第10話 巡回任務

補給品の重量を確かめつつ、私はギルドへと足を向けた。

 昼下がりの通りは多少混雑していたが、目を鋭く保ちつつ人混みをすり抜ける。


 ──余計な戦いは避けたい。だが、戦わなきゃ稼げない。


 古びた木扉を押してギルドに入ると、受付の女性が軽く会釈した。掲示板にはいつも通り、依頼書が無数に貼られている。


 >「提案:現在の体力・装備状況を踏まえ、低~中リスク任務の選定が妥当。市街周辺の巡回任務は推奨対象」


 私はうなずき、受付に歩み寄った。


 「街の周囲を巡回する依頼、まだ残ってるか?」


 「ええ、ちょうど1件あります。北西区域の外縁部、街道沿いを巡回し、不審者や魔物がいれば対処──討伐もしくは報告。報酬は銀貨4枚。討伐対象の種類によっては追加報酬あり」


 「上等だ。受ける」


 「確認しました。《巡回依頼・北西区外縁部 No.47》──アイリス・グレイン、登録。夕刻までの帰還を目安にしてください」


 受け取った依頼書を折りたたみ、ジャケットの内ポケットに差し込む。


 >「備考:該当地域では2日前、単独行動中の商隊護衛が《森林種スティング・ハウンド》と接触。注意を推奨」


 「獣型か。弾で通じるなら、上等だ」


 武装は最低限。戦術カートリッジは1本のみ。回復薬は残り3つ。

 ──万が一の時は、ユグドの支援と脚で逃げるしかない。


 ギルドを後にし、私は街の北西門へと向かって歩き出した。


 街の平和は、誰かが守ってる。

 ──今日だけは、それが私ってわけだ。

街の北西門を抜けると、乾いた石畳が徐々に土の街道へと変わっていく。陽は西へ傾き、あたりを紅に染めていた。


 「……気温、風速、湿度、全部良好。ユグド、目視以外での索敵は?」


 >「検知:生命反応3体、東方向。標準的な哺乳類体温を持つ個体。距離およそ60メートル。行動パターン:待ち伏せ型」


 「伏兵か……犬系って話だったな」


 私は《スレイヴ・ラプチャー》を抜き、銃身にそっと手を添えた。照準モジュールが自動で起動し、視界内に小さな赤い点が三つ浮かぶ。


 ──来る。


 茂みの奥から、黒い影が跳ねた。しなやかな四肢、牙の鋭さ、赤く光る双眸。


 「スティング・ハウンド、確認。──距離、近い!」


 一体目が跳びかかってきたその瞬間、私は足を滑らせるように地面へ転がりながら、ベルトの《散布ユニット》に装着されたカートリッジを叩いた。


 「α2、展開──《スモーク・エミッタ》起動!」


 「プシューッ!!」


 高圧の音と共に、足元から灰色の蒸気が一気に噴き出す。あたり一帯が瞬く間に白煙に包まれ、視界が真っ白に潰れた。


 >「敵視界遮断成功。次の行動──強襲、推奨」


 「了解──っ!」


 私は煙幕の中を駆け抜け、接近していた獣の側面へ回り込んだ。1体、2体──影の動きに合わせて引き金を引く。


 「……ッ、沈めっ!」


 「パンッ! パン!」


 魔導徹甲弾が装甲を持たない野生獣の骨格を粉砕し、うめき声を残して倒れ込む。


 三体目は反撃を試みるも、煙の中で足取りを誤り、反対側からの一撃で昏倒した。


 ──あっという間だった。


 煙が晴れた頃には、私は既に銃を背に回し、獣の死体を確認していた。


 >「討伐確認:スティング・ハウンド3体。牙と肢骨は換金対象。推定追加報酬:銀貨2〜3枚」


 「悪くない。……にしても、《スモーク・エミッタ》の初陣にしては上出来だな」


 私は死骸から牙と前肢を丁寧に切り取り、リュックへと収めた。

夕暮れの街へ戻ると、ギルドの灯りが既に灯っていた。依頼カウンターに向かい、私は獲物の牙と依頼書を差し出す。


 「巡回任務、完了。北西区域でスティング・ハウンド3体。全て討伐済み」


 「確認しました……追加報酬含め、合計で銀貨6枚です。お疲れさまでした、アイリスさん」


 私は無言でうなずき、銀貨の入った小袋を受け取った。


 >「財政状況:銀貨6枚、銅貨2枚。次の装備更新の参考に」


 「次に備える。──それが生き残るってことだろ」


 ギルドを出た私は、夜の風に吹かれながら、ゆっくりと帰路に就いた。


 煙の中で仕留める。

 ──次も同じようにうまくいくとは限らないが、それでも私はやる。

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