「さて、と」

「行くのかい?」


「此処は水の中みたいで居心地が良いわ。身体が疲れることもないし、上には太陽。下には月だって見えてる」

「ならもう少し此処にいればいいよ」


「十分休んだわ。それに───」

「それに?」


「同じところに居続ける世界なんてありはしないもの。世界は後退しないんだから、前に進むには自分で歩かないと」

「僕は此処にいるよ」


「知っているわ」

「知っている?」


「あなたはわたしなんだから」

「きみはきっと此処のことを忘れてしまうよ」


「そうかもしれないわね」

「もう来てはいけないよ」


「善処するわ」

「でも、もしものことがあれば、今度は珈琲でも淹れてあげよう。僕は珈琲でも飲んで待っているから」


「珈琲があったの?」

「あったさ」


「なんで言ってくれなかったの」

「聞かれなかったからね」


「ひどい人」

「まったくだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る