古代竜との戦い、決着

『ここまでよく頑張った。最後の勝負といこうではないか』


 メルクールがルナの魔法を解除し、強く羽ばたいた。タイムリミットはあとわずか。あちらもこれを最後の攻撃と決めたみたいだ。俺はルナに目配せし、その背中に回った。ここは彼女を全面的に信頼する場面だ。余計なことは何も考える必要がない。


 ルナは必ずメルクールの攻撃を防いでくれる。黒いいばらはずっとメルクールの身体に巻き付き、魔力障壁の展開を妨害し続けている。だからあとは俺がやつにトドメを刺すことだけに集中すればいい。


 メルクールが身を捩ると、俺達が立っている台地を埋め尽くすほどの火炎竜巻が巻き起こる。移動して避けることはできない。ルナは黒いいばらをドーム状に展開して俺達二人を荒れ狂う炎から守る。


 メルクールは構わずこちらに突進してくる。巨体での体当たりだ。ルナは目の前に次元断絶を発動し、真っ向から受け止めた。俺が回復以外の行動を取らなくていいように、全ての攻撃をこの場で防ぐ気だ。だがもちろんそう簡単ではない。メルクールが尻尾を振って横薙ぎに攻撃してくると、今度はルナが俺を抱えて飛び上がる。


『いい粘りだ。だが手は抜かない約束だからの』


 メルクールが空中の俺達に向けて口を開くと、その中に凄まじいエネルギーがたまっていく。説明が無くても感じ取れる。これは今までの火球とはわけが違う。全身全霊を込めた竜の吐息ドラゴンブレスをここで放つつもりだ。


 とっておき、というより最後の手段とでも言うべき、後を考えないフルパワーの攻撃手段。それこそ古代竜が己の命を燃やして繰り出す究極かつ最期の一撃。目の前に次元断絶を展開しているのに、次元の壁すらぶち抜いてしまえるだろうと、根拠はないが確信した。


 本来なら永遠に使う予定のなかった禁じ手だったのだろう。そんなものを使わせる状況を生んだ元凶である申し訳なさと、嘘偽りなく本気で俺達と戦ってくれていることへの感謝が湧き上がってきた。


「……ケレス、あとどれくらい?」


 ルナもこの攻撃を真正面から防ぎきることはできないと判断したのだろう。俺の状態を聞いてここからの行動を決めようという思惑と、恐らく俺に対する期待が込められている。


「もう十分だ」


 その肩に手を置き、今まで守ってくれた彼女を労った。


「光彩!」


 自分の身体に星の力を集める。背中に生えた翼で飛びルナから離れ、光の大剣を両手で構えた。メルクールの口から放たれようとする膨大なエネルギーの塊を見据える。


 ここは、アレに突っ込むべきだよな……たぶんあっちの攻撃前に斬れるんだけど、この状況でそれは無粋じゃないか。でも確実な勝利を考えるなら先手を取った方がいいんだろうし。


 この期に及んでしょうもないことに頭を悩ませていると、自分の中にもっと大きな力が流れ込んでくるのを感じた。


「……そうか、お前もそう思うんだな」


 剣がさらに大きくなる。メルクールが目を少し細めるのが見えた。あれは、笑った?


「いっけええええ!!」


 古代竜の口から吐息が放たれるのと同時に、俺は思いっきり剣を振り下ろした。


 メルクールの口から放出されるエネルギーの奔流に光がぶつかり、一瞬抵抗を感じる。だがそれはすぐに消え、星の力を集めた光の大剣は古代竜の吐息を二つに切り分けて進み、そのまま勢いよくメルクールの頭に叩き込まれた。


「やったーっ!」


 ルナの声がなぜだか妙に遠くから聞こえる。あれ、なんか……身体に力が……。


◇◆◇


『まったく、世話の焼ける小僧だ』


「あれっ、生きてたの!?」


 気がつくと、俺はメルクールの尻尾の先を枕にして地面に寝かされていた。まあ、力尽きて気絶したんだろうということは分かるのだけど、メルクールが何ともない様子なのが気に入らない。確かに全力で斬りつけたんだけどな……真っ二つになっててもおかしくないはずなんだけど。


『ファーッファッファッファ、儂の身体を見てみろ、傷一つないだろう』


 傷一つない……? いや、大きな傷がついてたよねと思って前足の付け根から背中あたりを見ると、本当に傷一つないツヤツヤの鱗に覆われていた。


「なんで!?」


 もしかして物凄い修復能力があるのか? だから長年生きてても傷が付いてなかったのか。


「これも魔法よ。メルクールはちゃんと一回死んでるからケレスは気にしなくていいわよ」


 ルナが説明してくれる。ちゃんと死んでるっていうのも、あんまりいい気分じゃないんだけど。生きててくれた方が嬉しいからさ。


再誕リバースって魔法を事前に仕込んでおくと命を落とした瞬間に身体がセーブした時の状態に戻るのよ。ステラでもないと人間には使えないけど」


 なにそれ、ズルい! じゃあメルクールは最初から死んでも平気な状態だったんじゃないか。知ってたらあんなミスもしなかったのに!


『ファッファッファ、ちゃんと命を取ってもらわなかったら最初の傷がずっと残るところだったわい。お主はやれると信じておったがな』


 不満を顔で表明していると、メルクールが器用に尻尾の先で俺の頭を撫でてきた。


『もしこのことを最初から知っておったらお主は軽い気持ちで攻撃できただろう。だがそれでは意味がないのだ。知り合いが相手でも、必要であれば自分の感情を抑えて確実に仕留める心の強さを持ってもらわねばならなかった。モンスターですら可能な限り殺さずに済ませようとする過度な優しさが、お主の最大の弱点なのだからな』


 うっ、なんでそれを知ってるんだ。確かにモンスターも倒す必要がなければ放っておくタイプだけど、そんなに見透かされてたのか。


「そんじゃ、ウロコも貰ったしさっさと帰るわよ」


 ルナがどこからともなく大きな漆黒の鱗を取り出した。それどうやってもらったの? ブチッと抜いてきたの?


『うむ、お主らはこれでやっと遺跡探索のスタートラインに立ったのだ。あの浮遊遺跡には恐ろしい敵が待ち構えておる。決して気を抜くことの無いようにな』


 メルクールに見送られ、またアークバギーに……


「って、ちょっとまった! 帰りは俺が運転するから!」


「なに言ってんの、病み上がりは大人しく座ってなさい!」


「ルナの運転じゃむしろ具合が悪くなるだろ!!」


 ルナがまた強引に運転席を占領してしまった。どかそうとすると触手で後部座席に縛り付けられた。やめろー!


『ファーッファッファッファ! 達者でな』


「しゅっぱーつ!」


「うわあああ!」


 感動的な雰囲気の欠片もないままメルクールと別れ、俺達は騒々しく町へと戻るのだった。つのまるは可哀想だからはねないであげて!

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