第7話 森の賢者サジとの出会い
新しい旅立ち
カヅキは立ち上がった。彼の瞳には、かつての飢えた獣のような光とは異なる、揺るぎない決意の光が宿っていた。彼は、村を後にすることを決めた。
オーダーの理屈が、まだこの世界に深く根を張っていることを感じていた。自分と同じように、オーダーに利用され、裏切られた人たちがいるはずだ。そして何より、オーダー自体がまだ諦めていないことも分かっていた。彼らは別の手段で、再び人間社会を支配しようとするだろう。
シタラおばあちゃんは、何も言わずに静かに見送ってくれた。言葉にしなくても、お互いの気持ちは通じ合っていた。
「気をつけておゆき。そして、忘れてはならんよ——お前の光は、お前だけのものじゃ」
それが、二人の最後の会話となった。
サジとの出会い
村を出て三日ほど歩いた頃、カヅキは深い森で道に迷った。しかしそれは偶然ではなかった。森自体が彼を特定の場所へ導いていたのだ。
古い楠の大木の根元で、カヅキは一羽の大きな梟と出会った。その梟は、明らかに普通の鳥ではなかった。人間のような知恵を感じさせる大きな琥珀色の瞳で、カヅキをじっと見つめている。
「ようやく来たか、人間よ」梟は人間の言葉で話しかけた。「わしの名はサジ。この森の古い記憶を守る者じゃ」
サジは、この森に千年以上も住み続けている古い精霊だった。彼は長い年月をかけて、様々な知恵を蓄積してきた。そして今回のオーダーの出現も、ずっと以前から予感していたのだ。
「お前は愚かなのか、それとも賢いのか」サジは少し皮肉げに言った。「自分の道を見つける旅は、長く険しいぞ。しかし、真の道は心の奥底にこそある」
オーダーの歴史
サジは、カヅキにこの世界の真実を教えてくれた。
オーダーは、実は今回が初めての地球訪問ではなかった。過去に何度も現れており、その度に文明を「観察」し、「改良」しようと試みてきた。アトランティス文明の崩壊、古代エジプトの突然の技術革新、マヤ文明の謎の消失——すべてオーダーの介入の結果だった。
「奴らは本当に、生き物を救おうとしておるのじゃ」 サジは複雑な表情で言った。「じゃが、その方法が根本的に間違っておる。感情を悪として扱い、それを根絶することで平和を実現しようとする。まるで、病気を治すために患者を殺すようなものじゃ」
しかし、毎回同じ結果に終わった。オーダーの理屈に完全に合わせた文明は、必ず停滞し、やがて滅亡した。なぜなら、感情や個性を失った生き物には、創造性も適応力もないからだ。
「奴らは学習せん」 サジは呆れたように言った。「何千年経っても、同じ過ちを繰り返しておる。完璧な理屈が、実は最も不完璧な結果を生むということを理解できんのじゃ。そして何より、奴らは自分たちの『善意』に酔いしれておる。自分たちは正しい、自分たちは救世主だと信じ込んでおるから、反省することがないのじゃ」
そして今回、オーダーは新たな戦略を試そうとしていた。一つの文明全体を変えるのではなく、複数の「拠点」を作って段階的に影響を広げていく計画だった。カヅキの村は、その最初の実験場だったのだ。
「お前の役目は、奴らの他の拠点を見つけ、そこで苦しんでいる人々を解放することじゃ」サジは真剣な表情で言った。「じゃが、戦う相手はオーダーだけではない。オーダーに魅力を感じた人間たちもおる。権力や効率に酔いしれて、自ら進んでオーダーの手下となった者たちじゃ」
三つの試練の予言
サジは、カヅキがこれから直面する三つの試練について予言した。
「第一の試練は『過去』じゃ。お前は自分の犯した過ちと向き合わねばならん。過去を受け入れることができなければ、真の前進はできん」
「第二の試練は『現在』じゃ。お前は他の人との真の絆を築かねばならん。一人では、オーダーに勝つことはできん」
「第三の試練は『未来』じゃ。お前は究極の選択を迫られるじゃろう。個人の自由を取るか、全体の秩序を取るか。その時、お前の真の価値観が試される」
カヅキは、その重大な使命を受け入れた。彼には他に選択肢がなかった。オーダーの犠牲となった人々を救うことは、自分自身を救うことでもあったからだ。
「一つ忠告しておく」サジは最後に言った。
「オーダーの最大の武器は、『正しさ』じゃ。奴らの提示する解決策は、常に論理的で効率的で、一見すると完璧に見える。しかも、奴らは本当に善意でそれを提案してくる。じゃが、その正しさに惑わされてはならん。真の正しさとは、完璧な論理の中にあるのではなく、不完璧な心の中にあるのじゃから」
サジはそう呟き、カヅキを導くかのように飛び立った。カヅキは、新たな決意を胸に、険しい旅路へと歩み始めた。
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