ウイングに集り、悪しき力を集中させた。すると、ウイングの叫ぶような声が。


「セイブ・ウイング・ミラー・シールド!!」


 すると、ウイングの背後に機械じかけの翼が大きく展開。それは、鏡のように輝き、カラミティの悪しき力を吸収していく。吸収し終えると、ウイングはカラミティの集団から抜け出すように上空へ。そして、翼はバイオレットとオレンジの方向に向く。その翼から力が放出される。その力は、カラミティの力そのものだった。


 突然の事にバイオレットとオレンジは対応できず、そのカラミティの悪しき力をもろに受けた。バイオレットの、

「ぐああっ!」

 という声と、オレンジの、

「ああっ!!」

 という声が響き渡った。


 ウォーターは言った。


「凄い」


 ファイアも言った。


「いつの間に考えたんだよ?俺たちもやるぜ?ウォーター!」


 ウォーターは頷き、こう叫んだ。


「セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」


 それに続き、ファイアが叫んだ。


「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」


 ウォーターとファイアの攻撃は、カラミティを全滅させた。その様子に、バイオレットは呻くように言った。


「まさかっ」


 オレンジは言った。


「撤退だわ」


 そして、ウイング、ウォーター、ファイアは、勇、涼、晴へと戻った。


 勇はほっとしつつ言った。


「成功したっ」


 涼は言った。


「凄い!勇!!」


 勇は久しぶりのキラキラした目を2人に見せつつ、言った。


「僕の『必殺技』、出来ちゃった!」


 晴は言った。


「マジかよ。いいぜ!勇!!」

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