第8話

喫茶店に入った私は店内をぐるっと見渡した。

店内も外観と同じくレトロな感じで落ち着いた雰囲気をしている。


「なんかめっちゃ雰囲気いいね」

「それ爺ちゃんが喜ぶよ。今日は定休日だから人も来ないし好きなところに座っていいから」


そう言って彼はカウンターの横にある暖簾をくぐって奥に消えていった。残された私と翔子は取り敢えず近くの席に腰をおろした。


「まさか喫茶店だとは思わなかったな」

「そうね。でもほんと雰囲気良いわよね」

「だよね!めっちゃ落ち着くし!今日はお休みみたいだし、次はお店やってる時に来たいな」

「もう次のこと考えてるんだ」


そう言いながら翔子はニヤニヤした顔で私を見てくる。その目で見られると何だかムズムズしてきて、私はつい強い口調になってしまう。


「別にいいでしょ!何か文句あるの?」

「ないわよ文句なんて」

「じゃあその目やめてよ!」

「私は普通にしてるだけよ」

「うそ!めっちゃニヤニヤしてるじゃん」


翔子と言い合いをしていると『カラーン』と喫茶店の扉が開く音がして、私と翔子は言い合いをやめて顔を見合わせたあと、2人してお店の入口を見る。そこには女性が1人立っていた。

今日はお休みって言ってたよね。間違えてた入ってきたのかな?なんて考えていると


「あれ?もう来ちゃってた?思ったより早くてビックリしちゃった。ゆっくりして行ってね」


その女性は迷いなく店内に入ってきて私達に話かけてきた。私も翔子も突然の出来事に固まってしまい何も出来ないでいるのに、女性はお構い無しに話しかけてくる。


「あの子が友達連れてくるとか、ほんと久しぶりなのよ。いつぶりかしら?それにしても女の子だとは思わなかったわ。あっ飲みたいものがあれば遠慮なく言ってね」


そう言ってメニューを手渡してきた。まったく状況がのみ込めないけど、私はそのメニューを勢いに押されて受け取った。それを見た女性は笑顔で


「オススメはコーヒーなんだけど、苦手ならコーラも美味しいわよ。自家製なのよね」


なんて言いながら上機嫌にメニューの説明をしてくれる。ここまで私も翔子も一言も話せていない。何か言わないと!そう思い女性に話しかけようとした時カウンターの奥から別の声が聞こえてきた。


「2人とも驚いてるだろ?あんまりグイグイいかないでくれ」

「だって夜一が友達連れてくるとか、久しぶりなんだから。ちょっとぐらいいいじゃない」


どうやら彼が戻って来たみたいだ。彼の姿を見たらなんだか安心して、体から力が抜けるのが分かった。思ってたより緊張してたみたい。

緊張の解けた私は改めて女性を見て思った。

この人お母さんなのかな?なんか顔も似てるし、そう思ったらまだあいさつをしていない事に気付いて慌てて席をたつ。


「あの!初めまして。私、小鳥遊紗夜です。

月見里くんとは同じ学校です」

「私は高岡翔子です。紗夜とは幼馴染で同じ学校に通っています」


翔子も続いてくれる。こういう所はやっぱり頼りになるな。私達のあいさつを聞いたお母さんらしき女性は笑顔で頷いてくれたあと名前を教えてくれた。


「紗夜ちゃんに翔子ちゃんね!私は月見里美咲やまなしみさき。美咲って呼んでね」


そう言ってウィンクする美咲さんはとても大人っぽくて同性の私でも思わず見惚れてしまう。

そんな私に月見里くんが近づきながら話しかけてきた。


「すまんな。騒がしい人なんだよ。あんま気にしないでくれると助かる」

「ううん!めっちゃ話しかけてくれたし!

お母さん素敵な人だね」


そう言うと2人はポカンとした顔をして私を見ている。あれ?何かおかしなこと言ったのかな?そう思った瞬間、美咲さんが勢いよく抱き着いてきた。


「紗夜ちゃんいい子じゃない!」


突然のこと過ぎて私はされるがままだ。

美咲さんは私の顔に頬ずりしながらご機嫌そうにしているが、私は混乱して気にする余裕なんかない。翔子も突然の事に唖然としている。

そんな私たちを見ながら月見里くんは大きなため息をついた。


「その人は俺の母さんじゃないよ」

「そうなの?」


美咲さんに抱き着かれて声の出せない私を置いてけぼりにして翔子と2人で話を続ける。


「母さんじゃなくて、俺の叔母さん。父さんの妹なんだ」

「なるほどね。お母さんにしては若いなって思ってたのよね」

「実際そんなに若くはないけどな」

「でもかなり若く見えるわよ」


2人の会話を聞いていた美咲さんは、私を解放したかと思うと翔子に近づいて


「翔子ちゃんもいい子じゃない!」

「ちょ、ちょっと!やめてください」

「それに比べて夜一はほんとデリカシーないわね!」


なんて言いながら抵抗する翔子を無視して抱きついていた。私は隣にいた月見里くんと目が合い2人で思わず苦笑いしてしまった。


「そろそろいいか?2人とも今日は写真見に来たんだから」

「そうだったわね。つい楽しくなっちゃって」


しばらく翔子と攻防を繰り広げていた美咲さん

はようやく翔子から離れてくれた。

それに私もすっかり目的を忘れてしまってた。


「そうだ!写真!忘れてた」

「それが目的でしょ?忘れるじゃないわよ」


解放された翔子が呆れた様に言ってくる。

さっきまで美咲さんに抱き着かれてうろたえてたくせに。

最初に2人で座っていた席に3人で座り直すと、向かいに座った彼がノートパソコンを操作しながら


「昨日撮ったやつは全部そこのファイルに入ってるから好きに見て」


そう言って画面を私たちの方に向けてくれる。

私はノートパソコンを自分の方に引き寄せて、翔子と画面を見る。そこには小さな画像が沢山並んでいて、最初の画像をクリックすると画面いっぱいに写真が映し出された。


「すごい」


写真を見た瞬間思わず言葉がこぼれていまう。

それくらい素敵な写真だった。

最初の写真は公園の桜を撮ったやつだ。

あの時見た以上にきれいな気がする。

彼の目にはこんな風に見えてたのかな。

そんな事を考えながら次の写真を映し出す。

私と翔子は話すことも忘れてしまうほど次々に映し出される写真に夢中になっていて、さっきまでの騒がしさが嘘のように、店内にはカチッカチッと言う音だけが響いていた。


しばらく写真を見ていると私は思わず手を止めてしまった。


「これって」

「うん?あぁその写真か。絵になってたから撮ったんだ。それいい写真だろ?」


彼が画面を覗き込みながらそう言った写真は、あの桜で埋め尽くされた景色を背景に私が写っている写真だった。

真っ白なワンピースを着て少し淡い青色のサンダルを履いた私が桃色の桜に包まれた写真。

それはまるで私が主役で周りの桜も私のために用意されたみたいに思えてくる。


「きれい」


翔子が呟いたけど何も言う事が出来なかった。

私はあの時の彼の言葉を思い出していたから。

「おしゃれしたのも悪くなかっただろ?」

本当におしゃれして良かったな。

あの日もそう思えたけど、今はあの時以上にそう思える。


「素敵な写真ありがとう」


私は彼に何か言いたくてたまらなくて、でも上手く言葉にできる気がしなかったから、素直に感謝の気持ちを伝えた。


「喜んで貰えてよかったよ」


彼にどれだけ伝わったか分からないけど優し顔を見て心が満たされる気がした。




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新作になります。

完結目指して頑張ります。


連載中の他作品になります。

良かったら読んでください。

https://kakuyomu.jp/works/16818792436529928645


ブックマーク、いいね、コメントしてもらえると嬉しいです。

宜しくお願いします!

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