第45話 絶体絶命のスライダー

「あ、あなたのシナリオってどういう意味?」

 私は震え声で尋ねた。

 

「まだわかんないのか?俺がこの世界を作ったのさ、ちょっとかわいい女にすぐにへらへらするどうしようもない男どもを世の中から掃除するためにね」

 ヨシオが語る内容に、私は愕然とした。彼がこのゲーム世界の創造者だったなんて。


 「あんたも災難だったな、プレイヤーじゃなくモブ女子として取り込まれちまうなんて、このゲームは一人用なんだよ。二人一緒にこのゲームに入ってきたのはお前らが初めてだ。おかげでシナリオに破綻が起こりまくってこっちは大変だっつうの」


 「な、なんでこんなことするの?私たちを元に戻してっ!」

 私は胸の前で両手を握り祈るように叫んだ。この悪夢のような世界から、翔と一緒に脱出したい。

 自然な女性らしいしぐさでの訴えがヨシオには面白かったようだ。

 

 「へ~、三カ月も女の体で過ごしていれば、洗脳していなくてもそこまで意識の浸食が進むんだね。面白いや。でもそろそろあんたには退場してもらうよ。これ以上このゲームのシナリオをめちゃくちゃにされたらたまらないからね」

 ヨシオは私をにらみつける。その視線に殺意を感じて、私は身を震わせた。

 

「もうすぐ詩織たちが戻ってくる。そしたらお楽しみ、ウォータースライダーだ。滑ったら最後、溺れても死亡。創太に助けられても死亡。ホント、俺が直接手を出せないから苦労したよ」


「あ、あなたが詩織たちにイベントのことを教えてたのね」


 私は理解した。ヒロインたちが私を排除しようとする理由、山登りイベントでの熊の襲撃、そして今回のプールイベント。すべてヨシオが仕組んでいたのだ。


「ああ、彼女たちは公平を基すためにゲームが終わるたびにイベント関係の記憶はリセットされてしまうからね、君を退場させるためだけに、本来なら知りえない情報を詩織たちに渡してやっとここまで来たのさ。彼女たちは高性能なAIだけど、それゆえにの俺の言うことを素直に聞いてくれないんだよ。おかげでシナリオが破綻寸前だよ」

 

 やはり私を排除することが目的だった。スライダーまで連れていかれたら逃げるすべはない。

 早く逃げなくては。

 そう思った矢先、プールから上がった創太たちが戻ってきた。

 

「プールの中気持ちよかったわよ、ヨシオ君もくればよかったのに」

 プールから戻った舞美がヨシオに声をかける。濡れた金髪が日光に輝き、ピンクの水着が彼女の魅力を際立たせている。


「俺はナンパに忙しかったの!かわいいおねーさんがいっぱいいたからね」

 ヨシオはいつもの調子でお茶らけて答える。さっきまでの恐ろしい表情が嘘のように、軽薄な笑顔に戻っている。


 「ねえ、私たち今から中央のウォータースライダーに行くんだけど、佐伯さんも一緒に行かない?」

 中央にそびえ立つ滝のような急勾配のウォータースライダーを指さして詩織が優しい声色で話しかける。


 「え、わ、私泳げないから、ここで待ってます……」

 何とか逃げ道はないか、きょろきょろと周りを見渡す。しかし、いつの間にか三人のヒロインに囲まれている。逃げられない。


 「大丈夫よ、スライダーだから泳ぐ必要はないわ」詩織が誘う。

 

「でも……」

 私が躊躇していると、いらいらした口調で小鞠が口を挟できた。


 「大丈夫よ、行きましょう」

 問答無用とでもいうように、小鞠は私の手をつかんで無理やりに引っぱる。くるまっていたバスタオルがはらりとほどけ、紺色のスクール水着があらわになる。


 「きゃっ」

 まだ水着姿を人前にさらすのには抵抗がある。特に創太の前で、この女性的な体を見られるのは恥ずかしくて仕方がない。私は自分の体を抱きしめるようにしゃがみ込む。

 しかし、そんな私態度が気に入らなかったのか、小鞠はいらいらした表情で。再び私の腕をつかみ、引きずるように歩き出す。


 「おい、小鞠、ちょっと乱暴だ」

 小鞠を止めようとする創太の腕をつかんでヨシオが引き留める。

 

「今からスライダーで大事なイベントが発生するんだ、ゲームシナリオの流れを止めちゃダメだろ」

 ヨシオは楽しそうに笑いながら連行されていく私を眺める。まるで獲物を弄ぶような、残酷な笑顔だった。

 そうしている間も私は小鞠に引きずられるように連れていかれる。


 「いやです、やめてください……」

 私の弱々しい抗議を、小鞠は無視した。


 今の私のか弱い力では、小鞠の腕を振りほどくことはできない。彼女の握力は異常に強く、まるで万力に挟まれているかのようだった。

 必死の抵抗を試みるが、小鞠は意に介さずスライダーの頂上まで続くらせん階段を私を引っぱって登っていく。


「お、お願いします……私、高いところが怖くて……」

 滑ったらもうおしまいだ。命の危機を感じ震えが止まらない。足がガクガクと震え、階段を上るのもおぼつかない。


 「大丈夫、大丈夫!楽しいから」

 小鞠の声は明るかったが、その笑顔には悪意が混じっていた。私のおびえる姿が楽しくてたまらないという感情があふれ出している。

 

 階段を上るにつれて、地面がどんどん遠くなっていく。プールで遊ぶ人々の姿が小さく見える。風も強くなり、水着だけの体には寒さが身に染みた。


 「創太君も見てるわよ。かっこ悪いところは見せられないでしょ?」

 舞美が意地悪く笑いながら言う。

 振り返ると、確かに創太が心配そうな表情でこちらを見上げていた。ヨシオに腕を掴まれているが、必死に私を助けようとしているのがわかる。

 

 ついに頂上に着いてしまった。

 地平線が見渡せるほどの高さがある滑り口から、滑り降りるコースが4本用意されている。難易度によってそれぞれ角度が違い、もっとも急なスライダーはほぼ直角の崖のようだった。


 その滑り口を見下ろすと、めまいがして足がすくんだ。

「さあ、佐伯さんから先にどうぞ」

 そう言ってもっとも難易度の高いコースに押し出した。


 「え、でも私……」


 「遠慮しないで。せっかく来たんだから」

 舞美も笑顔で背中を押す。しかし、その笑顔は悪魔のように見えた。

 強制的にスライダーの入り口に座らされる。足を滑り口に垂らすと、下から冷たい風が吹き上げてきた。

 創太は詩織たちを止めようとしているが、ヨシオにしっかりと抑え込まれている。


「やっぱり怖いです……やめてもいいですか?」

 最後の懇願をしてみたが、無駄だった。

 

「もう座っちゃったんだから、行くしかないでしょ」

 小鞠がにっこりと笑いながら言った。その瞬間、小鞠の目が一瞬だけ冷酷に光る。

 瞬間、小鞠がみのりの背中を思い切り押した。


 「きゃあああああ!」

 私の体は底の見えない奈落へ滑り落ちていく。

 風が頬を叩き、水しぶきが顔に当たる。世界が回転し、上下の感覚がわからなくなる。そこから先、私の記憶は途絶えていた。





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あとがき


みのりサイドからこの世界の真実に迫っていきます。

『絶コメ』今後の展開にご期待ください。


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 小説完結済み、約15万字、50章。

 

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 過去の作品はこちら!


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