遺跡攻略の前に
やれやれ、ひどい目にあった。大量のつのまるをはねたアークバギーには傷やへこみができていないかと確認してみたけど、大丈夫そうだ。さすがに頑丈だな。
あとはマーズさんに鱗を渡してアークバギーを改造してもらえば空を飛んで浮遊遺跡に乗り込めるわけだけど、マーズさんの家に行く前に一度カリダの町に戻ってきた。イオの様子も心配だし、ジュノー博士達にも状況を伝えておきたいからね。
「お帰りなさいませ、ケレス様、ルナ様」
爆音を上げながらカリダの町に戻ってきたので、すぐにニクスが出迎えてくれた。イオの面倒を見てくれていた彼女だけど、なんだか凄く久しぶりに顔を見た気がする。
「ただいま、ニクス。イオの様子はどう?」
ルナはアークバギーから降りるとニクスに声をかける。まずイオの様子を聞くのは、さすがに姉として彼女のことが気になっていたのだろう。性格がねじ曲がってるとか言ってた覚えがあるけど。
「最近はいくらか元気になられまして、時々は笑顔を見せてくださいます」
どうやら少しは心の整理がついたようだ。でもまだ完全に元気を取り戻したわけではなさそうだな。信じていたものが全て打ち砕かれたんだから、そうそう気持ちを切り替えられるものでもないだろう。
「そう、ありがと。じゃあジュノーさんのところに行くわよ!」
「えっ、イオの様子を見に行かないの?」
確か別れた時はジュノー博士の家にいたけど、まさかそこでずっとお世話になってるわけじゃないよね?
「どうせウジウジしてるんでしょ。今はそっちに構ってる場合じゃないし、『アルファルド』を取り戻してやれば元気になるわよ」
うーん、ドライ。確かに『アルファルド』を奪われたのが一番ショックだったっぽいし、カロンから奪い返せば彼女の懸念は概ね払拭できるだろうけど。ちょっと顔を見せて挨拶ぐらいしてもいいんじゃない?
「お気遣いなく、ケレス様。イオ様のことはルナ様が一番よく分かっておいでです」
俺の考えていたことが顔に出ていたのだろう。ニクスが俺に執り成しの言葉をかけてくれた。
「ああ、うん。姉妹のことだから私から何か言うものではないだろうね」
そう答える俺の顔をルナがのぞき込んできた。なんだよ?
「ケレスって、自分のことを僕って言ったり俺って言ったり私って言ったり忙しいわねー」
む、気付いてたのか。ちゃんと相手と自分の立場によって変えてるんだぞ。
「そりゃあそうさ、ヘルクロス王国の第一王子として、自分が取るべき態度というのはいつも考えているからね。ルナの一人称はなんだっけ、『世界を滅亡に導く終焉の大魔王ルナ様』だっけ?」
「言ったことないわよ! 『薔薇のように美しく可憐なルナ様』よ」
「それも言ってないよね!?」
二人で馬鹿なことを言って笑いながら、自分でも気づかされたことがある。そういえば俺はいつの間にかルナと話す時に自分のことを「俺」と言っていた。いつからだったっけ?
そんな俺達を見て、ニクスは何だか考え込んでいる。なんだろう、何か気になることがあるのだろうか。
なにはともあれ、三人でジュノー博士の家を訪ねた。
「やあ、二人とも。修行の成果はあったかい?」
ジュノー博士が出迎えてくれる。このかしこまらない態度、ホッとするなー。やはり実家のような安心感がこの家にはある。実家は王宮だけど。
「ばっちりよ! ほら、ウロコ!」
ルナが得意げにメルクールの鱗を取り出した。興味深そうにそれを見るジュノー博士だけど、研究したいとか言わないでね?
「綺麗なものだね。これがあの古代竜メルクールの鱗なんだ」
「大変でしたよ、あのドラゴン、本当は殺しても死なないのにそれを隠してたんですよ! こっちは殺してしまうのが怖くてずっと頭を悩ませていたのに!」
ここぞとばかりに不満を吐露する。まったく人の心を弄びやがって!
するとジュノー博士は少し驚いたような顔をした後にまた微笑みを浮かべた。
「そうか……メルクールはとてもいい竜だったんだね。素晴らしいことだ」
うん? なんだかよく分からないことで感動しているみたいだけど、とりあえずメルクールの文句を他の人に言えて少しスッキリした。
「ほらほら、そんなところで立ち話をしていないで部屋に入りなよ。お腹は空いてないかい?」
ベスタさんが家の奥から顔を出して声をかけてくる。フローラも一緒だ。
「もうお腹ペコペコよ!」
ルナが即座に反応した。遠慮っていうものを知らない。まあ今更ベスタさん相手に遠慮する必要はないだろうけど。
「いま用意するからね」
お言葉に甘えて俺達も奥の部屋へと上がる。
「ニクスさんも~こちらへどうぞ~」
「わ、私もですか?」
フローラに手を引かれてニクスが戸惑いの声を上げるが、ルナが「いいからさっさと来なさい!」と言って強引にニクスを引っ張り込んだ。マケマケの執事だもんな、色々と抵抗があるのは分かる。良くも悪くもルナは奔放だ。
「イオさんは元気ですか~?」
フローラがニクスに尋ねる。この態度は、既によく知っている相手のことを尋ねる態度だ。俺達が修行している間に接触したのだろうか。
「フローラ様のおかげで以前よりずいぶんと気分が良くなられたようです」
「よかった~」
なんか、けっこう仲良くしてる感じ? でも姉のルナは気にした様子もない。
「今日のごはんはなにかなー?」
全力でベスタさんの料理を心待ちにしている。もしかしたら周りの会話が耳に届いていないのかもしれない。まあいいか、ルナとイオのことは本人同士にしか解決できないし。何気に修行中もイオのことを気にしていたもんな。
「今日はナスとピーマンの肉詰めだよ!」
おおっ、懐かしい。前世で好きだった覚えがある。この世界でもナスとピーマンは同じ野菜だ。トマトだけがおかしいんだ。何故なんだトマト。というか前世のトマトはこの世界には無いのだろうか。
「わー、美味しそう!」
大皿に沢山並べられたナスとピーマン。ナスは半分に切られたものの、更に半分のところに切れ目が入って間に挽き肉が詰められ、焼かれている。ピーマンも半分に切られて空洞部分に挽き肉が詰まって焼かれている。どちらも表面には小麦粉か何かがまぶされているのが分かる。
それぞれ小皿に取るのだけど、ルナが一度に三つずつぐらい取ってる。沢山あるから数は問題ないけど……
「一つずつ取りなよ」
「そんなチマチマしてられないわよ。うんっ、ジューシー!」
流れるように口に運んでいる。その食欲はどこからくるんだろうか。見た目はけっこうスリムなんだけどな。腕で抱いた時も細身だったし……おっと。
戦っている最中に何度かルナのことを抱きかかえた記憶が蘇ってきた。冷静に思い返すと、凄い密着度だったな。あの時の感触がリアルに思い出される。細い腰、滑らかなお腹、柔らかいお尻……いかんいかん!
「ケレスさんどうしましたか~? お顔が赤いですよ~」
「疲労でお熱でも出たのではないですか? 少し失礼いたします」
フローラが俺の様子に気付くと、ニクスが本気で心配して俺の額に手を当てて熱を測ろうとしてくる。
「いや、大丈夫! 大丈夫だから!」
焦って拒否する。理由はよく分かっているから、変に調べられると色々と困る。
「うーん、おいしー!」
そんな俺達にも構わず、ルナは料理をパクついている。ぐぬぬ、誰のせいでこうなっていると!
……いや、どう考えても全面的に俺が悪かったです。不埒なことを考えて申し訳ございません。
「ふふっ、賑やかだねえ」
「子供が沢山できたみたいで嬉しいわ~、イオちゃんの分も取り分けておきましょうね」
騒がしい食卓を眺めてなんだかほっこりしている大人達である。まあ、これからついにあの浮遊遺跡へと向かうわけだし、今ぐらいは穏やかに過ごしておきたいよね。
あそこにはカロンがいる。『アルファルド』だけが相手なら、もう負ける気はしないけど。もし先を越されて『ザ・サン』を手に入れられてしまったら。
それだけじゃない。何故だかよくわからないけど、あの遺跡にはもっととんでもない化け物が潜んでいそうな嫌な予感がある。マーズさんもなんかそんなことを言っていた気がするし。
命を落とす危険性はこれまでよりもずっと高いだろう。だから、悔いの残らないようにしっかりと準備していく必要があると思う。
となると、俺以上にやっておかないといけないことがあるよな? ルナ。
無邪気にナスとピーマンの肉詰めを口に放り込んでいく少女の姿を見て、やはりちゃんと話をしてもらおうと心に決めるのだった。
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