第10話 頼まれたんだから仕方ない

「あれ?友彩ちゃん星好きなの?」


「うん、まあ」


 劇の小物を作るため、星の図鑑を家から持って来てそれを眺めていた時、ある女子生徒が話しかけて来た。


「銀河鉄道の夜は銀河のお話だし、こういうの見ながらの方が上手に作れるかなって思って」


「へぇ…ってすご!めっちゃ上手じゃん!」


 バックからはみ出た、背景に使う手作りの銀河を見ると、その子は目を輝かせて褒めてくれた。


 自分的にはまだまだ本物の銀河には程遠いし、もっと星々の魅力を表現できるはずだと気に食わず、やり直そうとしていたところだから、あまりの高評価に驚いてしまったが、悪い気はしなかった。


「ねえ友彩ちゃん、背景係のリーダーになってよ!」


「えっ」


「こんなに上手なんだから、友彩ちゃんが仕切ってくれたらきっとすっごいのができるって、絶対!」


 本当は、そんなものを引き受けてしまったらみんなと話さなくちゃいけなくなるし、自分には荷が重すぎると思ったが、あまりにも「絶対やったほうがいいって!」と勢いよく言われるものだから、つい首を縦に振ってしまった。


「ま、まあそんなに言うなら…」


「ほんと!?やった!あっ、嫌になったら全然言ってね。私に無理やり任されたって言っていいから」


 その女子生徒――阿多地若菜は、友彩に過度な負担を掛けず、しかししっかり期待の眼差しは残して自分の席に戻って行った。


 ――まじか。


 まさか自分が、劇の背景係長になってしまうとは、なんとも予想外。



 — — — — — — —



「――もう二度と顔見せないで!」


 あの喧嘩別れしてしまった日から、幽霊君のことを一度も見掛けることなく夏休みに入ってしまった。



「ちょっと怒り過ぎたかな」


 なんだかんだで、幽霊君とは毎日のように一緒にいた。一緒にご飯を食べて、一緒に放課後勉強して、一緒に校門まで帰った。


 友彩は、幽霊君が他の人には見えないからずっと一人でかわいそうだって言っていたが、よくよく考えると、実はそうではなかったのかもしれない。

 友彩が独りぼっちにならないように、幽霊君は一緒にいてくれたのだ。


 最初は、自分にしか見えないことが不気味で、一緒の空間にいるだけで鳥肌が立っていたのに、なんだかんだで仲良くなって、会えなくなったらちょっぴり寂しいなんて我儘だ。


「――学校行こうかな」


 背景係長として早く続きを作らないといけないし、もしかしたら学校に行けば幽霊君にひょっこりと会えるかもしれない。


 外は蒸し暑くて、わざわざ制服を着て学校に行くなんて億劫だけど、まあ仕方ない。

 ぱっとやって、ぱっと帰ってこよう。

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