第7話「記憶の欠片」

 今日は、珍しく、わたくし自身に関する記憶データが届きました。


送り主:ハル(記憶配達人ID-7749)

宛先人:ハル(記憶配達人ID-7749)

最後の言葉:過去の記憶断片


「これは奇妙だね」


 上司が首をひねります。


「君が君に配達するって、どういうことだろう?」


 わたくしにも、よく分かりませんでした。でも、その記憶データを再生してみると、懐かしい光景が蘇りました。


 わたくしが、まだ新人の記憶配達人だった頃の映像でした。初めての配達で、緊張して手が震えていました。


『頑張れ、ハル。君の仕事は、とても大切な仕事なんだから』


 優しい声が聞こえました。それは、わたくしの先輩、サクラさんの声でした。サクラさんは、わたくしに記憶配達人の仕事を教えてくれた先輩であり、恩師でした。


 でも、サクラさんは、五年前に突然姿を消しました。配達中の事故で、データが破損したと聞かされていました。


 記憶データには、サクラさんとの思い出がたくさん残されていました。


『ハル、記憶配達人の仕事は、ただ言葉を運ぶことじゃないのよ。心と心を繋ぐ、橋渡しなの』


『時には辛い言葉もある。でも、その奥にある愛を見つけることができれば、きっと相手の心に届くわ』


『効率や成果ばかり気にしちゃダメ。一つ一つの配達に、心を込めることが大切よ』


 わたくし、目頭が熱くなりました。サクラさんの教えが、確かに、今のわたくしを支えていてくれたのです。


 でも、なぜ、この記憶データが今、わたくしに届いたのでしょうか?


 記憶データの最後に、サクラさんからのメッセージがありました。


『ハル、あなたは立派な記憶配達人になったのね。私の記憶は、あなたの中で生き続けている。これからも、心を込めて、大切な想いを運び続けてください』


『そして、いつか、あなたにも後継者ができたら、この気持ちを伝えてくださいね』


 わたくし、やっと理解しました。この記憶データは、サクラさんが消える前に、わたくしのために残してくれた、最後の贈り物だったのです。


 翌日、わたくし、新人の記憶配達人、ユウキ君に出会いました。

 彼は、まだ仕事に慣れず、自信を失いかけていました。


「ユウキ君、一緒にお茶でもしませんか」


 わたくし、サクラさんがわたくしにしてくれたように、ユウキ君に優しく声をかけました。


「記憶配達人の仕事は、心と心を繋ぐ、橋渡しなんですよ」


 わたくし、サクラさんの言葉を、ユウキ君に伝えました。


 ユウキ君の目が、だんだん輝いてきました。


「ハルさん、ありがとうございます。僕、頑張ります」


 サクラさんから受け継いだ想いは、今度はわたくしから、ユウキ君へと受け継がれていく。記憶は、人から人へと繋がって、永遠に生き続けるのですね。


 わたくしの記憶の欠片は、実は、サクラさんからの、とても大切な贈り物だったのです。

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