1-2 背中合わせの距離

1-2 背中合わせの距離


「じゃあ、二回戦いこうかー!」

たくみがノリノリで次の割りばしを取り出す。


「さっきのけんの命令は平和だったけど、今度はどうなるかな~?」

なおがニヤニヤして、さやかに視線を送る。


「うーん、なおあたりが王様になったら、地獄かもね~?」

さやかも笑いながら返す。


俺は少し肩を落としながら、割りばしを引いた。

《3番》――王様じゃない。心の中で安堵する。


「さあ、王様は誰だっ!」

たくみの声に続いて、すっと手が挙がった。

 

「……わたし、王様」

それは、りなだった。


えっ――

思わず顔を向けると、りなはほんのり頬を赤らめながらも、しっかりと王様の割りばしを掲げていた。その姿は、いつもおとなしい彼女と違って見えた。


「りなちゃんが王様かぁ!意外!」

なおがパチパチと拍手をする。


「ふふ、優しそうな王様?」

さやかがからかうように言うが、りなはすっと真顔になってから、少し考え込む。


その横顔を見て、俺は思う。

――たぶん、優しい。でも芯があるから、何を命令してもおかしくない。


「……じゃあ、1番と5番は、背中合わせで座って。お互いの“いいところ”を言い合って」

静かな声で、りながそう命じた。

 

なおの「おお~、恥ずかしいやつきたー!」という明るい声が響く。


「さすがりな、じんわり攻めてくるタイプだな」

たくみもニヤリと笑っていた。


りなは、いつもと違う顔を見せてる――と思った。


「番号、確認してくださーい」

ゆうじが淡々と促す。


俺は確認した。《3番》。セーフ。

そっと周囲を見ると――


「1番、あたしだ……」

さやかが眉をひそめるように笑う。


「5番は、……俺」

ゆうじが、少しだけ口元を引き締めて答えた。


「ええっ!? わたしとゆうじ!?」

さやかが明らかに動揺している。

「なんで!? たくみ~、変わってよぉ~!」


「だーめだめ。ルールはルール」

たくみが手を振って断る。笑ってはいるけど、少し複雑そうな顔だ。


「じゃあ、座るよ。…え、背中合わせって、こう?」

さやかが戸惑いながら座る。ゆうじも無言で、その背にそっと背中を預けた。


二人の間に、空気がぴんと張りつめる。

背中が触れ合って、さやかが小さく息を呑むのが聞こえた。


「じゃ、スタート。さやかからどうぞー」

なおが進行役のように仕切る。


「え、ええっと……ゆうじの、いいところ……」

さやかが言葉に詰まりながら、

「えーっと、たぶんだけど……芯がしっかりしてるところ? あと、なんか空手やってる姿、かっこいいかも? えー、なんかムカつく~!」


「それ褒めてない」

たくみが即ツッコミを入れる。

 

「次、ゆうじー!」

なおの声で、場が一瞬静かになる。

ゆうじがしばらく黙っていた。背中合わせのまま、さやかの肩の動きで、彼女が緊張しているのが分かる。



「…さやかさんは、明るくて、誰にでも優しくできる人。…あと、笑ったときの目元が、なんとなく好きです」

ゆうじの低く静かな声が、部屋に落ちた。


「……」

さやかが一瞬固まり、それからふいに吹き出した。


「なにそれ、真面目すぎっ! 恥ずかしいんだけどっ!」

顔を赤くしながら、背中合わせのまま肩をすくめる。


でも、笑いながらも、どこかドキッとしているように見えた。


たくみの目が、微かに細くなるのを、俺は見逃さなかった。

 

「……はい、終了~!」

なおが手を叩いて、強引に流すように言った。


「いや~、意外といい雰囲気だったね?はいはい、次いこう次!」

さやかが強く言って、その場を笑いで誤魔化した。


でも、場の空気は、さっきよりほんの少し、ざわついていた。

 

俺の隣で、りなが静かに座り直す。

表情は変わらないけれど、心の奥を覗くような目をしていた。

 

王様ゲームは、たったひとつの命令で、些細な“揺らぎ”を生む。

友情を深めるのか、壊すのか――まだ、誰も知らない。


「さーて、第三回戦、いってみようかー!」

たくみの声が、部屋の空気を明るくかき回す。 



つづく

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