四次元の向日葵

 ──この世界は、三次元だけど四次元だ。


 僕がそう気づいたのはごく最近のことだった。


 物理的に考えれば、全てのものはxとyとzで表される。それが理科的な真実だ。


 でも、この世界はもっと、奥行きというか、zの次のアルファベットαで表されるものがある。きっと。


 でも、一次元が二次元を理解できないように、二次元が三次元を理解できないように、三次元は四次元を理解できない。だから僕は、この世界が理解できない。


 ただそういう結論だ。と言いたいところだが、僕は一度だけ、四次元をなんとなく理解したことがある。


 それは、あの夏──


 騒がしい蝉の鳴き声が僕の思考を停止させる。


 眼前にはただ一面の向日葵があった。


 隣では彼女が、肩にかかった髪を風に揺らし笑っていた。向日葵のように晴れやかだ。

 

 この夏は僕の人生の頂点、夏の盛りだ。僕でさえ、この向日葵のように輝いていた時代。


 でも、僕の輝きは彼女によるものだった。どこかから大きな手がのびてきて、彼女の光を僕の視界から消してしまった。


 僕は鏡だ。彼女は向日葵だ。僕は、彼女の輝き反射することしかできない鏡だった。


 こんな僕でも、彼女は光を当ててくれた。僕に、ひと夏の夢をくれた。


 初デートで、一緒に行った向日葵畑。ただ一面に、上を見上げる向日葵があり、僕たちはその一部となった。お互いに光を発し、反射しあう世界。


 具体的にこれが、とは言えない。分からない。けれど、それは確かにαだった。


 その畑に行ったら、そこの人が種をいくつかくれた。それを二人で分けて、大切に手に握ったまま家に帰った。


 それをチャック袋に入れ、余っていた綺麗な折り紙でくるんで、彼女からの手紙と一緒に机の引き出しに収納した。いつか、彼女と結婚したら植えようと心に刻んで。

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