茄子とトマトのパスタと若鶏のマレンゴ風味2
その頃、苺は緊張した面持ちで青木達の前に居た。見たこともない料理を出すことに対する緊張感が入り交じっていた。
「あのー、えーと、茄子ととまとのぱすたです」
苺はそう言うと、各人の前へパスタを並べていく。青木は通訳をしながら、茄子とトマトのパスタと伝える。
青木はやや興奮しているような口調であり、マーガレットやウルドは感心したかのような感激の声を出した。そんな一同の目はパスタに釘付けになる。
「しかし、まさかパスタを食べられるとは思ってもいなかったな」
「本当ですわ。パスタなんて食べられないと思っていましたが」
「うん、凄い腕だねこの苺さんという人は」
諸説あるが、明治ではパスタというものは超一流のホテルなどで隠された風に出されていた物で、上流家庭などが隠れて食べていたと言われている。だから三人はまさかここで食べられるとは思わなかったので、苺を褒めたわけだ。
「あのー、こちらの皿の物はウルド様に、バターとチーズは抜いてあります」
その苺の言葉を青木は通訳するとウルドは感激の声を上げた。
「おおお……私の為にこんな尽力を。大概いい加減に扱われることが多いんですが」
通訳された苺の言葉にウルドは腰を浮かし立ち上がらんばかりであった。
「で、こちらの二つの皿は青木様とマーガレット様へと。チーズとバター入りです」
もったりとした赤を主体としたパスタ。柔和な白色を浮かべているのが青木とマーガレットのパスタである。そんなパスタは熱々の湯気を放ちながらソースに絡みついている。
それとは違い、赤の濃度が強いのはウルドの物だ。トマトの濃厚な赤と油を浮かべたオリーブの地中海を想像させる香りが脳髄を刺激し、全身の神経に広がっていく。
「イタリアンですわね」
「イタリアンだね」
「イタリアンですな。さ、冷めると味もランクが落ちるので食べましょう」
その青木の言葉が皮切りだった。三人はフォークを持ちパスタをフォークで綺麗に巻きながら口の中へ入れる。
持ち上げるとパスタにソーストマトが絡み、ぽたりぽたりと甘美なソースを皿へ落とす。そんなソースは本体である皿の中に鎮座するパスタに吸い込まれていく。オリーブのふんだんな香りと共に湯気が上がる。
「それでは、豪快に、はぐっ……ふ、ふおおおおおおおおお」
マーガレットはドレスが汚れるのも構わずに、パスタを掬った後に口の中へ入れる。芯が残ったパスタの温かでもっちりとした感触が歯に伝わる。乳白色のパスタからは小麦とオリーブの上品な香りがして、その爽やかな香りを嗅ぐと気持ちが和らいだ。皿にはソーストマトの池があって、そんな赤の池にはチーズの乳白色が入り混じっており、そんなソーストマトからは命の芽吹きを感じさせる魅力があった。
口へ運ぶとソーストマトとチーズの香りがしてとても心地よい。パスタと絡むようになっているソーストマトの濃厚でありながらフルーティーな甘酸っぱい香りと味がする。更にとろーりとしたチーズからは熟成された柔らかなマイルドな味がして、僅かに塩気があることがきめ細やかな様相を保っていた。
「おほ、もちもち……そしてオリーブの香りぃぃ……このもちもち感が素晴らしいわ。豊かで濃厚なトマトの香りとチーズと絡み合って最高の味にー! おいしいいぃ――!」
少しチーズを舌の上で踊らせると焦げたチーズの味と香りがしてマーガレットは身を捩った。イタリアンを食べたことは何回かあるが、これはどうなっているのか今まで食べてきたパスタと比較することがおこがましい程に格が違った。口の中でパセリの清々しく爽やかな香りがすっきりとした様子で浮かび、この上ない典雅な気分を味わえる。
「す、素晴らしいですわ……」
バターもまろやかさを引き出させる要因になっており、ふんわりとしたベッドの上に寝かされている感覚になる。パスタを啜りチーズ混じりのとろーりとしたソースをずるずると言った感じで懸命に吸うマーガレット。その豊かな味わいを味わって陶然とした表情を浮かべる。
ずるずるという音を立てて懸命にパスタを啜っていくマーガレット。今の彼女には気品さを考える余裕はなかった。
「も、もったりとしたチーズがとろとろ、にんにくの香りがふんわり、トマトの甘みと酸味がすっきり、パセリの香りが爽やかにぃぃぃぃ――!」
そして茄子を掬って口の中へ入れる。ほっこりとして柔らかい茄子の身。そんな茄子からはじゅわりと茄子の甘くもあり渋くもある新鮮なエキスが溢れ、身の柔らな噛み応えと皮の弾力が相反するように口の中で交差する。
パスタにしろソースの味が染みこんだ茄子にしろ、素晴らしい程に地中海を感じさせるほどにオリーブの香りで固められていて、もうこれこそがイタリアンと呼ぶにふさわしい。
「ずるずる……す、すごい、どこからこんな技術が、ここまでの物を作れるものがこの国にいるだなんて……モグ……私ったらはしたないわ! はしたないけど、最高の食べ方ですわ……」
「こ、こんな技術をどこで……い、苺さんは凄いな……お、おいしすぎるだろう……」
ただただ感激する青木。髭にソースをなんてついても構わない。
「チーズやバターを抜いても、モグ、こ、これは、洗練された味を飛び抜けている……」
三者三様の褒め殺しのような意見が出ており、英語が分からない苺でもその空気が伝わってくる。だからそのことに対して逆に気まずくなった。
「あ、あのー」
苺の言葉など、三人の耳にはもう入っていない。もはや誰もフォークを止めることはできなかった。三人とも料理を食べる機械だ。ただひたすらに食していく。
「……」
「……」
「……」
無言で黙々と食する三人だったが、そこで不意打ちが現れた。それは新たな料理を運んできた鳴海の出現だ。
「もう一品お待たせしました。若鶏のマレンゴ風味です。そうですね苺君」
「え? は? え?」
一応ここでもう一度苺の名前を出しておく。自分が作ったと思われない為だ。
鳴海の持っている料理を見やる三人。最早この三人は鳴海の食事を求める捕食者だ。だから目を見開き、はようこちらへといった目線を送ってくる。
「おおおっ、まだあるのか」
「まだ、あるんですの、ごくり」
「おおおおおおっ、次は肉だ。素晴らしい……息を吸うだけで淡泊な鶏の味が入り込んでくる……すうーはー、良い香りだ……」
あれから鳴海はフライパンに残っていた旨味の随である焼き汁を予熱をしてから、オーブンでじっくりと焼いた若鶏とトマトにその焼き汁をかけた。更にその神のエキスを加えた後に、飴色に焼いたマッシュルームを添えて料理を完成させていた。
そんな神のエキスと混合するかのように赤の女王のトマトがオーブンで焼かれたことによってソースとなり、若鶏を取り囲むようにして湯気を上げながら鎮座していた。
若鶏のマレンゴ風はまだ熱い状態であり、こんがりとオーブンで焼かれた若鶏にはきつね色の色と照りがついており、そんな若鶏からは同時に調理されたトマトの酸味と甘みのある香りを混じらせつつも、若鶏自体からは上質で淡泊とも言える鶏特有の香りを放つ湯気が溢れて出ている。
鳴海は三人の前に若鶏のマレンゴ風味を並べていく。
「熱いので気をつけてくださいね」
「おおっ……なんという荘厳な光景だ。私はこんなに素晴らしい料理をお目に掛かったことがない」
口元がべとべとになっている青木だったが、そんな青木に負けず劣らずマーガレットとウルドも同じ様子であった。
彼らはただただ鳴海の料理に心を奪われ、釘付けになるしかない。
「こ、こんなもの我慢ができるわけないじゃない」
「肉は最高だー」
ウルドの言葉を皮切りにして全員がお盆に添えてあるフォークとナイフを手に持った。瞳をうるうるとさせながら青木は若鶏を切り分ける。切り分けると中から綺麗な白の御姫様のような身が垣間見えた。そんな若鶏の表面にはふつふつと気泡が浮かんでおり、熱さを感じさせるには十分だった。照りを浮かべる肉には肉汁と脂が浮かび、肉の隙間を縫うようにしてトマトと焼き汁を交えたほとばしるようなエキスがこぼれ落ちる。切り分けた肉を口へ運ぶと青木の体がびくんびくんと跳ねた。
「おっ、おおう……」
口へ含むと最初の一撃目が襲いかかる。それはソースになったトマトの味と焼き汁の味だ。甘酸っぱくもあり華麗な様子のソース。そんな果実のようなソースには若鶏の焼き汁の味とオリーブの爽やかな香りが混じり、とても力強く濃厚な味と香りになっていた。青木はハフハフと舌の上で肉を舞い踊らせながら熱を冷ましていく。
「おお……こ、これは…………」
青木はじーんとしたかのような表情になる。そしてソースの味を存分に楽しんだ後に口内にある肉を噛んだ。
「おほ……外は僅かにサクッとしていて中はもちもちの舌触り、この濃厚で淡泊な味が、そしてこの皮の味ときたら……モグ、ふご……こ、これはやばい……しかもなんの臭みもない……」
二撃目は若鶏の味だった。ボリュームのある若鶏からはしっかりとした鶏の味が楽しめる。皮を食べると肉汁と脂が溢れ甘く口内で絡みつくようなねっとりした感触が味わえ、とても甘くてなんともいえない快感を感じる。余分な脂を落としてあることが尚、この皮を美味に感じさせる。若鶏の身を噛むと胃と舌を満足させる程の味があって口へ含むと舌から口内に若鶏の味が駆け抜けていき、味の鮮烈さを感じさせる。外はぱりっとして中はもちもちとした歯触りと食感を楽しめた。
「おおっ……これは噛めば噛むほどに素晴らしぃ――!」
噛めば噛むほどに若鶏からは生育していない様子の柔らかな肉質と豊かな肉汁が溢れ、そして旨味の含んだ脂がたっぷり出てきてそれが口内で一緒に混ざり合いなんともいえない心地よさを感じた。にんにくのツーンとした鮮烈な香りと甘い味が、コクのある若鶏のマレンゴ風味にキレを持たせ、香草の爽やかな香りが全身に駆け巡り芸術の域へと昇華していた。
更に肉に絡んできたマッシュルームの爽やかな甘みと味でなお身を捩った。
「おほう……や、やばい、こんな凄まじい味は食べたことがないぞ……ソーストマトの味と香り、更ににんにくの香りとパセリの香りが凄く、それらが肉を引き立てる……快楽だ、既にこれは快楽なんだ……この皮の脂の旨味ときたら……舌の官能を全て刺激する」
愉悦を通り越した快楽とはこのことを言うのだろうと青木は薄れゆく意識の中で思った。かりっと焼かれた肉の部位さえ楽しめる。
まさに料理の万国博物館といえる出来映えであった。三人とも口をぽかーんと開けてこんな言葉を言った。
「……こんな凄まじい料理をいったいどこで覚えたのか……」
「……仏蘭西のユニオンに参加してもおかしくない腕前ですわ……」
「私が食べられないものを避けて故のこの味、この味は……ゴッドだ……」
三人が苺に目を向けてうるうるとした瞳を見せる。三人は生きていてよかったと、心から思い懸命に肉に食らいつくのであった。
暫く時間が流れ、青木のみならず、マーガレット、ウルドも咳払いをする。そして青木はナプキンで口を拭きながら苺へ興味津々な様子で尋ねてきた。
「こ、これは明治政府の料理番を務めてもおかしくない腕前ですぞ。おかしくないどころか……こ、これは……国の宝だ」
「英国総領事館で雇いたいぐらいですわ」
マーガレットの興奮した言葉に続くようにウルドも続いた。
「こんな料理が毎日食べられることを考えると、それぐらい考えてもおかしくはないね」
苺に尊敬の眼差しを浮かべてくる三人。そんな三人を眺めて苺は言葉に詰まった。自分はなにもしていないと。ただ料理を運んだだけなんですと。
「あ、あのー、そ、そそ、そのー」
「苺さん、是非会談の折には作ってはもらえないだろうか」
正座をして懇願する青木に苺は首を何度か振ると申し訳なさそうにしながらこう言葉を返した。もうこの重圧に耐えることはできなかった。
「この料理を考えたのも、そして作ったのも私ではなくて、こちらにいらっしゃる鳴海さんです……私じゃないんです」
苺のカミングアウトに鳴海は深く深く頭を下げた後に謝罪の言葉を言った。
「すみません、急に俺が作ると言っても信用はないですから苺君の名前を出してしまいました。俺は居候なので、あまり信用がないので」
鳴海は英語で説明すると、三人の目が一気に鳴海へ向いた。鳴海は再度深く深く一礼して謝罪をする。
「君は一体何者なんだ……」
青木は目の前にいる鳴海へ怪訝な視線と表情を向けてきたが、鳴海はこんな風に返すしかない。
「そのー、記憶喪失な人です」
「その割には英語も喋れる、これだけの料理も作る」
「だから、こと料理に関することだけは覚えているんです」
「元、海外に留学していた男が記憶を失った。そして料理を習っていたのか……き、君、この家から出て行かないよね?」
青木は顎に手を置きながらそんなことを言ってきたが、鳴海は首を横へ振ると苦い笑みを浮かべる。
「出て行ってものたれ死ぬだけです。自分にはなんの力もありません。お金すらないので」
「それを聞いて安心した……」
そこで青木は安心したかのように呟く。閣下に助言せねば、この男、明治政府の為になると。そんな思いが青木の心を満たす。
「今はお二人を連れて、散歩などをしているので詳しい話はできないが、どこかで時間を取っておいてくれ。ちょっと小野田君を交えて話をしたいことがある」
「は、はい」
「小野田……小野田、ああ、そういうことですの」
名前を何度か聞いてそこでやっとマーガレットは思い出した。
「ギザールがぼやいているのはこの家の家人のことなのね」
マーガレットは持っている扇を取り出すと広げ、口元を隠した後ににやりと笑いながらこう言った。
「素晴らしい料理を食べさせて貰ったお礼に教えるわ。職工や技師なんかよりも一番ホームシックに罹っているのは彼ですわよ。細かい説明は省くけど、仏蘭西のプロヴァンス地方、つまりイカのスープね。イカ料理を食べれば気が変わるかも」
「ま、マーガレット様、それは本当ですか」
その言葉に食らいついたのは青木だった。まさかこんなところでヒントを聞けるとは思ってもいなかったからだ。
「でも、多分鳴海ぐらいの腕前で調理をしないと、大変なことになるかもしれませんわね」
「そ、それは勿論ですとも」
マーガレットの助言に青木は深く頷いた。
なんの話かは後日分かるだろうと思い、鳴海はこくりと頷いただけで、あえて詮索はしなかった。
食後に出されたレモンティーを飲み終えると、マーガレットは立ち上がる。そして鳴海へこんな言葉を掛ける。
「美味しい料理をありがとう。これからの行く手は大変だと思います。でもあなたならなんとかなるのではないかと思えますわ」
「そうだね、こんな料理を父にも食べてもらいたいですから、頑張ってもらいたいものですね」
マーガレットに続き正座を解き、立ち上がるウルド。これもなにかの意味合いを込めているのかなと鳴海は考える。
青木は彼女らに続くように立ち上がると、深く鳴海と苺に一礼するとこう伝える。
「また話は後日。それでは素晴らしい料理をありがとう」
マーガレットとウルドについて行くようにして青木も玄関へ向かっていく。廊下を越え、玄関を跨ぎ、そして青木達は門まで到着していた。そんな青木達を門の前まで見送ると、鳴海達は深く頭を下げ見送るのだった。
これが今日の午前中から昼過ぎに起きたことだと思い出して苺はくすりと微笑みを浮かべて筆を走らせる。
「そういえば、牛肉がこのままでは無駄になると仰られて、作っていただいたカツレツの味も最高でした……トマトが主役の赤いソースからは甘酸っぱいような、それでいて甘いような味。酸味や他の野菜の味のまろやかさが加わる最高の味でした。日本人の口に合うように菜種油で揚げられたカツは外はきつね色に揚がってこんがりさくさく。中は褐色の肉で溢れるほどの素晴らしい肉汁と脂、そしてなんの臭みもなく、噛み進めると中は生でしたが、でも決して冷たい生ではなくて、肉全体のおいしさを表現するのは難しいのですが、柔らかできめ細やかな上質な肉質でした。じゅるり……もう一度食べてみたいと思えるほどに……いけない」
今日一日の思い出の締めが食事の話になりにかかって、苺は微笑みを浮かべる。
「英語もご堪能ですので、記憶がなくなる前の鳴海様はどういう方だったのでしょう……」
そこで苺は一度筆を止めて、外から聞こえる足音に耳を澄ませる。近頃鳴海は寝る前に苺の部屋、つまり廊下の縁側に座り会話をすることがある。
部屋の中に入ることはないが、それでも就寝前に些細な会話をするのが苺の楽しみの一つだった。
廊下で座る音が聞こえる。そして鳴海の声が聞こえてきた。
「苺さん、どうにもシェフモードに入ると君と呼んでしまってごめんね」
障子越しからシェフモード以外では見られない弱気の鳴海の声が聞こえる。苺は少し障子を開けると、鳴海へ言葉を返す。
「いえ、いいんですよ。その時の鳴海様はとても素敵ですので」
「いや、はははっ……」
「でも、本当に鳴海様はどういう方だったんでしょうか?」
「まあ、シェフだったんでしょう、多分」
「英語もご堪能ですし」
「ご堪能でもないよ、他に凄い人はいっぱいいるからね」
修行中の頃や外国人のお客様をもてなす為に真剣に英語や他の外国語を覚えたことを思い出す。鳴海が話せる言語は英語、イタリア語、フランス語の三つだ。
「それにしても、本当はね、偉い人に俺の食事を食べてもらえて嬉しいんだが。やっぱり苺さんや良介さんなんかに食べて貰う方が嬉しいんだよね」
「父様もこんな料理を食べたことがないと驚いていましたね」
「うん、やっぱり料理人にとって如何に一般の人に食べてもらって喜んで貰える、これに尽きると思うんだよね」
これが鳴海の本音だった。嘘偽りの一つもない。苺はそんな鳴海の顔を襖の隙間から見ながら相づちを打った。
「なるほどです」
「やっぱり、その為にはどこかで修行して将来店を持つべき何だと思うんだよね」
苺は隙間から鳴海の顔を見やる。鳴海は僅かに苦笑いを浮かべていた。鳴海にとって正直小僧からやり直すことに抵抗がない訳でもなかった。
「多分、その必要はないと思います」
鳴海の心の中を知っているのか知っていないのかは分からないが、苺は断言するようにして言った。
「え? どうして」
「それは……多分鳴海様は凄い人だからです」
確証はなかった。でもあれだけの人が認める味なのだ。誰も放っておくわけがない。特に政府は放っておかないだろう。今日の青木の様子から見ても想像するのには容易いことだった。
「そう考えると、私はとんでもない人と気さくに話しているのかもしれません」
「そ、そんなことはないよ。俺は俺だよ」
「そんな鳴海様が素敵なんですけどね」
「なんか、こう照れます」
「照れちゃってください」
仲むつまじく話をする二人。そんな時、苺の部屋からごそりという音がする。どうやら話し声で瑠衣が起き上がったようだ。瑠衣が起き上がった頃が鳴海が部屋を離れる頃合いだった。
「それじゃ、そろそろ寝るね」
「は、はい」
「苺さんもお休みなさい」
「は、はい」
廊下から足音が聞こえる。どうやら鳴海が部屋の前から去って行ったようだ。苺は襖を閉めると続きを書く。
(このまま行くと、私と鳴海様との差がもの凄くついてしまうでしょう。遠くに行ってしまわれるような感じがしてなにか寂しい気持ちになります)
そこで苺は一人でぼそりと呟く。
「私には何の力もありませんが。お店ですか……」
遠い目標を語った鳴海。苺は別の用紙を取り出すとなにかを書き始めるのであった。
こうして小野田邸の夜は過ぎていく。
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