閑話:凶星のスペクトル(前編)

 今から千年以上前の世界、ヘーラル人の支配する大地で生活していたアールデ人は、ヘーラル人が作ったステラやそれを真似て作られたマギを利用して空に浮かぶ星の力を借りて魔法を使っていた。


 だが、ごく稀に星の力をその身に宿して生まれる者がいた。それらは皆生まれた瞬間に魔力で自分の体を発光させるため、すぐにその光のスペクトルを解析し、どの星の力を宿しているかを調べ、アールデ人の大人達はその子に星の名をつけて「星の子」と呼び崇拝の対象にしていた。


 しかし、アールデ人達を支配するヘーラル人の間にはある伝承があった。それが彼等の文明に悪しき影響を与える五つの凶星の話。凶星のスペクトルを身に宿して生まれた子は「凶星の子」と呼ばれヘーラル人の手によって処分されるのが習わしだった。


 ある時、アールデ人の町に星の力を宿す一人の女の子が生まれた。スペクトル解析の結果、その子が身に宿していたのは火星の力で、彼女は星の名を継いでマーズと名付けられる。


 だが重大な問題が一つあった。その火星はヘーラル人が忌み嫌う五つの凶星のうちの一つだったのだ。


「凶星の子が生まれたそうだな」


 髭をたくわえたヘーラル人、メルキオールがその町にやってきた時、アールデの民は町ぐるみで彼に反発した。五つの凶星が文明を滅ぼすと言うが、ヘーラル人がアールデ人に滅ぼされることなんて考えられないと。


「我等アールデの民は多くのものを貴方がたヘーラル人に差し出してきました。この上民族の宝である子供まで奪わないでください」


「そうか……ではここにいる全てのアールデ人を殺そう」


 メルキオールがアールデ人達の訴えに耳を傾けることなど無く、即座にステラを取り出した彼の行動に人々は目を疑うが、マーズの母親はとっさに我が子へ魔法をかけた。


 ほんの数秒後、町は焦土と化し地図から消える。町ごと焼き尽くしたメルキオールは凶星の子を葬ったと思い帰っていくのだが、その時マーズは遥か遠くの地にいた。彼女の母がかけたのは転移の魔法で、とにかく我が子を助けるための遠い所へと飛ばしたのだ。ただ、とっさのことで行き先を決める余裕が無かった。


 凶星の力を宿す赤子が飛ばされたのは、竜の巣だ。周囲に人などいるはずもない、恐ろしい竜達の住処に現れたその子は魔力の光を放ちながら泣き声を上げる。


 どうしたことかとやってきた竜達は突然現れた人の子の扱いに困るが、彼女が星の力を宿していることに気付いた老竜が一頭の若い黒竜を呼ぶ。


「メルクールよ、星の力を持つ者同士、お主がこの人間の面倒を見るのだ」


「ええっ、人間の育て方なんて分かりませんよ」


「竜の育て方なら分かるのか? 知らぬことは調べればよい」


 単に面倒を押し付けているだけなのはその場にいる誰もが分かっていたが、代わりに面倒を引き受けてやろうと思う者も無く、集まった竜達は若いメルクールに「頑張れよ」と言い残してそそくさとその場を離れていくのだった。


「まったく、薄情な連中だ……おお、よしよし。こうなったからには俺が責任をもってお前を育ててやるからな」


 まだ体の小さな竜のメルクールが、もっとずっと小さな命を壊してしまわないように恐る恐る尻尾の先で頬を突くと、赤子はキャッキャと笑い出した。星の力によるものか、どうやらこちらの言葉が分かっているらしい。


「包み布に名札がついているな……マーズか。そうか、お前は『凶星』ゆえにあのヘーラル人から逃れてきたのだな。よし、決めたぞ。お前をヘーラル人にも負けない最強の魔法使いに育ててやろう!」


 こうして、赤子を抱えた若き竜の、安住の地を求める長い長い旅路が始まるのだった。


◇◆◇


 数年が経ち、元気な盛りの幼い女の子と少し体の大きくなった黒竜は北の大陸、後にノヴァリア共和国と呼ばれる地にやってきていた。


「あれがコスモリンクだ。星の力を集めてヘーラル人を不老不死にするステラだが、あれは俺達がこうやって立っているこの星の力も吸い取っている。しばらくすればこの星ごと全ての生物が死滅するだろう。賢いつもりのヘーラル人どもはそんなことにも気付いていないがな。迂闊に近づくなよ、ヘーラル人が常に監視しているからな」


「あれをぶっ壊せばいいんでしょ? どれくらい強くなったらできるの?」


 幼いマーズは血気盛んだが、今の実力ではヘーラル人に太刀打ちできないことはよく理解している。二人して星の力を使う練習をしながら旅してきたのだ。現状把握は常に最優先事項だった。


「ヘーラル人は強力だ。一匹ぐらいならあと数年もすれば俺達で力を合わせれば倒せるようになるかもしれないが、ここを攻め落とそうと考えたら数百年は修行しないと無理かもな」


「ドラゴンじゃないんだから、そんなに長生きできないよ。それにその前にこの星が滅びるんじゃないの?」


「この星が滅ぶのはもう少し先だな。ヘーラル人は星の力で何千年も生きるぞ。その気になればお前も長く生きられるはずだ」


 二人はこのコスモリンクを破壊してヘーラル人の文明を滅ぼすことを目標に定めると、その場を立ち去った。そう遠くない未来に別の凶星が破壊することになるのだが、その時にはもう二人は別の大陸で新たな生活を始めていたのだった。


 二人は各地を転々とし、ついには現在の住処であるカリダの町周辺へとたどり着いていた。この時には既にプルートがこの町でヘーラル人を殺害しヘーラル人を滅ぼすために旅立った後で、混乱している町にこっそりと忍び込むことに成功した。


「プルートという凶星の子がヘーラル人と戦っているようだ」


「協力してあいつらと戦えないかな?」


「プルートはステラの力を奪う使い手だ。いま駆けつけても足手まといになるだけだろう。どうせプルートもいきなりコスモリンクを破壊しに行ったりはしないだろうし、ここで情勢を見守りながら力をつけ、彼女がコスモリンクを攻める準備を始めたら名乗り出ればいい」


 このメルクールの見通しは外れて、少し未来にプルートは単身コスモリンクに乗り込んでしまう。その事を二人して悔んだりもするのだが、プルートが命を落とし、コスモリンクの力が失われた後のヘーラル人の行動を観察し、新たな目標を立てることになるのだ。


「さて、俺は目立ちすぎる。町の中で暮らすのは無理だな」


「じゃあ町の近くに隠れ住もうよ。ちょうどいい具合に森が広がってるし」


 二人で話し合い、町の隣に広がる大森林に魔法で家を作ったマーズとメルクールは、しばらくそこで暮らすことになる。

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