1-1 初めての王様ゲーム~回る浴衣~

1-1 初めての王様ゲーム~回る浴衣~


たくみは皆の反応を見渡し、ニッと笑う。

「じゃあ、最初の王様を決めよう。引こうぜ、くじ!」

たくみの掛け声で、全員が割りばしに手を伸ばす。


俺も少し緊張しながら、束の中から一本を引き抜いた。

割りばしの端をくるりと裏返すと、そこには――


《王様》


という、二文字が、はっきりと見えた。

「おっ、いきなり“けん”か!」

たくみが楽しそうに俺の顔を覗き込んでくる。


「マジか…」

思わず呟く声に、全員の視線がこちらに向いた。


「おおー、けんが王様?」

なおがニヤニヤしながら顔を寄せてくる。

「意外と、やらせたらスゴい命令出しそうなタイプだよね~?」


「そ、そんなことないよ…」

焦って手を振る俺に、なおは笑いながら肩をぽんっと叩いた。


視線の端で、りなが微笑んでいるのが見えた。

それだけで、なんだか胸が苦しくなる。


たくみが促すように言う。

「さぁさぁ、王様の命令タイムですよー。さあ、どうする? いきなり強めにいってもいいんだぜ?」


「いや、最初だし…」

俺は少し考えてから、口を開いた。


「じゃあ――3番、4番、5番。立って、手を繋いで、輪になって……そのまま回りながら自己紹介、してもらおうかな」

 

「え、小学生のレクじゃん!」

さやかが笑いながら声を上げる。

「けんらしいね〜、なんか可愛い命令!」


「はいはーい! 3番、あたしー!」

なおが元気よく手を挙げて、さっと立ち上がる。

「こーゆーの、地味に好きなんだよね!」


「次、4番はオレだな」

たくみがゆっくりと立ち上がり、なおと手を繋ぐ。

「んじゃ、手汗かいても気にすんなよ?」


「って、わたしか……5番」

さやかも立ち上がり、ため息交じりに笑って輪に加わる。

「はいはい、やりますよ。女子力の低い自己紹介ね〜」


3人はぎこちなく立ち上がりながら、お互いの手を繋いで畳の中央へと移動する。

自然と小さな円を作るように立つと、「いっせーの」で一歩ずつ回り始めた。

浴衣の裾がひらりと舞い、わずかに畳がきしむ音がした。


「好きな食べ物はプリンでーす! 人の話は最後まで聞けないけど、走るのは誰にも負けませんっ!」

なおが一回転してポーズを決める。


「好きな言葉は“面白そう”! 妹がいるからか女子の扱いはちょっとだけ上手いです!」

たくみがどや顔で言うと、「また自分でハードル上げた〜」とさやかにツッコまれる。


「好きな映画はゾンビ系! 怖いの苦手だけど見ちゃうんだよね〜。……あと、彼氏は変人です♡」

さやかがにこりと笑うと、すかさず「なんだその紹介!」とたくみが抗議。

「ゾンビは嫌いだな」ボソッとゆうじは呟いた。


みんなが笑う中、3人はくるくると2周ほど回ってから、ぱっと手を離し、席に戻ると、たくみがニヤリと笑った。

「いや~、さすが王様。初手にしては、いいバランス感覚じゃない?」


「うん、盛り上がったし!」なおが親指を立ててくる。


「……ふふ、楽しかったよ」りなが、小さく笑った。


「けん、優しいじゃん。あたし、もっとキツいのくるかと思ってた」

さやかが汗をぬぐうように、額を手で扇ぎながら俺を見る。


「いや、なんか、最初だし…空気壊したらやだし…」

俺は言い訳っぽく笑った。すると、横から静かな声が聞こえた。


「…でも、ちょっとだけドキドキした」

振り返ると、りなが俺に視線を向けていた。


「え…?」


ふっと目を逸らして、りなが小さく笑った。


その仕草が、やけに胸に残った。

このゲームの中で、彼女の本心に、少しでも触れられる瞬間があるなら――


俺はもう少しだけ、王様になりたいと思った。


いつもは空気のように過ごしてきたけど、ほんの少しだけ自分が“中心”になれた気がする。


もちろん、王様なんてほんの偶然の役だけど、

みんなの視線と笑い声が、俺の心を、ほんの少し強くしてくれた気がする。


俺は、割りばしをそっとテーブルに戻した。



次の王様が誰になるか――その期待と緊張が、少しだけ心地よくなっていた。



つづく

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