魔物との対決
「うわああああ!」
俺はエルンに抱きかかえられ、空を飛んでいた。
具体的な速度はわからないが、百キロほどの速度は出ていそうだ。
リリンは驚いている俺とは対照的に、冷静に地上の様子を伺っていた。
一人に任せるわけにはいかないと思い、地上に視線を向ける。
木や魔物が豆粒のように見え、様子はよくわからなかった。
だが、一ヵ所だけ、様子がおかしい場所があった。
「エルン! そこの森から黒煙が上がっている!」
俺は森の中から黒煙が上がっている場所を指差す。
火事でも起きたのだろうか。
「了解です! そこに向かいますね!」
エルンは速度を落とし、地上に向かう。
だが、黒煙が上がる場所から、何者かが飛び上がった。
「あれは......! ガーゴイル!」
紫色の胴体で、黒い翼が生えており、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい見た目の魔物だ。
「ライトさん! このままでは戦えないので、一旦下ろします!」
エルンが地面へ向かい、急降下した。
しかし、地上にはこん棒を持った大男のような魔物が十体ほど集まっていた。
このままでは、着地したところを狙われてしまう。
「エルン! 急停止だ!」
俺はエルンに指示をする。
すると、エルンは急激に減速した。
地上まで五メートルというところで、なんとか停止した。
そこを、大男の魔物が狙い、飛び上がり、こん棒を振りかぶった。
俺たちを地面に叩き落すつもりだ。
エルンはなんとか避けるが、次々と魔物が叩き落そうと飛び上がってくる。
なんとか避け続けるエルンだが、このままでは着地できない。
上に逃げるにしても、ガーゴイルが追ってきており、逃げ場は無い。
「だったら......! エルン! 俺たちを木に向かってぶん投げろ!」
「ええ! そんな荒っぽいことできませよ!」
だが、俺の指示には絶対に逆らうことができないのか、言葉とは裏腹に、俺を持ったまま振りかぶる。
そして、俺は木に向かってぶん投げられた。
木にぶつかると、木の枝が密集している部分に衝突し、落ちる。
すぐ下に太めの枝があり、その上に乗っかった。
「ふう......助かっ......」
一安心していると、リリンの体が上から落ちてきた。
「うえっ......!」
「あ、ごめん......」
次の瞬間、乗っていた枝が折れた。
「わああ!」
俺は地面に衝突した。
「......大丈夫?」
リリンに乗られた状態で、真顔のまま声をかけられる。
「し、心配するならどいてください......」
リリンは立ち上がり、俺のことも起こしてくれた。
「いてて......。 あ、そうだ! エルンは!?」
俺は体の痛みを我慢しつつ、周囲を見渡す。
「ライトさん! こっちです!」
俺は声が聞こえた方向に急いで向かう。
エルンは、地上と空中の魔物の攻撃をなんとか避け続けていた。
「ライトさん! 早く指示を!」
「わかった! エルン! 飛び上がってきた魔物の頭を掴むんだ!」
「はい!」
俺が指示をすると、エルンは飛びかかってきた魔物の頭を掴む。
「よし......! そのまま地面に降りてぶん回せ!」
「わかりました!」
エルンは魔物を持ち上げ、地面に着地する。
そして、そのまま自分ごと周りはじめ、魔物をぶん回した。
周囲にいた魔物は次々と吹っ飛し、蹴散らしていく。
「そのままガーゴイルに攻撃だ! ぶん投げるんだ!」
エルンはガーゴイルに向かって魔物を投げ飛ばした。
勢いよく飛んで行った魔物は見事ガーゴイルに激突した。
ガーゴイルは気を失い、地上へと落ちていった。
周囲の魔物もエルンを恐れたのか、慌てて逃げ始めた。
「ふう......。何とかなったな......」
「そうだね......」
俺とリリンは一息ついた。
「そういえば、喉乾いたんじゃない? 叫んでたし」
「は、はい......」
俺がそう返事をすると、リリンはリュックサックを下ろし、水が入った瓶を取り出した。
「水あげる」
「あ、ありがとう......!」
俺は水を受け取り、蓋を外す。
そして、半分ほど一気に飲んだ。
乾いた喉に水が染み渡る。
「エルンも、ほら」
「あ、ありがとうござ......!」
水を受け取ろうとしたエルンの手が止まる。
「......本当に水ですか?」
警戒するのも無理はない。
今まで苦い汁や辛い液を飲まされたのだから。
「安心してよ。今回はちゃんと水だから」
エルンは瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ。
そして、口の中に流し込んだ。
「......普通の水ですね」
「だから言ったじゃん。もしかして、私のこと信用してない? 二回も助けた私のことを?」
「二回助けたのと同時に二回危害を加えたじゃないですか! 帳消しですよ! 帳消し!」
「えー? 私は気を失っているところを助けたんだよ? 帳消しではなくない?」
そんな感じで、エルンとリリンは言い合いを始めてしまった。
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