やめろ!

 やめろ!

 命を棒に振るな!

 ヤジが聞こえる。

 どうしてそんなことが言えるのだろう。

 本人には本人の悩みが、天才には天才の悩みが、おれにはおれの悩みがあるのに。

 無責任だな。

 声を上げた時点で無関係じゃないのにな。

 お遊びなら要らないし。

 本当なら皆が集まる前に飛び降りてるはずだし。

 きっと、止めてほしいんだろうな。

 これ見よがしに立つ必要なんてないもんね。

 善くないな。

 良くないか?

 よくないよな。

 よく見ると死臭のした少年だった。

 薄ら笑いを浮かべていたあの。

 いま考えるとあの笑いかたはもう、限界だったサインだったのかもしれないな。

 まあ、おれには関係ないけど。

 うっすらと死臭の匂いがする。

 あの、母親の匂いだ。

 おれは思い出してしまう。

 旅行から帰ったとき、天国に行ってしまっていた母親の姿を。

 臭かった。

 それもすごく。

 まあ、そんなことはどうでもいいや。

 終わったことだ。

 葬儀もしたし。

 少年の方を向いたとき、影が横切った。

 小さい影が横切った。

 ちょうどあの少年と同じぐらいに見えた。

 そんな気がした。

 やめろ!

 命を棒に振るな!

 同じヤジが飛ぶ。

 あの少年に飛ぶ。

 少年は一歩下がる。

 辺りは黄昏時。

 五月蝿くも必死な声は、少年に届いたのだろうか。

 密かに想で祈るおれはきっと、偽善者なのだろうな。


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