第7話 澱む廃墟の先
ヴォルクスは風を切り裂く音もなく、音速を超えているはずなのに静かに高度を下げていく。眼下に広がるのは、都会の光とは無縁の、闇に沈んだ山々の連なりだった。やがて、森が途切れた無人の造成地のような場所に、ゆっくりと着地した。その巨体に似合わず、羽毛が地面に触れる音さえしない。
俺はヴォルクスの背から転がり落ちるように地面に降り立つと、新鮮な空気を求めて激しく咳き込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ…!おい、死ぬかと思ったぞ…!」
「ヤワだな、コマンダーは。これくらいで根を上げるなよ。」
ミアは軽々と飛び降り、ブーツの底で地面を踏みしめた。
その時、闇の中から拍手の音が響いた。
「ブラボー。無事の到着、何よりだ。」
声の主は言うまでもない。いつの間にか俺たちの前に、紳士ルクスが佇んでいた。背後には、まるで巨大な墓石のように、月光を鈍く反射する古びたビルがそびえ立っている。
周囲の自然から完全に浮いた、異様な存在感。窓は黒く塗りつぶされ、壁には蔦が絡まり、廃墟となってから長い年月が経っていることを物語っていた。
「ここが…神流町か?」
俺の問いに、紳士ルクスは満足げに頷いた。
「そうだ。そして、あれが今夜、君が“今から見にいく”場所だ。」
俺は月明かりを頼りに廃墟のビルの様子を伺った。
「ん〜。一眼見ただけで、立ち入ってはいけない事が分かるぞ。ここはダメだ。俺は絶対、入らない。」
紳士ルクスが驚いた表情で俺を見ていた。
「君、面白いこと言うねぇ〜。私は霊感がないせいか。全く分からないぞ。」
ミアが左目を押さえて廃墟ビルを凝視していた。
「やっぱりか。ルクス。あんたが言った通りだ。」
紳士ルクスが応える。
「ミア。覚悟を決めるんだね。私は導くだけだ。契約により干渉することは許されていない。」
俺は2人の会話がチンプンカンプンだった。
「おい、ミア。何か知ってるのか?」
俺がミアに問いただすと、静かに応えた。
「リアが…いる…。」
俺たちがビルに足を踏み入れた瞬間、外の生暖かい夏の夜気とは別世界の、突き刺すような冷気が肌を撫でた。内部は外見以上の荒廃ぶりで、床には瓦礫が散らばり、空気が重く澱んでいる。そして、妙な違和感があった。視界の端が、まるで陽炎のように僅かに歪んで見えるのだ。
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