第9話 一度くしゃくしゃにした紙は元には戻らない
「ごめん、その日は隣のクラスの子と遊ぶ約束しちゃったんだ」
「え?でもいつものメンバーは皆行くよ?」
「でも、先月から一緒に今日はお出かけしようって約束してたから。次は絶対参加するね」
中学二年生の五月頃。
週末に、同じクラスの仲良しグループの一人からカラオケに行こうと誘われた。でも生憎、その日は一年の時に同じクラスだった親友と原宿に遊びに行く約束をしていて、前々からしていた約束を破るわけにはいかないと断った。
それだけ聞けば、よくある日常会話。「そっかー残念」と終わるはずだった。
カラオケなんていつでも行けるんだから、また今度行けば良いのだ。
――知らなかった。本当に知らなかったの。その日がグループの一人の誕生日だったなんて。
「友彩酷いっ!他の子はみんな一緒にお祝いしてくれたのに、友彩はそんなのどうでもいいって言ってたんでしょ!?」
学校に登校して、教室に入った瞬間そう涙声で言われた。
もちろん、身に覚えのないことだから、最初は「何のこと?」と頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。
よくよく話を聞くと、カラオケに行こうと誘われたのはそこで誕生日パーティーをするからで、特性のケーキを買ったり、飾りつけまでした豪華なものを計画していたらしい。
先週からグループみんなで準備していたみたいだ。
しかし、友彩は先週体調を崩して木曜日まで寝込んでいた。
だから、それを友彩は知らなかった。誕生日だってことさえ聞いていなかった。
このグループは全員、去年は友彩と違うクラスだったため、まだ本格的に仲良くなって一か月も経っていない。全員の誕生日を把握していないなんて、仲良くなり初めの頃はあるあるだろう。
しかし、金曜日にようやく登校した友彩に、すでにその計画を伝えているとばっかり思い込んだグループの一人が、「カラオケでやる誕生日パーティー来るよね?」という確認をしに来たのだ。友彩が何も知らないなんて考えもせず。
そして、友彩が誘いを断ったのを信じられないと思ったその子が、ちょっと誇張してグループのみんなに最初の会話を伝えたことが止めとなり、今に至る。
まあ、そっからは散々だった。
誕生日を祝ってもらえなかった子がギャンギャン泣き喚き出すものだから、みんななんだなんだと集まって来て、まるで友彩が悪者みたいに軽蔑の目で見られた。
しかもその後、グループのみんなが一致団結して根も葉もないうわさを流すものだから、あっという間に『悪女友彩』の誕生だ。彼女たちがなかなかに陽キャで、発言力も強かったのが運の尽きだったのだろう。
毎日、教科書は無くなるし、体育でペアになったらわかりやすく舌打ちをされた。
挙句の果てには、親友から
「一緒にいると私も悪口言われるから、もう話しかけないで」
なんて言われてしまって、もう発狂物である。
しかし、中学校生活はまだ一年半以上残っていた。
転校なんかも考えたが、お金もかかるし、母に心配をかけてしまうため、決して口には出さなかった。出せなかった。
ただひたすらに、毎日透明人間みたいに存在感を消して、「早く帰りたいな」とだけ考えて日々が過ぎるのを待った。
高校は、家から少し近い進学校を受験した。幸い、そこそこ勉強は出来たからすんなり合格。
入学当初は「新しい環境で頑張るぞ」と意気込んでいた。しかし、中学の時にそんな経験をしてしまったのだ。そう簡単に、友達を新しく作るなんてできる訳がなかった。
話しかけてくれる子ももちろんいたが、
「――友彩ちゃん酷いっ!」
いつもその一言がフラッシュバックしてしまい、上手く笑顔が作れなかった。
まあ、そんな無愛想な子に友達ができるはずないよねって話。
― ― ― ― ― ― ―
「――なんで急に思い出したんだろう」
雨に打たれながら帰ったのが原因で風邪をひき、学校を休んでベッドで寝ながら友彩はそんな昔のことを夢で見た。過ぎたことだしもう忘れようとしていたはずなのに、今になって思い出したのはきっと昨日の幽霊君のせいだ。
朝から何も食べていなくて、腹の虫が鳴る。でも、なんだか胸の辺りがいっぱいで食べれそうにない。
ぐーっと間抜けな音楽が奏でられているのは無視して、頭まですっぽり毛布を被ってもう一度瞳を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます