第十二章-日本の地にて
あの悪夢から2年が過ぎ、OSSのエージェントとして私は日本の研究機関に身を置くことになった。
ルーズベルト大統領の命を受け、設立されたこの組織の長はウィリアム・ジョセフ・ドノヴァン通称:"ワイルド・ビル・ドノヴァン"アメリカのスパイ機関の父と呼ばれる存在だ。
マーガレットさんには反対されたけど、私は日本と言う国を...民族を知りたかった。
私に与えられた任務は日本が現在進めている、原子爆弾開発計画。
二号研究、原子爆弾と呼ばれる悪魔の兵器...
その開発状況を本国に送ることだ。
その中心人物である
ハワイ大学マノア校で理論物理学と数学を受講していた私を湯川秀樹は喜んで迎え入れ、日本に身寄りのない私の世話をまるで兄のように色々とやいてくれた。
湯川秀樹が1935年に世界に向けて発表した中間子理論は私も驚いた。
彼は陽子と中性子の間には、電子より重く陽子より軽い粒子がやりとりされていて、それが「核力=強い力」を伝えているのでは?と考えた。
その粒子の質量性から付けられた名は「
この発想は原子核の構造を理解する土台になったと同時に、その力を開放する鍵ともなってしまった。
「仁科のもとで、朝永が静かに黒板へと数式を走らせる姿を初めて見た時、私は背筋が震えた――この国にも“原爆を造れる頭脳”があると。」
湯川秀樹も師と仰ぐ
私が掴んだ情報によると日本は岩手県大槌町の志和鉱山と、朝鮮半島ーー特に慶尚北道や平安南道や満州で、ウラン鉱床を発見し採掘を開始しているようだ。
信じられない話だが、仁科研究室や陸軍登戸研究所では放射性物質を扱っているにも関わらず、適切な防護手段がない中で作業が行われている。
研究者や技術者の内部被曝が現在多く確認されている由々しき状況だ。
これは日本陸軍の資料「ウラン鉱試掘報告書」でも確認したので日本が人的被害を出しながらも核分裂物質であるウラン235とプルトニウムの確保を進めているのは確実と言える。
しかし、原爆の製造に必要な「工学的技術」――特にウラン濃縮、爆縮技術、精密機器製造、そして軍内部の当計画への不理解による大きな資金不足...
以上により研究開発は難航しているようだ。
日本は悪魔の兵器を手にすることは難しい。
そう結論づけた時、私は何故かとても安堵した。
それはアメリカやその同盟国への脅威が低下したからなのか、自分の中に流れる血と同じ民族の狂気的行動が一旦ストップすることへのものなのかーーー私にはまだ分からなかった。
私の故郷を焼いた日本と言う国が、更なる狂気を手にしようとしていることに怒りを覚えたが、その反面湯川秀樹のようにどこの誰とも解らない私に親身になり世話をやいてくれる親切な人もいる。
日本人はみんないい人だった。
京都にある湯川の研究室にいる間、私がアメリカ帰りだと言っても敵意を向けてくる人は一人も居なかったし、京都の街並みも初めて感じる四季もとても鮮烈で祖父と祖母の言う日本を私に感じさせてくれた。
今が戦時中でなければと私もこの国を愛せたかも知れないーーー
日本は敗戦の道を歩み続けている。
それはこの町の人や国民が願っている訳では決してないのに。
国が病んでいる、誰かが止めないと。
そう思っていた矢先もう一人の天才、真木健一郎が現れた。
彼が天才であることは湯川秀樹もよく理解していたと思う。
彼は湯川秀樹と少し似ていて少し違う。
とても論理的で科目で無口な所はそっくりだけど、湯川秀樹と違ってとても野心家。
飲み物の趣味も湯川秀樹はお茶が好きで真木健一郎はコーヒーが好き。
私は紅茶が好きだから研究室には3つの飲み物とチョークの臭いが混ざって独特の臭いがいつもしている。
湯川秀樹に届かない自分へのフラストレーションをいつも抱えてて、時々とても辛そうな表情を浮かべるのはもう見飽きた。
私は湯川の助手として日々研究室に立ち会っているからこそ、二人のことが少しだけ分かる気がする。
湯川秀樹は真木健一郎の天才性を見抜いていて、その殻の脱ぎ方を、開花のさせ方を伝えようといつも試行錯誤して時々自分の研究をそっちのけで彼を見てる。
日本の地にてーーー
私は二人の天才に会った。
和を尊しとして、地位や名声に無頓着な湯川秀樹
自らの才能に気付かず、それでも足掻き何かを掴もうとする真木健一郎
この国を...世界を戦争と言う病から救う為、
どちからを本国アメリカに連れて行こうと私は決めた。
重力糸-グラビティースレッド 笹崎.A.弘樹 @sasazakihiroki
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