桜木莉子の恋愛〜大和撫子の才女様は野球観戦女子でした〜広島弁な面食い女子も添えて

片山大雅byまちゃかり

大和撫子の才女様

 季節は春うらら。プロ野球シーズンが開幕した頃。


「『大和撫子の才女様』と付き合いたいんだ……!」


「無理だろ諦めろ」


 昼休み。アンバランス高校の食堂にて。


 俺は昼食を食べつつ、同じ高校二年生で親友である新井孝男の戯言を適当に聞き流す。


 『大和撫子の才女様』改め、緒方心春。


 噂では、成績優秀、才色兼備、その他この世のすべての『完璧』を詰め込んだかのような高校二年生らしい。


 黒髪で編み込みハーフアップの、どこか儚げがある女の子。


 クラスメイトに自ら話しかけに行くことはほとんどなく、休み時間はどこかに雲隠れしているという。


「可能性を否定するのはいけないことだと思います!」


「いや、無理だろ。釣り合わないし、あの子多分誰にも興味ないよ」


「救いはないんですか……!」


 新井は泣き真似をしながら上目遣いで見つめてくる。


 そんな様子を、箸で持ち上げたラーメンを口に運びながら、一応思案する。


 数秒考えた結果、多分無理だということを理解した。


「そもそもさ。玉砕した男子が何人いると思ってんだ……」


 緒方さんの現実離れした美しさに初心な心を撃ち抜かれた男子が、新井だけなわけがない。


 現在三月。もうすぐ高校生活は一年を越そうとしている。


 それなのに、緒方さんが振った回数は七十人。この学校でも有名な話だ。


 最近は、『付き合える可能性を残したままでいよう……』という謎の思考に行き着いた男子が増えてきて、告白回数も減ってきているらしい。


「うっ……そんなこと分かってるけど! この恋心は抑えきれないんだっ!」


「分かってんのかよ。でもそれ、抑えた方がお前のためだろ」


「辛辣すぎる。でもその通りすぎる」


 新井はガクッと項垂れる。


「ってか、梵は『大和撫子の才女様』と付き合いたいとか思わねぇの?」


「俺は広島カーナビーツ一筋だから、恋人作る気は無いな」


「そうだった。お前カーナビーツキチだからな。恋愛相談人選ミスだ」


「人選ミスだったかぁ~。ならもう、俺が手伝えることはない」


 俺は、丼を持ち上げてラーメンのスープを綺麗に飲み干す。


「さ、帰るか」


「おい待ってくれよー! もうちょっと僕の相談に乗ってくれよーっ!」


「無理、不可能、無謀、困難」


「否定語の乱発だねぇ。へっへっへ。でもな。そんな言葉じゃ僕の『大和撫子の才女様』への恋心は止められないぜ!」


「なら相談要らないじゃんか。せいぜい、勝手に頑張ってくれ」


 新井には聞こえていないだろうと思いつつも、食堂のおばちゃんに『ごちそうさまでした』と言い、流し台に食器を置く。


 新井も続けて『ごちそーさん』と一言。


「それじゃ、俺はこのあと広島カーナビーツのゴールドスタジアムに行ってくる。だから、お前の告白を見届けることは出来ない。頑張れよ。玉砕したら慰めてやるから」


「どうして玉砕する前提なんだ!」



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