そそくさ

 悪い予感がした。

 私の予感はほどほどに当たる。

 だから、周りを見渡してみた。

 そしたら、鼻をつまみたくなるほどの匂いを放つ少年がふらふらと歩いていた。

 こいつか。

 私はそそくさと立ち去ろうと決めた。

 早歩き。

 うつむく私。

 頭の座っていない少年。

 横切るときに一瞬だけ見てしまった。

 気になってしまった。

 破れた服。

 薄氷のような肌。

 骨と皮だけのように見える腕と足。

 こんな子供がいるんだ。

 私の子供にはこんなことにならないようにしよう。

 私はその子供にはなにも言わなかった。

 怖かった。

 恐かった。

 責任を取れない。

 どうすればいいのか分からない。

 私は立ち去った。

 そそくさ、そそくさと。

 薄ら笑いを浮かべていた少年を他所に。

 そそくさ、そそくさと。

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