第10話 グループワーク

 やあ、おいらです。


 おいらは物語世界の住人ですからなにもできないのですけれど、現実世界には腹が立って仕方ないことがたくさんあります。なかでも一番、怒髪天を衝くほど身体が震えることは中東の某ユダヤ民の国のイカれた首相による某イスラム教自治区民へのジェノサイドです。本当にあの首相という名の悪魔をぶち殺したいです。えっ、お前の力なら簡単にできるだろうですって? ええ、小説の中ではできますよ。実際、どこかの話で「やっつける」って書いていますもの。でも、現実には当然ながらできません。できるわけないですよね。おいらは物語世界に住む架空の生き物ですもの。

 それにしても、ユダヤ民族という存在は聖書の時代から故国を追われ、世界中に散らばって、頑張って裕福になった人が多くなったところで、ナチス・ドイチュのアダルト・ヒトデナシラーに目をつけられて、ホロコーストと呼ばれる大虐殺を受けた同情するしかない方々なのはみなさんご存知ですよね。それから八十年、そのユダヤの国の首相がホロコーストと同じことをするなんて信じられません。まずは、国内で強力な反対革命を起こして、平和を取り戻してほしいところですが、できない話なのでしょう。


 ならば、どこの誰ならできるのでしょう? アメリア合衆国のスランプ大統領ですか? 彼にはできません。だって、第二次世界大戦後にあのユダヤ民の国を強引に建国した首謀国はアメリアですからね。

 では、国連? ははは、国連という組織にいったいなにができるのでしょう。現在は日本やドイチュが加盟しているので勘違いしやすいですが、日本人が考える国際連合という、一種の世界政府的なイメージは大間違いでして、あれは連合国、つまり第二次世界大戦の戦勝国の組織なのです。国連の中心に安全保障委員会という意思決定機関がありますが委員会の常任理事国はすべてかつての戦勝国であり、それらの国はそれぞれ拒否権というすべての決議案をちゃぶ台返しできるアホな切り札を持っています。そんなものがあるので、国連では世界、地球に関する大切なことをなに一つ決められません。おいらにいわせてもらえば国連などあってもなくても良い存在なのです。だからこの瞬間も飢餓に陥っている子どもたちを国連は一人も助けられません。


 もうあとは神による天罰と救いを待つしかありませんね。でも、神という存在も実は人間の想像力が作り出したもので、ほんとうはいないのではないかなあという気がしなくもないのです。だって、いくらみんなが平和と平穏を祈っても人類誕生以来、一回も叶っていませんよね。どうなっているのでしょう?


 さて、そんなことは考えもせずに、星野大佐はカプセルから取り出した紙を見つめています。


 雷音阿闍梨から気合いを入れられた星野大佐は、おそらく自分のグループであろう集団の方に向かって歩を進めました。そのグループだけ、忍者衆の姿がなかったからです。そんな大佐を、

「星野大佐、お待ちください!」

 と後ろから誰かが声をかけます。大佐が振り向きますと月夜野曹長と五人のガタイの良い男性隊員が五人、敬礼していました。

「私と共に星野大佐につく五名です」

 月夜野が紹介しようとします。すると、星野大佐は、

「ちょっと待って。いまはあちらの方が大事だから」

 といい、手をひらひらさせて自分のグループらしきグループの方にスキップしていきました。グループに軽い動揺が感じられます。

「お待たせ! 星野チームの方々で間違いないでしょ?」

 すると、初々しさの見える男性六人と女性一人の計七名が、

「はい」

 と声を揃えて答えます。

「うん、返事がきちんとできるなんて素晴らしいことだわ」

 なぜか、星野大佐は七名をおだてます。挨拶くらいは新人研修で指導していますが。

「申し遅れました。ワタシは星野ひかり。いちおう、このミッションの司令官だけど、あくまでもここではあなたたちのリーダーだから、なんでも気楽に話してね。そうだ、あなたたちもそれぞれ自己紹介してよ」

 星野大佐はあくまでも軽い調子で話を進めました。すると、紅一点の女性隊員が手を挙げて声を出します。

弁財天音べんざいあまねと言います。通信司令室から来ました。趣味はハードロックです。星野大佐のお噂はかねてより聞いています。よろしくお願いします」

 お噂ってなんでしょう? 星野大佐は首を捻りましたが、とりあえずスルーしました。つづいて、

「自分は禄寿福ろくじゅふくといいます。特殊攻撃部所属であります。自分はウッドベースが弾けます」

 と体格の良い男性隊員が自己紹介します。ここまで二人趣味がミュージックということは……

「私は布袋辰泰ぬのぶくろたつやすです。第五潜水艦隊にいます。エレキギターの申し子といわれていますがなにか?」

 でしょうね。

「オレは恵比寿義和えびすよしかずだなあ。関東方面守備隊にいるんだなあ。マンガとギャンブルとドラムがすきなんですよ」

 ふーん、ムリな設定ですね。

「ぼくは大黒天だいこくそらです。科学技術庁からの出向でメカニックのメンテナンスをやっています。手先が器用なので小学生の時からピアノを習っています」

 鍵盤楽器がきました。

「私は寿老人ことぶきおいじん。寿老が苗字で人が名です。第一空挺団所属です。サックスなら老けます、じゃなくて吹けます」

 耳では決してわからないダジャレです。

「拙僧は毘沙門びしゃもん。天熊寺の僧兵です。阿闍梨の命によってきました。拙僧は洋楽器は弾けません。ただ、笙なら嗜んでおります」

 なぜ、仏僧が雅楽を嗜んでいるのでしょう。大疑問です。しかし、みなの自己紹介を聴いた星野大佐は、

「じゃあ、やろうね、バンド。ワタシはボーカル。バンド名はねえ『八福神』! イエーイ!」

 と浮かれています。星野大佐はこんなとってつけたような名前が本名の人たちがカプセルトイで偶然揃うと思っているのでしょうか? 本当は、「佐藤」や「鈴木」のようによくある苗字の方が現代小説的にも自然でしょう。しかし、この物語は“ギャグ小説”なのです。七名いたら『七福神』にどうしても寄せちゃいます。まあ、別に乃木坂46の『七福神』の氏名もじりでも良かったのですが、最近の乃木坂46は『七福神』とかいわないみたいなのでやめました。なんて、執筆の舞台裏をバラしても仕方ありませんし、みなの後方でグッと堪えて黙っていた月夜野曹長が、

「星野大佐、そろそろ我々の自己紹介もさせてください!」

 と少しお怒りモードで訴えます。しかし、それに対して星野大佐は、

「月夜野ちゃん、もうこれ以上自己紹介を続けていたら、ただでさえPVが少ないのに、数少ない読者さままでがいなくなってしまうわ。だから、そこの男性隊員五名は付き人1、2、3、4、5と呼ぶわ。あなたも付き人総取締に名前を変えようかしら」

 と辛辣に通告しました。五人の付き人たちは、

「我々はモブなんですね」

 と自嘲していいました。それを聞き逃さなかった星野大佐は、

「そう。だけどそれはこの物語だけの話。みんなの主観の中ではみんながそれぞれ主人公って田尾安志がむかし歌ってたわ。だから、腐らず頑張ってね」

 と慰めの言葉をかけました。


「そんなことより星野大佐、わたしたちが捜索する地域はどこですか?」

 弁財が訊ねます。

「ああ、そうね。うふふ、この地域よ」

 なぜか、薄笑いを浮かべて星野大佐は紙切れをみなに見せました。

「えっ?」

 全員それを見てポカンとしてしまいました。紙切れには、

“りとう”

 と、ひらがな三文字が書いてありました。

「“りとう”とは離島のことでありますか?」

 禄寿が訊きます。

「そうよ。離島って漢字が頭に思い浮かばなくてとりあえずひらがなにしちゃった」

 星野大佐は恥ずかしそうに答えます。

「あのカプセルトイの中身は全部、大佐の自作なんですか?」

 布袋がびっくりします。

「そうよ。昨日は徹夜だったわ」

 元気にいう星野大佐。

「ええと、どの地域の離島ですか?」

 寿老が質問します。

「当然、日本全国よ」

「えーっ!」

 またもやみなビックリします。星野大佐が解説します。

「ええと、日本には14120の離島がありますが、良かったね、有人の離島はたった418なのよ。あれ、喜ばないの?」

 みなはハズレくじを引いてしまったと思っているようです。

「全国418島、すべてをまわるのですか?」

 禄寿が星野大佐に訊ねます。

「それはないわ。まず、各島の役所が市区役所や町村役場の戸籍情報連携システムとオンラインで繋がっていれば、それをハッキングして候補者がいるかどうかを調べればいいの。念の為、法務省の戸籍台帳と総務省の住民基本台帳にもハッキングして照会をするわ。ただ、万が一、離島すぎてシステムに接続されていないところがあれば、現地に行って役場に侵入して出生届をコピーするか現物を見ちゃうかして確認する必要があります。でも、行き帰りは辛いけど件数自体は少ないと思うので一泊二日くらいでできる簡単なお仕事でーす」

 星野大佐が踊るように説明しました。

「ということは、まずは島ごとにハッキングですね」

 弁財がいいます。

「そう。物分かりがいいわね天音ちゃん。じゃあ、まずは418島を都道府県ごとにまとめて、七つにわけて、コンピュータールームでハッキングしてくださーい」

 星野大佐が大きな声で号令しました。

「大佐はしないのでしょうか?」

 月夜野曹長がおずおずと訊ねます。

「あんた、ワタシは司令官だよ! わかってるわよねっ!」

 と鬼のような形相で星野大佐が月夜野を睨め付けました。

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