第6話 帯広の娘
やあ、おいらです。
あの、この作品はあくまでフィクションなので時代はいつかわかりませんし、登場人物は歳をとりません。ましてや、季節感など書くつもりもありません。
しかし、2025年の夏の暑さは異常ですねえ。原因は温室ガスによって引き起こされた気候変動に決まっていますが、この先、小手先の二酸化炭素対策をしても無駄でしょうし、来年再来年と夏の平均気温はぐんぐん上がって、最高気温50℃なんて日が来るのも現実味があるように思います。そうなると、日中は外出禁止令が出されて、夜間しか屋外活動ができなくなってしまい、労働生産性はガタ落ちになるでしょう。
逆に冬は暖冬になるのかというと必ずしもそうではないような気がしますので、社会生活は無茶苦茶になるかもしれません。
世界の先進国はもうずっと前からこうなることを予測していたはずなのになんら具体的な対策を施しませんでした。人間がいかに自分勝手でおバカさんだと良くわかります。『正常バイアス』でしたっけ?
おいらは賢いエゾヒグマですから、この組織結成の時からクリーンエネルギーの開発を科学技術庁長官の
それはさておき。
おいらは居室に伊賀衆の棟梁、
あえていえば、伊賀衆は個人働きが得意で甲賀衆は集団作戦に長けているような気がします。
おいらは二人の棟梁に今回の仕事の目的を詳細に説明し、何名くらいずつ部下を出せるか訊ねました。すると、棟梁たちは一様に「部下の高齢化が進み、若手の育成が進まず、目的を辛抱強く達成させられる忍びは十人ずつくらいです」というなんとも期待はずれなことをいいました。
「あのねえ、捜索範囲はこの国の隅から隅までなんだよ。合わせて二十人では実行不可能だよ」
おいらは情けない忍者衆の棟梁たちに苛立ちを隠せませんでした。すると服部が、
「しかし、ぺこりさま。情報収集部で全国の戸籍管理部門のサーバーに侵入し、メッセ139世が身罷られた日に出生届を出した赤ちゃんを抽出すれば、だいぶ人数が絞られて少ない人数でも捜索できるのではないでしょうか」
と献策してきました。おいらは、
「巨蔵棟梁、あのね『出生届』というのは誕生から十四日以内に役所に届ける義務があるの。つまり、逆にいうと十四日の猶予があるわけ。だから、必ずしも本当の出生日を届けなくても、ずらすことが可能なんだよ。それに、出生届に出生時間は書かれていない。だから、当然参考にはするけれど確実性には欠けるわけ。なので、メッセ139世の崩御日の前後十四日の出生届を抽出する必要が出てくる。当然、対象者は増大するから二十人程度では間に合わないんだ。もちろん、棟梁たちの力も必要だけど、最低五百人以上の人員がいるね。ほかの忍者衆で戦力になるところはあるかな」
と長長舌しました。すると多羅尾が、
「あとは、風魔衆くらいでしょうか。雑賀衆や根来衆は鉄砲専門ですから探索には向いていません」
と答えました。
「うーん。風魔衆とて事情は変わらないだろうね。みんな、蛇腹の『薬遊び』のせいだな。仕方ないから一般隊員で人数を揃えよう。忍者衆はリーダー役を頼むよ。それと、いま思ったのだけど全国の産婦人科や助産院のデータを収集できれば出生時間まで正確な情報を得られるかもしれないね。だけど、ネットワーク化されているかどうかわからないから結局は足で情報を稼ぐ必要があるかもしれない。これは人海戦術だね。よろしく頼むよ」
そう、おいらがいいますと、
「はっ」
と二人の棟梁が平伏します。風魔衆の棟梁はあとで呼び寄せることにします。その時、
「ぺこりさま、全体を統括する司令官を決めなくてはなりません」
と羽鳥統合参謀本部長がいいました。
「ああ、そうだね。誰か適任者はいるの?」
おいらは訊ねました。
「いえ、いまはなんともいえないですが、全隊員の詳細データから、科学技術庁で作成した生成AI『くまんばちくん』を利用して、最適な人物を抽出してみましょう」
羽鳥は端末を出して、早速検索しました。答えはすぐに出たようです。
「うん? うーん」
端末の画面を見つめた羽鳥は首を捻ります。
「なんだ、バグったの?」
おいらが訊くと、
「はい、帯広ファームの農場長に出向しています、
と羽鳥が答えます。
「ウチの科学技術庁の研究員は世界でも超一流の人材の宝庫だよ。間違いはあるまいよ。その星野大佐の履歴と職歴を出しておいらに見せてくれ。とりあえず、今日はこれくらいにしよう」
おいらは散会しました。
みなを下がらせて、おいらは夕御飯をたらふく食べます。ああ、お酒は呑みません。お酒を呑む生物は基本、ヒトだけです。多くの生物はアルコールを毒と認識しています。同様に、辛みや苦みも毒になります。ほとんどの生物にとって必要なのは高カロリーと甘みです。なぜなら、おいらを含めた生物たちは迅速に大きく、強くなりたいのです。おいらは雑食性なので肉や魚も食べますが、フルーツが一番好きです。しかし、尋常でなく大きくなってしまいましたので、お勝手係の
夕御飯が終わるとテレビを観るか読書をするのですが、以前はCS放送でプロ野球横浜マリンズのゲームを観戦していたものでした。しかし、ここ数年はチームが微妙に弱いのと、「こんなことに三時間も費やしていいのかな」というコスパな気持ちが芽生えて、読書をすることにしています。とはいっても自己啓発や経営、マネジメントなど勉強をするための本は眠くなるだけなので、小説それも文庫本の小説を読んでいます。好きなジャンルはミステリー、ハードボイルド、歴史小説です。佐伯泰英さんみたいな時代小説は読みません。いくら歳をとってきても『おじいちゃんのライトノベル』を好むほどの年寄りではないのです。だいたい、おいらには孫も子もいませんからね。
読み疲れた頃にテレビでニュースを観ます。首都圏限定で申し訳ございませんが八時四十五分からNHKの『首都圏ニュース845』を観ます。だいたい週一で出演する、宮崎あずさアナがかわいいです。そのまま九時から『ニュースウォッチ9』九時五十四分になったら、テレビ朝日の『報道ステーション』。もちろん安藤萌々アナが目当てなのと、いつも悲惨な現場に送られる下村彩里アナのやつれっぷりが心配でつい見てしまいます。
あ、いけない。ぺこりワールドではNHKは国営放送、テレ朝はテレビサンライズでした。まあ、大目に見てください。
さて、おいらは早寝早起きなので十一時に寝て、五時に起きます。なので、おやすみなさい。
その頃、北海道(蝦夷国)帯広の『くまさんファーム帯広農園』の管理棟。一人の女性が端末を見て断末魔を上げていました。
「ギャー、一年半で配置換えの臨時人事発令って何よー! せっかく、みんなとも仲良くなれて成果も上がってきたのに! バカ人事部があ〜」
この雄叫びをあげていますのが、星野ひかり大佐(24)です。本部からは「副農園長に明日の午前中に引き継ぎを完了し、午後イチの飛行機で上京し本部に来ること」という司令文がついていました。あまりに急ですね。“メンタルお化け”と同僚にいわれている彼女でもテンパるようです。
「うわー」
寝ていたおいらも雄叫びをあげました。
「スウェーデンと日本じゃ時差があるじゃん!」
なんで、いままで誰も気が付かなかったのでしょう。しかし、おいらは、
「まあ、明日話せばいいか」
とつぶやいてまた寝ました。
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