第一章:絶望の戦場

緑豊かな森が、腐臭と血で汚れていた。


蘭丸は山本翔太、佐々木美咲(35歳)、高橋悠斗と共に、ウォーキングデッドの群れを避けながら移動していた。

手には粗末なナイフと木の棒。銃は弾が尽き、希望も薄れていた。

空は灰色に染まり、時折聞こえるうめき声が恐怖を増幅させていた。


木々の間から、死体の腕が伸びてきた。爪が折れていた。

「右から来るぞ!気をつけろ!人数が多いぞ!後ろもだ!」翔太が叫び、棒を振るって一匹を叩き潰した。


骨が砕ける音が響いた。

血が飛び散った。


だが、その隙に別の死体が美咲に飛びかかった。

「やめて!助けて!近づかないで!汚い!」美咲が叫び、ナイフで抵抗したが、腕を噛まれてしまった。

「あっ…痛い…誰か…助けて…お願い…」彼女の声が弱まり、血が地面に滴った。


蘭丸は涙を堪えながらナイフを突き刺した。

美咲の瞳が虚ろになり、静かになった。血が彼女の服を染めた。

「美咲さん…ごめんね。仕方なかったんだ。本当に…ごめん…。君の笑顔、忘れないよ…」蘭丸の声は震えた。


彼女の手が血に染まり、ナイフを落としそうになった。

悠斗が肩を叩き、「生き残るためだ。後悔するなよ、蘭丸。美咲さんもそう望むはずだ。彼女の分まで頑張ろう。約束だ」と励ました。


しかし、彼の目にも疲れが滲んでいた。

唇が乾き、震えていた。

手が震えた。

「このままじゃ全員やられる。どこか安全な場所を探さないと。蘭丸の言う研究施設、頼みだ。もう他にない。」翔太が提案した。


蘭丸は頷き、「研究施設の噂を聞いたことがある。

そこなら何か手がかりがあるかも。行ってみよう」と付け加えた。

彼女はタブレットを手に持つと、地図を指差した。

座標を読み上げた。

「本当にそんな場所あるのか?希望的観測すぎるだろ。こんな状況で幻想に縋るのは危険だ。死ぬぞ。現実を見ろ。」悠斗が疑念を口にした。


彼の声は若さとは裏腹に、老人のような疲労を帯びていた。

手が震え、ナイフを落としそうだった。

「あるよ。データに載ってた。信じて。ここだよ、見て。この座標、正確だと思う。間違えないよ。」蘭丸は地図を悠斗に見せ、懇願するように言った。


翔太が「なら、行くしかないな。リードしろ。だが、道に迷ったら即引き返せ。命がけだ」と頷き、チームは動き出した。


足跡が泥に残った。

数日後、群れを撒いて廃墟の街にたどり着いた。

崩れたビルと車が散乱し、風がゴミを舞わせていた。鉄の扉を見つけた。

「ここだ!やっとだ!希望が見えた!」悠斗が興奮気味に言った。


錆びたハンドルを回し、軋む音と共に扉が開いた。

中は無人の実験室だった。

培養液の入ったカプセルが並び、その一つに村雨佳輝が浮かんでいた。


緑色の液体の中で、彼の顔は穏やかだった。

蘭丸の心臓が跳ねた。

息が止まった。

「佳輝…!生きてる!やっと会えた…信じられない…。君の笑顔、ずっと待ってた…」蘭丸が駆け寄り、データを確認する。


ウイルス対策の薬が注入されており、復活の可能性が示されていた。

「これだ!佳輝を戻せる!絶対に!見て、この数値!信じて!」彼女の声に希望が戻り、涙が頬を伝った。タブレットを翔太に見せつけた。


グラフを指差した。

「本当に動くのか?危なくないか?もし失敗したらどうする?佳輝が暴れたら全員終わりだ。考えろよ。」翔太が慎重に尋ねた。


彼の目はカプセルを警戒し、ナイフを握り直した。手が汗で濡れた。

「リスクはあるけど、試す価値はある。信じて。データに書いてあるんだから。この薬、ウイルスの活動を抑える効果があるって。チャンスだよ、翔太。君も信じてくれ。」蘭丸はタブレットを翔太に近づけ、説明を始めた。


数値を一つ一つ読み上げた。

「わかった。なら、やってみよう。悠斗、装置を起動しろ。だが、異常があれば即中止だ。命がけだぞ。」翔太が指示を出し、悠斗がキーボードを操作した。


機械のブザーが鳴り、培養液が動き出した。緑の液体が揺れた。

数時間後、カプセルが開き、佳輝が目を覚ました。

液体が流れ出し、彼の体が震えた。

蘭丸は息を止めた。心臓が早鐘を打った。

「蘭丸…どこだ?何が起きたんだ?頭が…ぼんやりする…何だこれ…助けて…」彼の声に、蘭丸は涙を流した。


「佳輝!生きてて…!ここは研究施設だよ。助けに来たんだ!ずっと探してた!信じてたよ!君の声、聞きたかった…」彼女は彼を抱きしめ、温もりを確かめた。佳輝の体は冷たかった。


心音が弱かった。

「ありがとう…でも、頭が…変だ。何かおかしい…また…あんな気分が…怖い…」翌日、彼の目が虚ろになり、ウォーキングデッドの兆候を見せた。

「自分…変だ…ごめん…蘭丸、近づくな…危険だ…殺すかも…」佳輝は自覚し、蘭丸から距離を取った。


手が震え、歯がカチカチと鳴った。

唾が垂れた。

「大丈夫。君はまだ私の佳輝だ。頑張って。絶対に戻るよ。信じてるから。君の笑顔、忘れないよ。」蘭丸は彼を監視しつつ、仲間として受け入れた。


佳輝は雑用や戦いに参加したが、時折理性を失い、襲いかかることもあった。

「危ないよ、蘭丸!止めろ!あいつは危険だ!また暴れるぞ!殺される!」翔太が叫び、ナイフを構えたが、彼女は「信じてる。佳輝は戻る。信じて。見ててくれ。君も昔の仲間だろ」と反論した。


涙が溢れた。「俺、役に立ててるか?こんな状態で…みんなに迷惑かけてる…ごめん…」佳輝が弱々しく尋ねると、蘭丸は「もちろん。君がいなきゃ無理だったよ。ありがとう。みんなも感謝してるよ。美咲さんも見守ってくれてるよ」と励ました。


美咲の死後、チームの結束は弱まり、緊張感が増していた。

夜ごとの襲撃で、睡眠もままならなかった。


食料も尽きかけ、腹が鳴った。


<つづく>

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