観戦中にて
広島カーナビーツにハマったきっかけ。父さんに半ば無理矢理球場へ連れられた時だろうか。それともたまたまテレビで見たカーナビーツの守備の上手い選手を見たからだろうか。
いずれにしても、俺は小学生の頃から熱狂的カーナビーツファンになっていた。
◇
それで高校生になって、念願の年間指定席を取った。
◇年間指定席とは、プロ野球などの試合で、一シーズンを通して同じ座席を確保できるチケットのことを指す。一般的に『シーズンシート』とも呼ばれている。
「あっ、緒方さん。こんばんは」
緒方百之助。社会人で、俺の隣の席を取っている。知り合いだ。
隣に見慣れない人もいる。普段は緒方さんの友人と一緒に席へ座っていたのに、俺と同年代だろうか?
「緒方さん。彼女、連れてきたの?」
「違う違う。俺の妹だよ。どうしても行きたいと言っていたから連れてきたんだ。ちょうどもう一つ指定席取っといて良かった」
緒方さんの妹さんがペコリと頭を下げる。
あれ、どっかで見覚えがあるような……?
「一回の表、クラウンズの攻撃は~」
まあ、細かいことはいいか。今は、野球に集中する!
そんなこんなで試合が始まったのだが。
「おいコラ~! 三者凡退ってなんじゃコラッ!」
緒方さんの妹が痛烈なヤジを飛ばすぐらい、打線は絶不調である。
「おいちょっと待て打たれすぎだろぉぉぉ!?」
投手陣が火の車なのも追加する。
◇
その後、なんの見せ場もなく10対0でボロ負けした。球場は途中からお通夜ムードだったし。
「辛いです……」
「まあまあ、今日みたいな日もあるって」
「ていうかさ。今日はなんかクラウンズ贔屓じゃなかったか!? 審判が悪いよ審判が~!」
「確かに今日はおかしかったな」
「はぁ、しっかし、今日の試合は酷かったわ。こんなんだったら野球しばらく観ないわ。それで、明日の先発だれだったっけ?」
◇次の日
「遅刻遅刻! このままじゃまた先生にどやされる!」
俺は遅刻常習犯である。今日も今日とて、遅刻ギリギリに教室へ辿り着いていた。
「コラ。廊下を走ってはいけませんよ」
女子から注意を受けつつ、教室へ入る。てかあれ、その声に聞き覚えがあるような……
球場でものすごいヤジを飛ばしていた声に酷似している。
声の持ち主を見てみると、黒髪で編み込みハーフアップの女の子がいた。というか、昨日見た女の子だった。
「……もしかして、昨日ゴールドスタジアムに居た子だよな……いや、大和撫子の才女様じゃん!?」
大和撫子の才女様、緒方心春と俺は広島カーナビーツの試合で会っていたらしい。
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