キツネのぬいぐるみ、人間になる

小阪ノリタカ

第1話 ぬいぐるみのこがね、人(みたい)になる


「ふあ〜……朝か〜……」


カーテン越しに差し込む光で目を覚ましたあかりは、ベッドの上でぐーんと伸びをした。

寝ぼけながら横を見る。そこには、いつも通り――


「……え?」


いない。


いつも、ベッド脇に居る金色のキツネのぬいぐるみ――こがねが、いない。


「……あれ?床にでも落ちた?」


布団(ベッド)の下、枕元、机の上、床、全部探す。けど、見つからない。

その代わり?に、部屋のすみっこに正座している――金髪の少年がいた。


「……誰……ですか?」

「おぉ!目覚めたか、我が主よ!」


その少年の見た目は高校生くらい、金髪に澄んだ金色の瞳。

だけど耳が……とんがってる? それに……しっぽ……生えている!?


「そなたが名付けし名、『こがね』だ。それが我が名だ」


「ええええええええええええ!?!?!?」


■回想:名づけの記憶

「うちのこぎつねちゃんに、名前つけよーっと」

「あ、毛の色が金色だし、『こがね』とかでいいや!」


――あかり、小学4年生時のなんとも雑な命名。


■現在

「いやいやいや!どういうこと!? なんでぬいぐるみが人間になってるの!?っていうか服は!?服!!」


「おお、これか?」

こがねは、あかりの毛布をマントのように羽織って仁王立ち。


「ダメ!!それは掛け布団であって、服じゃない!!ってか、下なにも穿いてないじゃん!?!?」


■服を着せてみた

押し入れから中学時代に着ていたジャージを引っ張り出して着せると、

こがねは腕を上げて満足そうに回転した。


「うむ!これが人間の戦装束か!」


「…いや、戦わないし出かけないから!…っていうか外に出ちゃダメ!!近所の人とかに見られたら、間違いなく通報されるし、変な目で見られる!!」


■こがねの日常破壊スキル炸裂

・洗濯機に顔を突っ込んで「水の渦に吸い込まれる儀式」と勘違いし、変な呪文を唱える

・炊飯器を開けて「湯気!これが噂の蒸気の神か!」と大騒ぎ

・こたつに潜って「これは洞窟の神器だな」などとくつろぐ

・スマホで「人間社会の知識を得る!」→検索履歴が『しゃけ 食べ方』『犬との交配 方法』など無茶苦茶に


「こがねーっ!!!それ私のスマホ!頼むからおかしなワードを調べないでくれー!!!」


■しろう(ぬいぐるみ猫)との再会


「あ……しろう……」


あかりがそっと棚の猫ぬいぐるみに触れる。


「うむ、我がかつての同志、しろう!」


こがねは正座し、しろうに向かって軽く一礼する。


「そなた(しろう)もいずれ目覚める日が来ようぞ。あかりの愛情は深いからな!」


「いや、こがねみたいに目覚めなくていいから。マジで」


■そして夜

その日は結局、こがねを家から一歩も出さずに1日が終わった。


夕飯後、こたつの中でくつろぐこがねがふと尋ねる。


「ところで、あかり。部屋で何かやっていたが、あかりは明日、どこかへ出向くのか?」


「……うん。学校だけど?」


「ほう。では、我もお供をしよう」


「来なくていいわ!!!!!!お願いだから来ないでくれ!!!」


あかりの言葉を聞いて、ちょっとガッカリするこがねであった。


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