みにくいアヒルの子~灰色の翼~

山下ともこ

プロローグ:流されてきた卵

春の終わり。

やわらかな風が湖の面をなでるころ、

一組の白鳥の夫婦が、岸辺の草陰に巣をつくり、そっと卵をあたためていました。


湖は静かで、空はやさしい色に染まり、

まるで、命の芽吹きを祝福しているかのようでした。


けれど、その夜──嵐がやってきたのです。

風が唸り、黒い雲が湖を覆い、水かさはたちまち上がり、

巣はあっという間に崩れてしまいました。


親鳥たちは羽を広げ、身を挺して卵を守ろうとしましたが……

そのうちのひとつが、泥水にさらわれ、流されていってしまいました。


卵は波に揺られ、草むらを転がり、池をいくつも越え……


やがて、静かな小さな池のほとりへとたどり着きました。


その池の近くに、一羽のアヒルの母が巣を構えていました。


彼女は六つの卵を大切に抱えて、身じろぎもせず、夜を越していました。


──そして、朝。

巣の中に、見覚えのない卵がひとつ、まぎれているのに気づきました。


丸くて、白くて……ひとまわり大きな卵。


「……あら? 私、こんな大きな卵、産んだかしら?」

首をかしげながらも、アヒルの母はつぶやきました。


「ま、いいわ。ここにあるってことは……

 きっと、ご縁があったのね。うん、私がちゃんと育ててあげなくちゃ」

そうして彼女は、そっと羽を広げ、見知らぬ卵も、その胸のなかに包み込みました。


──それは、ある命の、運命のはじまりでした。







~あとがき:アヒルと白鳥の卵の違い~


さて、ここからは、あとがき…ちょっとしたおまけのお話。


実は、アヒルと白鳥の卵やヒナには、びっくりするほど大きな違いがあるんです。


たとえば卵の大きさ。

アヒルの卵は、ニワトリの卵より少し大きいくらいですが、

白鳥の卵はなんとその倍以上!

長さ10センチ以上、重さ300グラムを超えることもあるのです。


このお話は、

「もしそんなリアルな違いが物語の中で起きたら?」

という発想から生まれました。


これからもあとがきで、

毎回少しずつ、アヒルと白鳥の“ほんとうの違い”をご紹介していきます。


物語といっしょに、リアルな鳥の世界ものぞいてみてくださいね。




続く~第一章へ~




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