ルナとイオ
食事を終え、また二人でアークバギーに乗りマーズさんの家へ向かう。一度イオの様子を見に行こう、と提案しようと思ったのだけど、ジュノー博士の家を出るなりルナがダッシュでアークバギーに向かったので追いかけたら例によって冥王の触手で助手席に縛り付けられてしまったのだ。
「人が歩いてるかもしれないからさ、あんまり速度を出さないでよ」
もう諦めの境地に達している俺は、とにかく人身事故だけは起こさないでくれと願うばかりである。
「大丈夫よ!」
いつもそればっかりじゃないか。確かに今までつのまるしかはねてないけど。いや、つのまるをはねてるんだからダメだろ。
とか心の中でツッコんでいたら、ルナがいつになく落ち着いた口調で話しかけてきた。
「イオのことが気になってるんでしょ? 私に考えがあるから、任せといて。ちょっとケレスにも手伝ってもらうけど」
「あっ、ちゃんと考えてたんだ。姉妹のことだから、ルナが自分で動くなら俺は余計な口出しはしないさ。言ってくれれば何でも手伝うよ」
俺が気にしていたことも、ルナはしっかり把握していたらしい。自由奔放なようで周りのことをよく見てるよな。つい安請け合いしたけど、変なことさせられないよな……?
「さあ、飛ばすわよ!」
「やめて!!」
結局いつものように爆走するアークバギーでマーズさんの家に移動したのだった。歩行者はいなかったけど、つのまるはきっちり蹴散らされた。見かけたらはね飛ばさないと気が済まないらしい。
「よくやったね、アークバギーの改良はすぐにできるよ。先にやることを済ませてきな」
マーズさんは家の前で俺達を迎えると、すぐにまた町に帰るよう促してきた。何も言ってないけど、イオのことでルナが何かやろうとしているのはお見通しなのだろう。
「マーズさんにも手伝ってもらいたいんだけど」
ルナが元気よく手を挙げて協力を求める。なんだ、大掛かりなことをするつもりか? それだけ真剣に妹のことを考えているんだと思うと、カリダの町で感じたモヤモヤが頭の中から消え去っていく。余計なお世話だったかな。
するとマーズさんはニヤリと笑ってルナの頭をグシャグシャと撫でた。
「大丈夫、もう準備は出来てるよ。いつでも呼びな」
さすがの大魔法使いは先回りして準備もしているらしい。何をするのか知らないけど、マーズさんがこうやって協力するなら大丈夫だろう。
「よーし、じゃあ町に戻るわよ!」
そんなわけで、マーズさんの家からすぐにカリダの町までとんぼ返りすることになったのだった。またつのまるが宙を舞っていく。もはや俺もこの光景を受け入れてしまっているのだ。運転席に座ろうともしなかった自分に気付いた時、俺の心に「敗北」の二文字が浮かんでいた。
町に戻ると、たまたま入り口近くで遊んでいたフローラが不思議そうな顔で話しかけてきた。
「あれ〜、ルナさんにケレスさん〜。マーズさんのお家に行ったんじゃ〜?」
「浮遊遺跡に行く前にやることがあってね。ちょっと戻ってきたのよ」
停めたアークバギーの運転席からジャンプで道路に降り立ち、髪をかき上げながら答えるルナである。普通にドアを開けて降りようか。君は一応公爵令嬢だからね?
「イオのやつをボコっておかないと、安心してステラを取りにいけないじゃない?」
えっ、ボコるの?
いや、マーズさんも応援してるんだからそんなことはしないだろう。これは照れ隠しだな。ツンデレは今どき流行らないよ。
「そうなんですね〜、イオさんは宿屋にいますよ〜」
フローラさん? これはルナの照れ隠しに気付いてるんだよね? ボコッてこいとか思ってないよね?
なにはともあれ、俺達三人はイオのいる宿屋に向かった。
「ケレス様、ルナ様、それにフローラ様も。イオ様にお会いになられるのですね」
宿にはニクスがいた。イオの面倒を見るようにルナが言いつけたんだから当たり前だけど、どうやらこの展開になることを予想していたみたいだ。あるいはルナから相談を受けていたのかもしれない。
「イオと決着をつけるわ。呼んでちょうだい」
「さっきからなんなのその言い方。喧嘩しにきたみたいじゃないか」
さすがに徹底した態度が気になったのでツッコミを入れると、ルナは不敵に笑って答えた。
「もちろん喧嘩するのよ。マケマケ公爵家の跡継ぎの座をかけてね」
「ええっ!?」
「喧嘩して仲直りできるといいですね〜」
驚く俺に対して、当たり前のようにルナの言葉を肯定している。ううむ、雨降って地固まるとも言うしな……これも前世の言葉だったか。
そんなことを考えているうちに、気付いたらイオが泊まっている部屋の前に案内されてやってきていた。ニクスが中に声をかけ、扉を開けるとそこには未だ元気の無さそうなイオが立って待ち構えていた。俺達を見ると、そんな状態なのに優雅な所作で挨拶をしてくる。
「ごきげんよう、ケレス様、フローラ。それとお姉様もよくいらっしゃいました」
うーん、これはまだ年齢一桁の女の子にしてはあまりにも立派すぎる。大貴族のご令嬢というのは、それだけでとんでもない存在なんだなあ。隣に例外がいるけど。王子の俺が言うことでもないけど。
するとルナが仁王立ちになってイオをビシッと指差し、口を開いた。
「イオ、今日はあんたを完膚無きまでに叩きのめしてマケマケ公爵家の跡継ぎの座を奪い返してやるわ!」
またそういう攻撃的なことを言う……言われたイオは呆けた顔をしてルナに問いかけた。
「ええと、私自身己の不甲斐なさを痛感しておりますの。マケマケ公爵家の跡継ぎの座も、ケレス様との婚約もお姉様にお返しいたしますわ」
確かにそんなこと言っていたような気がするけど、ちょっと卑屈になりすぎでは? こんなに落ち込んでる妹をルナはどうやって元気づけるつもりなんだろうか。ていうか本当に元気づけるつもりなんだよね?
「そんなの、オヤジ達が決めたことなのにあんたが勝手に言っただけで変えられるわけないでしょ。ちゃんと記録に残る形で公正に勝負しなきゃ意味ないのよ」
これは正論だ。確かに俺達の婚約は俺達の知らないところで父とマケマケ公爵が話し合って決めていた。子供達が勝手に話し合って決めたところで、そう簡単に覆せるものではないだろう。
「勝負と言われましても……いったい何をなさるおつもりですか?」
「決まってるじゃない、貴族としての礼儀作法よ!」
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