それだけだった

 ごぼうみたいに細い足と腕をしてる少年がいた。

 少年からは、獣の威嚇のような音がしてる。

 見てはいけない。

 視てもいけない。

 他の人が助けるだろう。

 そうだろう?

 ボロボロの服を着たあの少年を助けるのは、俺である必要はない。

 みては、いけない。

 しょうがないことなんだ。

 この後会社で仕事があるから、そんなことをしてる時間はない。

 俺は少年と目も合わせず、ただ無表情で歩いていく。

 外は少しだけ、腐敗臭がしてた。

 その匂いがなにを表しているのか、俺には分からない。

 でも、考えてはいけないことだと思ってしまった。

 それだけだった。

 それだけなのに、匂いはいつまでも鼻に残っていた。

 その匂いは薄れることなく、住み着いてしまった。

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