第2話 全知全能美少女神の耳かき
「だ、誰」
「誰ってアマテラスじゃが? 貴君の大好きなげぇむ『ユートピア・ロード・ファンタジア』のきゃらくたぁ。『ヤマト帝都』の信仰を一身に集める最強無敵の神様じゃよ」
「知ってる。アマたそを愛して生きてきたからな」
「えへっ、えへへっ」
「で、お前は誰なんだって聞いてるんだ、コスプレ女。一体どこから入ってきた。滅茶苦茶可愛いからこのまま一緒にいたんだけど、体裁上聞いとくぞ。お前は誰だ」
「欲望駄々洩れじゃのう。ちと長くなるんじゃが、まあ聞け」
ぽんぽんと、ベッドの上で正座する彼女はマットレスの自分の横あたりを叩いた。
「……横に座れと?」
「ばかもん。耳かきしながら話すに決まっておろうが」
決まってはないと思う。
が、アマたそにあまりにも似ているコスプレイヤーに耳かきされたいか否かで言えば、当然されたかったので素直に応じた。
「し、失礼します」
ふわふわで真っ白な太ももに頭を預ける。
適度な弾力がありつつも包み込むように頭を支えてくれるそれはどんなに上等な枕であっても越えられぬ心地よさがあった。
血の通った穏やかなぬくもりを後頭部に感じつつ、鼻腔をくすぐるは甘く濃厚で、それでいてどこか懐かしい花の香り――金木犀が近いかもしれない。
そして、夢で見たのと全く同じ景色が広がっていた。
アマテラスの衣装は下乳を大胆に見せびらかすよう設計されており、つまり見上げると、頭を動かさずとも本物のおっぱいが間近に迫っており。
太ももと同じくらい柔らかそうで、ずっしりした透明感のあるそれが視界の半分以上を占めている。
なんて絶景だ。
触れようなんて、手を加えようなんて思わない。このまま小一時間くらい見ていたい。
日本三景にこの景色を加えるべきじゃないか。
「ばかもん。耳のどっちかを向けんかい。それとも鼻の穴にこれを突っ込まれたいのかの?」
自称アマテラスの手にはいつの間にか耳かき棒が握られており、僕の生殺与奪の権も握られており、くるりと半身動く。
「うむ」
満足そうな声を上げる自称アマテラス。
僕にもっと勇気があれば、逆方向に顔を向け、お腹に顔を埋められたのに、汚部屋の方を向いて寝そべってしまっていた。
「それじゃあ……耳かきするぞ……あんまり動くでないぞ」
声のトーンと声量を落としたぽしょ声で、彼女は耳かき棒で耳の外側、外周にあたる部分をなぞり出す。
痛くもなく、くすぐったくもない完璧な力加減でかりかりしてくれている。
耳が傷つかないよう細心の注意を払っているのが微妙に動く太ももと「うーん……見えぬぞ……」とか吐息混じりの声でよく分かった。
多分、おっぱいが大き過ぎて俺の耳が見えないのだ。
太ももが動いていたのは背伸びしたり、体勢を少し変えて上手いこと見えないか工夫していたからで、やはり夢は夢らしく、全く完璧に、想像通りとはいかないらしかった。
「まあよい。深いところの掃除はせぬわ。周りをかりかりするだけで満足せよ」
角度を変え、方向を変え、より慎重に、丹念に耳かきしてくれた。
たっぷり眠って元気になったはずなのに、もう少し眠い。
「わしはアマテラス。じゃが、げーむから飛び出たきゃらくたーなんぞではない。分類上は付喪神じゃ。貴君のふぃぎゅあのな」
視線だけを少しあげると、フィギュアの飾り棚の中からアマテラスだけがいなくなっていた。
「手の込んだ真似を……お前が僕の買ったフィギュアだって言うのか? んなわけないだろ。あれ、せいぜい二十センチだぜ。アマテラスは確かに低身長キャラだけど、いまの大きさにつじつまが合わないじゃないか」
「理解してもらえると思うて説明しとらん。付喪神は九十九神、つまり九十九年大切にされた道具がはじめて神格を得て、意識を得るのじゃけど、わしは特別での。貴君が自分を大切にしなさ過ぎて、相対的に道具であるわしが九十九年分大切にされたことになったのじゃ。だから神になった。元ねたが天照大御神のきゃらくたーのふぃぎゅあだったから、性格、びじゅある、権能に至るまでその通りにかすたまいずされておる。故にわしとアマテラスは同一人物なのじゃよ」
「フィクションに独自設定を付け加えるな。こっちはまだお前が何者か分かってないのに」
「……耳かきされながらすごんでも迫力ないのう。ふぅーーっ」
おっぱいを押しのけて頑張って耳に吐息を吹きかけてくれた。
柔らかくて生暖かい空気が押し付けられて、きちんと掃除され敏感になった耳に浴びせるにはそれはあまりにも刺激的で、
「あっ、あひぃ……や、やめろ! ごまかすな!」
「だから、貴君がわしの出自を理解する必要はないのじゃよ。貴君が飲み込むべきは
「……救世主?」
「現にわしは時間を止めて、睡眠時間を十分に確保させたじゃろ? 耳かきをしておるじゃろ? すべては貴君が望んだからなのじゃよ。貴君の大好きなげーむではアマテラスは――わしはどんなきゃらくたーだったかの?」
アマテラスは万能の神として描かれている。
やりたいことは全部できるヤマト帝都における最高神で、大ボス。
劇中でも最強クラスに位置付けられており、いま俺の睡眠時間如きに止められた時間は彼女の代名詞とも言える最強技『
この厄介な技のせいでストーリー上だと主人公パーティ一回壊滅させられた、はず。完全停止した主人公らをめった刺しにして圧勝するのだ。
主人公らに耳かきする描写なんて一秒たりともなかった。
「そう、最強なのじゃ。この最強の力があれば、貴君をいくらでも癒せる。疲れた体も心も十全にの」
「なんで……俺なんかにそんな、」
「おやぁ? 貴君の疑問はそっちじゃのうて、わしが本物のアマテラスなのか、じゃなかったかの? もう信じ切ってしもうたか?」
「いや、まだ信じたわけじゃないけど、」
「ならば命じるがよい。わしにできぬことなどない。ちょちょいと望みを叶えれば信じてくれるじゃろう? 貴君はこの世界を――貴君を傷付け、疲弊させたこの世界をどうしたい?」
「俺、は――」
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