【休載中】最強天使の制御者(コントローラー) ~能力【制御】を付与されたのに何も操れなくて無能扱いされて追放されたので、偶然出会った天使と旅をします~
Melon
真っ赤な天使
石作りの都市、エウルガ。
大通りにて。
鋭い目が俺をとらえる。
恐怖で足がすくみ、その場に崩れ落ちる。
俺は、死を覚悟した。
「はは......。また死ぬのか......」
全てを諦め、放心状態になる。
だが、次の瞬間。
一筋の白い光がドラゴンを貫いた。
「......は?」
ドラゴンは腹を横から貫かれ、地面に倒れた。
俺は、貫いた物が飛んで行った方向に視線を向ける。
「て......。天使......?」
視線の先には、血に染まった長髪の白髪の少女。
頭には天使の輪っか。
背中には白い羽。
まさしく天使と呼べる存在だった。
俺の命は、天使に助けられたのだ。
何故、俺はこんな目に合っているのか。
それは、俺が引き起こした事故が原因だった。
「おいライト! 早くしろ!」
車の運転席に座っている俺に、強い振動が伝わる。
後ろを振り向くと、真後ろに座っている同僚のセイヤがニヤニヤしていた。
おそらく、セイヤが蹴り飛ばしたのだろう。
「あ、あの......。汚れちゃうから、靴を履いたまま蹴るのは......」
「あぁ!? お前口答えするんじゃねぇよ!」
セイヤは、本気で全部引き抜くのではないかという強さで俺の髪を引っ張る。
「痛い! や、やめ......」
「あはは。このままじゃ禿げちゃうんじゃないの?」
セイヤの隣にいる女性、ミキは笑いながら指を指す。
「こらこら。ライトくんが可哀想じゃないか。やめてあげたまえよ」
助手席に座るリョウが、セイヤに言う。
だが、止める気配は一切ない。
「ただでさえ見苦しいのに、禿げてしまっては更に見苦しくなるからね」
不適な笑みを浮かべながら、俺のことを笑う。
俺は、天宮寺来人。
最近二十五歳になった社会人だ。
周りのこいつらは会社の同僚だ。
入社したての頃はこのような関係ではなかったが、俺が頼みを断れない性格だとしると、途端に性格は一変。
俺のことを奴隷扱いするようになった。
そして、本日は日曜日。
本来はゆっくりと休むつもりだったのに、出かけるから運転しろと脅され、今に至る。
「さ、ライトくん。運転したまえよ」
リョウは、ハンドルを指差す。
それに従い、ハンドルを握る。
「あ、あの......。俺、運転は初心者で......」
「だから? わざわざ僕が運転しろと?」
「だって、そっちの方が安全......」
「君が完璧な運転をすれば、済む話じゃないか。僕に手間取らせないでくれよ」
これ以上何を言っても無意味だと思った俺は、仕方なく運転することにした。
プレッシャーで手が震える。
だが、もう運転せざるを得ない。
エンジンをかけ、車を発進させる。
運転中は、過呼吸になりそうなくらい緊張していた。
車内はそこまで寒くないのに、汗が止まらない。
そんな状態のまま、車は高速道路に入る。
合流地点が近づいてくる。
頭の中が真っ白になりかけ、うまく頭が働かない。
「うわあああああ!」
当然、事故を起こした。
合流地点で車と衝突。
俺たち四人は、大きな振動を味わった後、意識を失った。
目が覚めると暗闇。
いや、よく見ると少しだけ光輝いている。
そんな光が、俺に近づいてきた。
「え......?」
光の正体は、女性だった。
白い衣を見にまとった、まるで神のような女性。
「ライト......。ですね......?」
まるで聖母のような優し気な表情で、俺の名を呼ぶ。
「は、はい。あの......。ここは......?」
俺の頭の中はハテナで埋め尽くされていた。
だが、そんな俺を気にもせず、女性は話を始めた。
「時間がありません。端的に説明させていただきます。私は女神。そして、あなたは死にました......」
死んだ。
俺は、死んだ。
「俺、死んだんだ......」
「そうです。そんなあなたを、私の力で別世界に転生させます......」
「て、転生......?」
「あなたに、特殊な力を授けます。そして、私の部下と冒険をしてもらいます......。エルン。いらっしゃい......」
女神がエルンという名の部下を呼ぶ。
しかし、一向に現れる気配はない。
「......あの子! こんな大切な時に遅刻するなんて!」
優しそうな表情は一変、女神は苦悶の表情で頭を抱え始めた。
「えっと.....。大丈夫ですか?」
「この私を見て大丈夫に見えますか!? 大丈夫なわけないでしょ!」
「えぇ!?」
「ああ、もう時間がない! いいですか、よく聞いてください! あなたに、【制御】という能力を授けます! それは......」
そこで、辺りが光り始めた。
「え!? 何だこれ......!?」
光は一瞬で俺を包んだ。
そして、気が付いた時には、既に見知らぬ森に倒れていた。
俺の同僚と共に。
目が覚めてすぐに、同僚も目を覚ました。
目を覚ましたセイヤが、突然起き上がり、俺の胸倉をつかむ。
「おい! お前のせいで死んだじゃねぇかよ!」
セイヤは、拳を振り上げる。
そして、俺の頬に拳がめり込む。
「いっ......!」
驚愕した。
痛いというのも理由の一つだが、それだけではない。
俺の体が宙に浮くほどの威力だったのだ。
殴られた俺は、そのまま吹っ飛び、木に叩きつけられる。
「がはっ......」
「......なるほど。これがさっきの男が言ってた【肉体強化】の能力か......」
セイヤの口から出た、【肉体強化】という言葉。
もしかしたら、先ほど俺が女性からもらった能力のようなものなのかもしれない。
「すごーいセイヤ! カッコいい!」
ミキがセイヤに抱き着く。
「ねえねえ、私もさっきの男から貰った能力使いたーい!」
ミキはそう言うと、木の枝を拾う。
そして、俺に向かって軽く振るった。
すると、透明な何かが俺に接近してくることが分かった。
空を切り、勢いよく近づいてくる。
「う、うわあああ!」
本能的にその場から逃げる俺。
次の瞬間、木に何かが叩きつけられたかのような細長い跡ができた。
木の表面がえぐれ、まるで刃物で切りつけたかのような後だった。
「へー、これがミキの能力、【衝撃波】なんだね」
リョウが冷静に分析する。
「じゃあ、次は僕が......」
リョウの手が赤く光始める。
リョウの手のひらには、炎が浮かんでいた。
「な、なあ。やめてくれよ......」
必死に懇願するが、リョウは聞き入れそうにない。
これから起こる自体を想像し、恐怖で吐きそうになる。
「おい! そこで何をしている!」
突然、野太い声が聞こえてきた。
声が聞こえた方向を向くと、獣の皮で作られた弓を持った怖い男が五人ほど立っていた。
男たちは、俺たちを見るなり、コソコソと話し始めた。
「その服......。この世界の者ではないな......? もしかして!」
男たちの険しい顔が、途端に笑顔になる。
「お前たち、伝説の勇者だな!」
俺たちはポカンとなった。
それから、俺たちは男たちに案内された。
その道中で、この世界や村のことを聞く。
この世界は魔物が蔓延る危ない世界であること。
謎の男から特殊な力を持った別世界の人間が、この世界に召喚されること。
そして、男たちの村ではそのような人間を勇者として扱うこと。
急展開すぎて訳が分からないが、男たちは淡々と説明しているため、珍しいことではないのだと思う。
この後の俺たちの対応をリョウが聞くと、装備と食事を渡す代わりに、魔王を倒す旅に出てもらうことになるらしい。
俺は男や同僚の話を聞き、少し引っかかる部分があった。
この世界に召喚された者は、皆が口を揃えて【男に】能力を与えられたと言っているらしい。
だったら、俺があったあの女神はなんだったのか。
村に着くと、男たちの事前説明通りに装備と食事を渡され、村を出された。
正直村に住ませてもらいたかったが、わがままは言っていられない。
セイヤはナックルのような拳の武器を、ミキは剣を。
そして、リョウには杖を手渡された。
俺も剣を手渡されたが、後からセイヤに没収され、ミキの物となった。
武器を取り上げられた俺は、荷物持ちをやらされることになった。
四人分の荷物を持っているので、歩くだけで精いっぱいだ。
そして、ここから地獄のような冒険が始まった。
冒険を開始してから一ヶ月。
俺の扱いは散々だった。
同僚の能力の実験台にされたり、八つ当たりされたり。
サンドバッグのような扱いを受けていた。
戦闘もさせてもらえず、成長もしない。
そして何より、俺の能力である【制御】がどんな能力かもわかっていない。
物を操れるわけでも、人や魔物を操れるわけでもない。
そのため、何もできない無能として扱われている。
三人はみるみる成長していき、俺が持っていた荷物も軽々と持ち運べるほど成長していた。
その結果、現在滞在している石作りの建物が並ぶ都市、エウルガで捨てられることになった。
日が昇り始めた時間帯。
宿の前にて。
「じゃあな! ぎゃはははは」
セイヤは俺に唾を吐く。
だが、俺は動じなかった。
今後の生活が不安すぎて、唾を気にする余裕がなかった。
このまま野垂れ死ぬのではないか。
そう思いながら、宿の前で呆然と立ち尽くした。
「おい! 邪魔だよ!」
突然、頭に強い衝撃が走る。
どうやら殴られたようだ。
後ろを振り向くと、宿の店主が立っていた。
「そんなところでお前みたいなやつが立ってたら、店の評判が下がるだろうが!」
「す、すみません......」
俺は、頭を下げて謝罪する。
理不尽な暴力に対して悔しさはあったが、無駄な争いはしたくなかった。
そのため、俺はすぐ様その場を後にした。
「はぁ......。これからどうしようか......」
悩みながら都市を歩く。
腹が減ったが、食べ物を買うお金もない。
「きゃあああ! ドラゴン! ドラゴンよ!」
そんな俺に、追い打ちをかけるかのように不幸が訪れる。
目の前に、三メートルを超える赤いドラゴンが、俺の目の前に飛来してきた。
ドラゴンは地面に着地し、少しずつ、接近してくる。
「ひっ......!」
鋭い目が俺をとらえる。
恐怖で足がすくみ、その場に崩れ落ちる。
俺は、死を覚悟した。
「はは......。また死ぬのか......」
全てを諦め、放心状態になる。
だが、次の瞬間。
一筋の白い光がドラゴンを貫いた。
「......は?」
ドラゴンは腹を横から貫かれ、地面に倒れた。
俺は、貫いた物が飛んで行った方向に視線を向ける。
「て......。天使......?」
視線の先には、血に染まった長髪の白髪の少女。
頭には天使の輪っか。
背中には白い羽。
まさしく天使と呼べる存在だった。
俺の命は、天使に助けられたのだ。
だが、安心したのもつかの間。
天使は、俺に向かって突っ込んできた。
「な、なんでだよ!」
俺は横に飛び、天使の攻撃を避ける。
天使は俺に攻撃が当たらず、地面を殴ることになった。
地面には大きな穴が開く。
「や、やめてくれ......!」
天使と目が合う。
赤く光り、殺意を感じられる目。
「やめてくれええええ!!!!」
俺は、やめてくれと強く念じた。
天使が動き出した次の瞬間。
天使を囲むように星が描かれた魔法陣が出現した。
そして、天使の動きが止まり、その場に倒れた。
「はぁ......。はぁ......」
何が起きたかよくわからなかったが、俺は助かったみたいだ。
額の汗を拭うと、手の甲に何かが浮かび上がっていることに気が付く。
「なんだこれ......? 魔法陣......?」
俺の手には、天使を囲んだ魔法陣と同じものが浮かび上がっていた。
「それより!」
俺は立ち上がり、天使に駆け寄る。
体を揺らしてみるが、反応はない。
「と、とりあえず医者か......。宿とかにでも......」
天使を持ち上げ、おんぶする。
荷物持ちで鍛えられた俺にとって、天使を運ぶのは難しくなかった。
自分の服が血で汚れることも気にせず、俺は必死に天使を運ぶのだった。
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