第9話 補給と準備

工房を後にした私は、そのまま街の西側にある武具商通りへと足を運んだ。


 この辺りには、探索者向けの装備や薬品、補給品を扱う小規模な店が軒を連ねている。中には違法すれすれの“遺物部品”を売る闇商人もいるが──今の私にそんな余裕はない。


 「ユグド、推奨される最低限の補給品を教えてくれ」


 >「認識:現時点の所持金および任務想定戦闘頻度より、以下の補給が推奨されます──

 >・蒸気カートリッジ:中容量 ×5本

 >・弾薬:対人用(AP)30発、対機械用(魔導徹甲)20発

 >・回復薬:カプセル型 ×3個

 >残余金:金貨2枚、銀貨4枚、銅貨8枚を想定し予算配分中……」


 店先で品定めをしていると、年配の武器商人が目を細めてこちらを見てきた。


 「嬢ちゃん、そいつは《スレイヴ・ラプチャー》か……変わった銃だな。カートリッジも特殊だろう? 蒸気圧高めのヤツじゃないと動かんぞ」


 「わかってる。中圧以上、熱圧縮式で安定供給できるタイプを探してる」


 「おおっと、ずいぶん詳しいな。……なら、これだ。帝国軍の整備流出品だが、品質は折り紙つきだ」


 男が出したのは、銀色の缶に封入されたカートリッジ群。熱圧を逃がさないよう二重構造になっている。


 「これ5本。それと──」


 私はショルダーポーチから銀貨を数枚取り出しながら、弾薬棚を指差した。


 「AP弾を30発、魔導徹甲弾を20。あと……これだな」


 棚の奥にあった、小さな銀筒に目を留める。カプセル型の回復薬。服用後、体内で溶解して即座に止血と筋組織の修復を促すタイプだ。


 「3個、頼む」


 商人が唸るように笑った。


 「嬢ちゃん、探りを入れるわけじゃねぇが……ずいぶん手慣れてるな。まるで軍払い下げの補給係だ」


 「似たようなもんさ。──戦場で必要だった分を思い出してるだけだ」


 受け取った補給品を丁寧にリュックへ収めながら、私は一息ついた。


 >「補給完了。次任務に向け、装備準備整いました。なお、残り資金は金貨0、銀貨4、銅貨2──以後の補給は敵装備の換金依存率が高くなります」


 「了解。……戦場に出るってのは、財布の命も背負うってことだな」


小さな補給店の扉をくぐると、金属と油の匂いが鼻をついた。鉄製の棚に並ぶ蒸気カートリッジの列。普通の中圧型の横に、妙に異彩を放つものが二つ。


 ──外殻が黒光りしてやがる。


 私は歩み寄り、一本を手に取った。表面には薄く刻まれた文字。


 >「識別完了。型番:SE-γ3《スモーク・エミッタ》。蒸気圧噴出による煙幕展開機能搭載。展開範囲:半径約6メートル、視界遮断効果12秒。逃走・奇襲に有効」


 「なるほど、逃げ足用ってことか。悪くないな」


 もう一本の方も手に取る。銀白の外殻に刻まれた細工が施されており、重量感があった。


 >「識別完了。型番:PS-β7《プレッシャー・シールド》。散布時、微圧縮蒸気膜を体表に展開し、1回限りの衝撃緩衝フィールドを生成。中程度の斬撃、打撃、弾圧に対し有効。効果時間:10秒未満」


 「ふぅん……要はバリアか。使いどころを間違えなけりゃ命が一つ分は浮くな」


 私は棚の奥で休んでいた店主を呼んだ。


 「この二本、いくらだ?」


 「……おいおい嬢ちゃん、それ、ただのカートリッジじゃねぇぞ? 帝都技研の流出試作品って噂だ。どっちも銀貨5枚だ」


 私は思わず舌打ちした。ポーチの中を確認する──銀貨はもう4枚しかない。


 「高すぎる。そっちのスモークの方、機構は中圧型と同じだ。外装の加工に差があるくらいだろ」


 「たしかに構造はシンプルだが、即時展開型だ。タイムラグ無しで噴出するタイプは珍しいんだよ」


 >「提案:スモーク・エミッタは価格交渉の余地あり。市場推定価格:銀貨3枚前後。プレッシャー・シールドは性能から見て妥当。ただし、現所持金では両方の購入は不可能」


 私はスモーク・エミッタを見つめ、プレッシャー・シールドに未練を残しながらも、決断する。


 「……スモークの方だけ買う。銀貨3枚──それ以上は出せない」


 店主は少し考えた後、肩をすくめた。


 「まぁいいさ、姐さん。あんたみたいな物騒な目の奴が使うなら、損はねぇ。取引成立だ」


 私は銀貨3枚をカウンターに置いた。残る銀貨は1枚、銅貨が2枚。限界ギリギリだ。


 >「戦術補助アイテムを追加登録。《スモーク・エミッタ》、使用スロット:α2。推奨:任務前の散布試験」


 「了解。……贅沢はできねぇが、生き延びるための手は打った」


 私はスモーク・エミッタをポーチに収め、背を向けて店を出た。


 ──まだ足りねぇ。だが今はこれが限界だ。

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