終わる世界の幕間――赤


 蒼太寝ちゃった。ずっと看病してくれてるから、疲れちゃったんだね。

 寝てる蒼太を見てると、出会った日のことを思い出してちょっと胸がザワザワしちゃう。あの日、ミィがバイクに轢かれそうになってるところを助けてくれたのが蒼太だった。事故で片目が潰れちゃって片方になった目で、ミィを抱きかかえたまま気絶してる蒼太の顔を見てた。

 だからミィは蒼太の顔を見た瞬間、蒼太だって判った。雰囲気が変わっちゃってても、ミィには簡単だった。でも、蒼太はそうじゃなかった。ミィのこと、すっかり忘れちゃってた。

 あのとき離れなかったら、こんなことにならなかったのかな。でもあのときミィは動けなくて、蒼太はやってきた大きな白い車――そのときは何か判らなかったけど――に乗せていかれちゃった。

 ミィも他の人に連れてかれた。同じ服を着てた人のこと、蒼太がケーカンって言ってたから、あの人もケーカンだったんだと思う。だけどミィを追いかけてきた男の人と違って優しそうな人だった。血に濡れた鈴付きの紐を、蒼太の落とし物だって判らなかったんだと思う、ミィにくれたりした。

 蒼太がよく言ってる通り、人間って怖い。悪そうな人には見えなかったのに、気が付いたらミィはオリの中だった。

 ここまで思い出したらいつも悲しくなっちゃう。考えごとしてたら眠くなるかなと思ったけど、頭はフワフワするのに全然眠くならない。さっきのでびっくりしちゃったからかな。血を蒼太に見られて怒られるかなって思ったけど、怒られなくてよかった。なんか真剣な顔していろいろ教えてくれたし、やっぱり蒼太は優しい。

 ごめんね、蒼太。蒼太が先生たちと仲良くできないのは、ミィのせいだって判ってる。だけどミィを助けたことで不幸になったんなら、思い出したら嫌われちゃう。

 これからもずっと思い出さないでいてほしいって隠しごとを続けるミィは、悪い子だよね、蒼太……。


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