第2話 仲間の意味
続いて僕がやって来たのは、学校の訓練場だった。 ゲームで見ていた時よりも、ずっと大きく感じる。
この世界では、ダンジョンが存在するのが当たり前だ。 ダンジョンアタッカーの育成を視野に入れた学校も多く、小学校であってもこのような立派な訓練施設が備わっているのは珍しいことではない。
僕は、武器の貸し出しコーナーで迷わず“弓”を手に取った。
弓は玄人向けの武器だが、使いこなせば最強の一角になると僕は信じている。 実際、前世では弓使いのランカーとして、それなりの位置まで上り詰めたことがある。
“弓狂い”と呼ばれていたこともある。 懐かしい呼び名だ。褒め言葉なのかどうかは分からないが、僕は勝手にそう解釈していた。
さて——今日の目的のひとつはスキルレベル上げである。
やることはシンプル。 ひたすら弓を500回射る。 これでスキルレベルが1上がる。ただし、1日に上げられるのは1レベルまで。
この作業が、ゲーム内で“地味すぎる”と批判を浴びた要素のひとつだった。
スキルレベルの最大値は2000。
そして、100レベルごとに「区切り」が存在する。
この区切りが非常に厄介だった。 1日でも訓練をサボると、スキルレベルが1つ前の区切りまでリセットされるのだ。
たとえば、以下のような状態だったとしよう:
* 剣:125
* 盾:79
* 炎魔法:214
ここで1日訓練をサボれば、次の日にはこうなる:
* 剣:100
* 盾:0
* 炎魔法:200
そして、逆にいうと、100レベルごとのその区切りまで上げると、それより下にはどうやっても下げることができなくなる。
例えばハンマーのスキルを320レベルまで上げたとする。その後自分にはハンマーが向いていないと判明したとしても、300レベルより下に戻すことは出来なくなる。
このシステムは、当時のプレイヤーたちから多くの不満を集めた。
……気持ちはよく分かる。腱鞘炎になるほどマウスをクリックして稼いだ数値が、一瞬で失われるのだから。
しかも、区切りまで上げたものは決して下げることは出来ないという謎の不可逆性まで備えている。
まあ、その話は置いておこう。
現実となったこの世界で、訓練場にひとり。
僕は、まず200回弓を射ってみた。
きつい。かなりきつい。
ゲームでは、マウスをクリックするだけでよかったが、今は現実。 弓を手に持ち、体を使って射つ必要がある。
小学生でも扱えるような工夫はされているものの、それでも6歳の体には堪える。
腕も背中も、すでに少し張ってきている。
でも——その分、胸が高鳴っていた。
現実になったこの世界で、自分はどこまで強くなれるのか。 そして——前世で誰一人として攻略できなかった“裏ダンジョン”を、今度こそ——。
よし、残り300回。やり切ろう。
今頃、入学式は終わって、教室で自己紹介や初日の説明会が行われている頃だろう。
だが、僕には関係ない。
参加必須の授業やイベント、出席しなければペナルティが発生するタイミング——そのすべてを、僕は記憶している。
入学式を含めた初日の行事は、強制ではない。
もちろん、普通は間違いなく出席する。
社会常識というか、それが当たり前である。
ただ、僕はその辺のことに興味がないため、強くなるために必要なことだけを一直線で行う。
——時間は、いくらあっても足りない。
ゲーム時代には追いきれなかった細やかな情報、たとえば国の情勢や法制度なども、現実世界となった今では積極的に学ぶ必要がある。
そして——何よりも重要なのが、仲間集めだ。
ゲームの中では、育てたNPCが裏切ることはなかった。
だが今は違う。ここでは、すべての人間が意思を持ち、思考し、生きている。
だからこそ、心から信頼できる人物を見つけなければならない。
一見すると面倒な要素に思えるが、僕はむしろ感激していた。
NPCには処理しきれなかった細かな動作や、戦闘テクニック。 それらを、この世界では、実在する人間に存分に教え込むことができるのだから。
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